ナガコと撮影ギークたち(2)「片平長義 後編」

ナガコと撮影ギークたち(2)「片平長義 後編」

林 永子
林 永子 (ID273) 公認maker 2014/07/01
0

(1)「片平長義 前編」
https://media.dmm-make.com/item/1205/


前編に引き続き、インタビューゲストは写真家であり、ムービーカメラマンとしても大活躍の片平長義さんです。後編では撮影現場のエピソードに加え、彼のパーソナリティーに迫ります。

片平長義(カタヒラ・オサヨシ)プロフィール

フォトグラファー、映像カメラマン。1996年スタジオ109入社。2001年よりフリーランスのフォトグラファーとして広告、CDジャケット、CM、MVなど、幅広く活動する。2001年笹川財団主催 SSF アワード特別賞受賞。 2013年N・E・Wに参加。代表作にXperia series CM、SEIKO X IAAF世界陸上モスクワ篇 movie、グリコ広告、JUJU CDジャケット写真等多数。

虫の目レンズで撮る6K映像

——前編でも片平さんがFacebookにあげていた面白機材写真を紹介しましたが、中でも私が一番気になっていたのは、このとても長いレンズの写真なんだよね。

虫の目レンズだね。要は『National Geographic』とかのNature系で、カマキリとか昆虫とかと同じ目線で撮る時、近くまで寄れるレンズ。普通のレンズは大きいから、微小な被写体に近づいた時にアングルに傾きが出るでしょ。これは長細いから、低いアングルにも入れる。たとえば土を掘ったりしてカメラを埋めちゃえば同じ目線で寄れるから、虫の目レンズって言うの。カメラはREDのEPIC DRAGONで、6K撮影した。

——今、4Kの作業もまだまだ追いついていないみたいだけど、6K敢行するのすごいね。

NHKエンタープライズの仕事でね。この虫の目レンズを使った撮影では、6Kの撮影素材をPabloで4Kカラコレ、8Kにリサイズして出す。今は確かに4Kで作業するのも困難だけど、機材によっては可能なこと。

©NHKエンタープライズ

——実際の映像の写真だけど、ものすごいきれいだね。これはすごい。花と草木と昆虫と魚、ミニマルな世界だけどダイナミック。

このミニチュアを撮るにはこういうレンズじゃないと撮れない。小さな蛇も、普通のレンズで撮ると、ただ小さい被写体を撮っているだけになっちゃって意味がないからね。大きいレンズを使うなら、山に行って本物の風景を撮ればいいし。

——これは低い目線を撮るために、舞台を上げているの? 堀り下げたの?

撮影台があって、その上にミニチュアセットが設置されている。下には水槽が付いていて、前後のセットが撮影に応じて動かせたり、水槽が取れるようになっていたり、セパレートできるように作ってある。

©NHKエンタープライズ

——お花の使い方がいいね。

花はフラワーアーティストの東信さん。俺は自分の作品撮りでもずっと花を撮っているので、東さんのことは以前から知っていて、会えて嬉しかった。このプロジェクトは実は2パターンあって、1つは東さんの花で6Kのミニチュアの世界観。もう1つは、NHKとアストロデザインが開発した8K専用の撮影機材で、日本料理の職人が調理しているところを撮影したの。

——本物の職人さんなんだ。

そう。銀座の「六雁」っていうお店の大将。年は四十歳くらいで、その世界ではちょっと狂ってるって有名な人(笑)。自分でも「俺、狂ってるって言われるんです」って言ってた(笑)。食に関しては伝統を守りつつ、器とかで創意工夫を凝らしていて。ガラスの器を使ったりね。2つとも共通しているのは、ある世界に精通していて、でも一筋縄ではいかないことをやっている人をピックアップしている点だね。

©NHKエンタープライズ

写真表現のライフワークとムービーの仕事

——とにかく多忙な片平さんですが、ここで改めてこれまでの経緯を伺いたいと思います。カメラマンになったのって、いつ頃から?

