「スーパーポジティブで行こう」塚本昌彦  研究者からMakerへ

「スーパーポジティブで行こう」塚本昌彦 研究者からMakerへ

塚本昌彦
塚本昌彦 (ID1097) 公認maker 2014/07/24
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聞き手:塚本研究室スタッフ

塚本昌彦プロフィール
神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻
研究室: http://cse.eedept.kobe-u.ac.jp/
ウェアラブルコンピューティング・ユビキタスコンピューティングの研究者。
「ウェアラブルコンピューティング(Wearable Computing)」というのはコンピュータを身体に装着して利用するスタイル。
「ユビキタスコンピューティング(Ubiquitous Computing)」というのはコンピュータをモノや場所に埋め込んで利用する。
これらはスマホに象徴される「モバイルコンピューティング」の次のステップとして以前から注目されている。
特に「ウェアラブル」は、人の暮らしや仕事を直接変えていくポテンシャルがあると考え「近いうちに必ず来る!」と自らウェアラブルコンピューティングの実践生活を始めたことからマスコミによって「ウェアラブルの伝道師」と名付けられた。

人のやっていない事をはじめるということには必ずデメリットがある。だから、考え抜いてからはじめないと継続しない。

自分が率先して行なうことがMakerや研究者を育てる第一歩

——塚本教授と言えばHMD(ヘッドマウントディスプレイの略称)を装着している姿しか見た事ないのですが、本当にいつも付けておられるのですか。

この14年間、人前に出るときは必ず装着しています。Google Glass( http://www.google.com/glass/start/ )が発表されてからは何人かが装着されていますが、それまではずっと孤独でした(笑)。

——以前から聞きたかったのですが、HMD付けていると目立つし、変な目で見られるのではないですか。

ええ確かに。ただ、普段大学への通勤などでじろじろ見られることはないですね。定着したというか。まだ、東京だと交差するエスカレータに乗っていて、反対側のエスカレータから見られていると感じるような事はあります。地方などでは見ちゃいけないと目をそらされるとか。そういえば、以前未来館で小学生に「スカウターだ」と囲まれた事もありましたね。逆に外食していると周囲の席が埋まらないとか(笑)。

外食で人が避ける

——そんなたいへんなのになぜ装着し続けているのですか。

苦労話をするとキリがないです(笑)。誤解があるといけないので先に説明しますが私自身がHMDを製造販売している訳ではありません。HMDに限りませんが、ウェアラブルが当たり前の社会になった時に必要なシステムは何かということを研究しています。
なぜ装着を続けているかというと研究のためという事になります。研究者というのは今まだ存在しないものを創造するのが仕事です。つまり未来の生活に定着しそうな機器をまず実際に付けて感じた事、発見した事をフィードバックするのは当たり前というか。スポーツでも何でもそうですが、考えてわかる部分とやってこそわかる事がありますよね。

——確かにそうですね。でも、同じ研究分野の先生は装着していないじゃないです
か。

ええ、それはデメリットも大きいからです。これから連載でいろいろ語っていこうと思っているのですが、皆さんも何かはじめる時、特に人のやっていない事には必ずデメリットがある。だから、考えに考えてからはじめないと継続しないですよ、とひとまずここでお伝えします。
例えば、市販品のHMDは1日中装着することを想定して作られた機器ではありません。ですから装着感は非常に悪い。1日中付けた事のない人が想定した機器が1日中付けて快適なわけがないですよね。でも、私は「1年も経てば他の研究者も装着生活するだろう。それなら一番に使って経験値を貯めておこう」と思ったわけです。ところが思うようにはならなかった。さっきも言いましたが何年経ってもだれも付けない…。辞めるのは簡単ですが、それなりに最悪のシナリオも想定していたので(まあそんなものか)と思いつつ継続していました。すると、一般誌やテレビ等の取材がどんどん増えきました。それまでも取材はありましたが専門誌に限られていたので一般の人の目に触れる事はなかったのです。しかし、この格好で街を歩くことで専門誌以外の取材者の目に留まった。これはチャンスだと、これでHMDは認知されるのではないかと考えました。
しかし、結局は13年経ってもまだ誰も付けていない…。理由は色々ありますが、日本が不景気でメーカーが革新を起せなかったことが大きいのではと考えています。

——ようやく今年はブレイクですね。

Google Glassが日本の技適( http://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/monitoring/summary/qa/ )を取ったようですので国内で販売されるでしょう。HMDを多くの人が装着してくれるのは嬉しいですが、日本のメーカーでないことが非常に残念です。

——日本にMakerが少ないということでしょうか。

そうではありません。日本の中には素晴らしい技術者や作り手、そしてその卵たちがたくさんいます。しかし、大企業に入るととたんに身動き出来なくなってしまう。まず簡単に開発を認めない。会議と書類作成に追われる。「リスクはこちらでなんとかするからチャレンジしなさい」とは言わない。そしてようやくはじめた開発もちょっと何かあれば止める…それが現状です。

——現状を変える方法ってあるのでしょうか

大学教員の使命として、新たに切り開いていくことを行動で示しているつもりですが、学生にも積極的に取り組んでもらわないといけません。研究室ではゼミに入ったらまず、これまで取り組んできたスポーツや趣味などにウェアラブルを取り入れて形にして発表してもらいます。12月には、神戸ルミナリエで( http://cse.eedept.kobe-u.ac.jp/illumineBOKIN2013/ )センサやledを使用して作った「今までにない」募金箱で募金活動をします。例えば、募金をするとtwitterでつぶやく「ツカラボキン」やLEDマトリクスで映像が光る募金箱など。

https://www.youtube.com/watch?v=P0d63zAEGLQ

キャプション:ツカラボキン
・募金されたのを認識してLEDが点灯パターンが変化。
・twitterに募金人数やツカラボキン君がコメントをつぶやく。

LED CUBE 募金箱
・512個のフルカラーLEDを搭載し、3Dを生かした点灯パターンで光る。
【技術】
・1,536の発光体(512個×青・緑・赤の3つの内部発光体)を1つのArduinoで制御
・表示するアニメーションのデータは外部に接続したPCからリアルタイムで転送
・お金の認識に赤外線センサを使用

最新の技術を使っていたからといっても評価されなかったり、一般の人の反応を直接受けることは重要です。ウェアラブルの研究は社会と乖離した形では成り立たちません。それを頭ではなく実際に体感します。
研究室で博士号を取得した藤本実君( http://www.dr-popeye.com/ )は、2013年夏に教員を辞め、ダンサーの衣装に音と同期して光るLED装置と光の振り付けを提供する会社( http://www.mplpl.com )をはじめました。彼自身がダンスをやっていてダンサーの気持ちがわかるからこそできた装置です。すごい技術力があっても成功するわけではなくてニーズを的確に捉えられるかどうか。
うちの研究室は藤本君の成功が刺激となり、単に研究者を目指すのではなく、未来を自分で作ろうという気持ちのある研究者やMakerが育っています。やはり、身近に手本がいることが現状を打破する大きな力になるのだと実感しています。

——最後にMakerを目指している人に一言

研究室のキャッチフレーズは「超ポジティブでいこう」です。単に楽観的に考えるポジティブではダメで、最悪シナリオまで想定した上で前向きに行動するポジティブを超えるポジティブです。新しいことに挑戦する人には必要な思考だと思います。Makerのみなさんも今からはじめようとしている人も「スーパーポジティブ」で果敢に挑戦してください。

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