FAB TALK(2)KULUSKA SLIPPER  クルスカスリッパ(前編)

FAB TALK(2)KULUSKA SLIPPER クルスカスリッパ(前編)

FabLab Kamakura
FabLab Kamakura (ID239) 公認maker 2014/07/16
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「ファブラボは地域のラボであり、世界的なネットワーク」

…と言われても、いまいちピンとこないですよね。

私もそんな一人でした。ところが、鎌倉で生まれたスリッパによってその意識が劇的に変わりました。という訳で、あるスリッパの物語を2回に渡りお届けします。

KULUSKA SLIPPER (写真提供 / 制作者: KULUSKA)

KULUSKAとの出逢い

2012年5月、ファブラボ鎌倉にKULUSKA(クルスカ)と名乗る人から連絡がありました。一瞬、海外の方と間違えてしまいそうですが、KULUSKA( http://kuluska-japan.com/ )とは、鎌倉を拠点に活動する革職人の藤本直紀さん、ディレクションを務める藤本彩さんのユニット名です。

藤本夫妻は、「誰もがつくりやすいものづくり」というビジョンを掲げて活動をしていました。そこで、「ぜひデジタル工作機械を活用した新しい“つくりかた”を模索したい。」という相談を受けたわけです。
初対面でしたが、私は藤本さんにこうお話しました。「ファブラボは、加工を代行する場所ではありません。もし、藤本さんが今までにない可能性を模索したいということであれば、藤本さんご自身がデジタル分野に挑戦しなければ、きっと何も変わりません。苦手な分野でも、挑戦してやってみる。そうしたチャレンジ精神がない方は結局長続きしないのです」と。

貴重な時間を費やすのであれば、中途半端が一番いけないので正直な気持ちをお伝えしました。

レーザーカッターを使用して、革からスリッパのデータが切り出される様子
(写真提供:FabLab Kamakura)

ハイブリット職人へ

一念発起した直紀さんは、それまで触れたことがなかったAdobe Illustratorを1ヵ月でマスターし、レーザーカッターによる革の加工法を日々研究し、オリジナルのスリッパデータを完成させました。

それはレーザカッターで、あらかじめ縫う穴を空け、ミシン目で切り出せるスリッパのキットでした。シンプルなキットですが、データをつくり手が改変することも可能です。7-8割くらいデザインし、あとは作り手のニーズに合わせてつくることが可能になり、一からつくるよりはぐっと短い時間と手間で、自分のほしいものをつくることができます。

はじめての方でも、完成度のある革スリッパを制作することできるので、ワークショップでスリッパを作るワークショップのプログラムとスリッパキットが完成しました。デジタルの強みと手仕事の絶妙なバランスです。

実際に、このキットを使ってワークショップを実施しました。黙々と革スリッパを縫うワークショップは、ゆったりと穏やかなひと時でした。「どうでしたか?」と参加者に感想をお聞きしたところ、「あまりにも夢中になりすぎて時間を忘れてしまいました」「ワイワイとお祭りのようなつくり方もありますが、今回のように内省的に没頭する時間は、ある種瞑想的な心地よさがあり楽しかったです」という回答を頂きました。この回答を受けて私は、いろいろなつくりかたがあるのだと再認識しました。

2012年、クルスカスリッパワークショップの様子 (写真提供 : FabLab Kamakura)

世界を巡るファブラボノマド:Jens Dyvikとの出逢い

さて、ここで話は冒頭にお伝えした「ファブラボは地域のラボであり、世界的なネットワーク」に戻ります。
世界には50ヶ国、200箇所以上にファブラボがあるといわれています。2012年の夏、世界中のファブラボを巡りドキュメンタリームービーを制作しているノルウェー人、Jens Dyvik(イェンス・ディビック)がファブラボ鎌倉にやって来ました。
Jensは、ファブラボ鎌倉の壁に飾ってあったクルスカスリッパをとても気にいってくれ、次の国へと旅立っていきました。

世界のFabLab分布図 (Photo : Fab Foundation)

Jensが旅だってから2ヵ月ほどたったある日、ケニアのラボからメールが届きました。

Jens「やあ、みんな元気かい? いま、ケニアにいるんだ。ここで牛革を使ってラボの収益源になるプロダクト制作の相談を持ちかけれているんだ。そこで、クルスカスリッパの存在を思い出したよ。もうすばらしいプロダクトがこの世にあるなら、僕が一からつくる必要はないと思うんだ。ぜひ、クルスカスリッパのデザインデータをオープンにしてくれないかい?」

というなんとも爽やかな依頼でした。早速、作者である藤本さんに相談し、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス*という利用規約をつけてデータをオープンにしました。そして、Jensに「可能な限りつくられる行程をレポートして欲しい」とリクエストをしました。

ケニアのファブラボで実施されたイェンスによる講習会の様子(Photo : Jens Dyvik)

オープンデザインの可能性

それからのJensの活動は目覚ましく、ケニアのラボ関係者にデータのつくりかた、改変方法などを短期間で教えていきます。ケニアからのレポートが鎌倉に届くたび、興奮しました。ケニアのラボは電力供給が安定しているとはいえませんが、日本と同じようにレーザーカッターを使用してスリッパを作成することが可能な環境が整っています。

ファブラボが、知識とノウハウをグローバルに共有するためのネットワークであるというのを、実感した日々でもありました。

ケニアのラボで、クルスカスリッパを切り出す様子


モノが溢れる日本とケニアの状況では、ファブラボが果たす役割やニーズも異なります。ケニアのラボは、日本よりももっともっと生活に近い。つくられるものといえば、重力を利用した発電機や、お手製の卵のふ化装置、自作WiFiやLED照明、太陽光を使った調理器具ソーラークッカーなど。

先進国に見られるレクリエーション的な要素や芸術表現ではなく、実際に使う生活用品なのだということを強く感じます。そういう意味では、日本よりもFAB Lifeを満喫しているとも言えます。

パトリックの満面の笑み(なぜこんなにスリッパが大きいのだろうか...)
Photo by Jens Dyvik


日本では、スリッパを縫う際には、長持ちさせるため専用の丈夫な糸を使います。ケニアで同じ糸を入手するのは難しいだろうな、と思っていました。

数日後、巨大なスリッパを誇らしげに掲げた写真が送られてきました。「ここにあるものでなんとかしたよ!」と満面の笑みを浮かべている。無ければ、無いなりに代用してつくる!! 当たり前だけど大切なことを教えてくれた、ケニアのFablabberパトリックの笑顔がまぶしくてなりませんでした。

同じスリッパのデータを共有しても、その地域性が色濃く反映される。ファブラボは、ものづくりを介して、これまで見えてこなかったお互いの国と国の状況を顕在化することができる新たなコミュニケーションのプラットフォームなのだと心から理解した瞬間でもありました。

ケニアでまず作られただけでなく、クルスカスリッパは、さらにアフリカの大地で進化していくことになります。次回はその進化をお話しします。

これまでの連載:FabLab Kamakura

FAB TALK(1)「組木スツール」
https://media.dmm-make.com/item/265/

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