2001年。それまで目黒のイメージスタジオ109で4年半働いて、本当は次のステップとして活躍しているカメラマンのアシスタントになるのが理想の流れなんだろうけど、俺は、そうじゃない方向でやってみようと思って。もうちょっと修行した方がいいタイミングだったけれど、ちょうど2001年で区切りも良かったし、21世紀デビューしたいというふざけた目論見で独立した(笑)。この世界は免許もいらないし、言った者勝ちだから。

——当時は営業とかしたの?

最初は仕事なんて何もないからね、苦手だけど俺なりにはしたよ。充実していないけれどブックを作って、109で知り合ったアートディレクターに持って行ったり。その中でも勇気あるアートディレクターが仕事を振ってくれて。

——ずっとフリー?

そうフリー。去年からはN・E・Wに所属してるけど、一本独鈷でやっていこうと思っていた。群れることに興味もないし、誰かに守ってもらおうとも思わなかった。でも、よく仕事をしていたN・E・Wのディレクターの長添雅嗣が「1人でやりたいタイプだとは思うけど、一緒にやらない?」って言ってくれて。N・E・Wには他にカメラマンが所属していなかったし。ほら、俺、カメラマン嫌いだから、他の人が所属していたら絶対入らなかった(笑)。メンバーの個性も職種もばらばらで面白いアーティストたちだったから、参加しています。

http://vimeo.com/83915640

——今、仕事ではスチールもムービーもたくさん撮影しているけど、写真家としても活動してるよね。

そう。こういう花の作品を撮っています。

——うわー!めちゃくちゃきれい!

4×5の大判カメラで撮影してるの。これはピントが2mmくらいしか合わない大昔のレンズを使っていて、デジタルでは絶対に出せない。100点作品撮りしたら個展を開催しようと思ってる。

——この作品の一連のテーマは?

俺の中では「静の動」。止まっているんだけど、よく見ると動きが見えるし、生きてるし、花にも撮るべき瞬間があるってことだよね。

——なるほど。それにしても、めちゃくちゃ繊細だよね。マグロ釣ってる人(前編参照 https://media.dmm-make.com/item/1205/ )と同一人物とは思えない(笑)。

そう、俺、けっこう繊細なんだよ(笑)。尊敬しているアートディレクターの牧鉄馬さんにも、「おまえは実はすごく繊細で、ガラスの心を持っていて、突いたら割れる脆さもある。それが今のおまえを形成しているんじゃないの」って言われて。その牧さんが10年くらい前に、最初にスチールとムービーの仕事をくれたの。それまでムービーを回したことがなかったのに、森山直太朗の「さくら(独唱)」MV( https://www.youtube.com/watch?v=p_2F2lKV9uA )で、カメラフィックスでワンカット撮影するから、スチールだと思って撮れと。フィルムで1000マガ一巻、予算がないから照明はなし、天井がガラス張りのスタジオで、レンズはsetレンズのみ、自分の好きな位置に入って、悩んでも、時間かけてもいいからと言ってくれて。

——そうだったんだ。このMVは生歌の同時録音も話題になったよね。

そう、本人も間違ったらやり直し。2テイクしか撮れないから、直太朗も俺も緊張してたけど、でも、アングルを切るという意味では写真もムービーも変わらないからね。スチールのフォトグラファーにムービーのオファーが来るのは、その方が、ディレクターにしてみれば、アングルが鋭かったり、ライティングが良かったりするのかもしれないね。ムービーには照明部がいるけれど、スチールの場合、フォトグラファーは普段自分でライティングするから、照明に敏感なのかも。

——一枚絵の収まりの鋭さやこだわりは、間違いなくそうだよね。じゃあそれからムービーの仕事も増えていったんだ。

いや、ここ2、3年だよ。ムービーの仕事が増えると、時間と規模の都合でスチールの仕事がなかなか入れられなくなるので、バランスを計らないとね。スチールのカメラマンは、作品撮りも含めて、やっぱりスチールを撮らないと。

——カメラマンには、昔から、なりたかったの?

なりたかったね。他になりたいと思う仕事もなかったし。カメラマンじゃなかったら何になりたかったかって言われたら……、思想家だね、右寄りの(笑)。と言うのも、反社会的な意味ではなくて、俺、実家が神社だから、家系が神道なのね。俺は18代目。昔からある田舎の小さな神社なんだけど、祝日はおじいちゃんが国旗を揚げたり、おじいちゃんの部屋に天照皇大神の掛け軸があったり、愛子さんが生まれた時は「愛子さん、おめでとう」っていう垂れ幕をばんばん出したり。そういう光景を小さい頃から間近で見ていたから、国旗は万歳なんだよ。三島由紀夫とかも好きだし。

——それは環境の影響で、自然の流れだね。片平さんはお父さんも一時代を築いた有名なカメラマンさんだったけど、神社は継がなかったんだ。

いや、親父は若い頃に東京に出て来てカメラマンの仕事をしてたけど、48歳くらいで神主になる神職の資格を取ったの。お寺は修行してその宗派に認められたらできるけど、神社は神社本庁っていう国の機関のようなものだから、ちゃんとした試験に受からないとできない。普通に取ろうとすると、國學院大學等の神道科に入れば、卒業する時に一番下の位の免許がついて来る。親父は仕事しながら大阪國學院の通信教育を2年受けて、年に2回14日間の実地授業にも行って、なんとか免許を取ったんだけど、その2年後に亡くなった。

——それは、残念だったね。

親父、1人息子だったから、周りはもう大ショックで。俺も1人っ子だから、お葬式の時に田舎の人たちが「いつ戻ってくるずら〜」って言うわけ。「仕事がある」って答えるんだけど、「直系の子がやらないと」って。神社は外からも人材を呼べるし、掛け持ちしている人もいるけど、ベストは直系が継ぐことだから。

——じゃあ片平さん、これから神主になるの?

いや。今は考えられない。仕事にすべてをかけたいから、時間を割けられない。でもまあ、きれいな仕事じゃん、神に仕えるって。美しいと思うけれど、生活できない。おじいちゃんも教師をしながら神主していたから。働いてお金ためて、70歳くらいになってやれるかやれないかだよ。免許だって取るの大変だし。何より問題は、免許を取る時、禊の礼って言って、ふんどし一丁で水をかぶる授業があるらしいんだけど、俺、刺青が入っているからさ(笑)。

——刺青の神主、なかなか斬新だね(笑)。

おじいちゃんもそれで悩んで、神社本庁の偉い人に問い合わせしたらしい、「孫が実は」って。規定の書面を確認してもらったところ「刺青が入っている人はダメ」って、基本、書いてないんだって(笑)。「だから大丈夫かもしれないよ」っておじいちゃんは言うんだけど、一般的に考えて、説得力ないじゃない。万が一資格を取ることになったら、「刺青入っています。カメラマンです。ダメなら行きません」って最初に言おうとは思っているけどね。

真夜中の写真展

——最後に、今後の目標や予定があれば教えて。

仕事はこの2、3年が勝負だと思っているので、とにかく気合い入れて一生懸命やるのみだね。あとは、花の写真の作品撮り。そして、ただ撮るのではなく、写真展を開催するために100点撮る。

——楽しみだ。写真集も出そうよ。

ね。個展はね、4×5で撮影しているから、ものすごく大きく引き延ばせるじゃん。それで、夜の写真展をやりたくて。横浜の赤煉瓦倉庫とか、フラットなロケーションで、ものすごくでかいプリントにして、貼り出して。HMIライトでスポットを当てて、見る人も近くではなく、遠くから見る。暗闇の中に花が浮いているみたいなイメージ。雨なんか降ってたら最高だね。

——素晴らしい! 絶対見たい! 熱烈応援!

最後に素敵な展望を語ってくださった片平長義さん。ムービーの仕事も引く手数多の彼ですが、改めていろいろとお話を伺ってみると、やはり、彼の本分である写真作品をたくさん見たい欲望を堪えきれません。夜の写真展。想像するだけであまりの陶酔感に失神しそうです。実現する日を楽しみにしています!

撮影: 川瀬一絵(ゆかい)

参考にしてくれた記事

記事が登録されていません。
この記事を参考にして、新しく記事を投稿しよう!

違反について