ギークが大臣をやってる国 シンガポール

ギークが大臣をやってる国 シンガポール

チームラボMake部の高須です。
MakerFaireを追いかけて、4月の深圳(あと1本レポートを書く予定)、
MakerFaire深圳レポート
https://media.dmm-make.com/item/245/
5月の台湾と続いて、6月はMaker's Blockというイベントと、7月のMakerFaireシンガポールのためにシンガポールにいます。

DMM.Makeでは勝本さんも、シンガポールのMaker事情について記事をかいていますね。
https://media.dmm-make.com/item/913/

シンガポールの政治体制

シンガポールの政治体制はよくもわるくも注目されています。独立からほんの一世代で世界最高水準の所得まで持って行った成功事例(国民1世帯当たり所得は月収85万円以上、6人に1人が1億円以上の資産を持っている)としても語られるし、独裁政権と「道路にツバ吐いたら罰金」という厳罰主義から、朝日新聞から「明るい北朝鮮」なんて表されたりもします。

シンガポールの経済規模は神奈川県と同じぐらいだといいます。神奈川県の人口は900万人でシンガポールの倍ぐらいなので、逆に言うとシンガポール人は日本人の倍ぐらい稼いでることになります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB


シンガポールにしばらく住んでいて思うのは、「社会を活性化させる、景気を良くする、人をチャレンジさせる」ことと、「個人の自由が、他の人の自由を侵害しない状態」を頑張って作っていることです。
ずっと独裁してたリークアンユーは、「政治の価値は、自由の担保と、生活水準の向上の2つしかなくて、民主主義かどうかはどうでもいい。というか政権交代でコロコロ政策が変わると外国から投資しづらくなるし、大衆に人気を取るために赤字国債を発行してバラマキをやるから、民主主義もいいことばかりじゃない。シンガポールは、他のアジアの国に比べて、絶対に約束を守ることと、腐敗しない政治体制を作ることで外国から投資を集めた」なんて著書に書いてます。
シンガポールは労働者の60%近くが移民の多国籍国家で、僕の友達のギークたちが食事をすると、「5カ国から集まった6人が4カ国の料理を食べてる」みたいなことが普通にある国なのですが、いろんなカルチャーの人がガマンしないで暮らせるように、社会がデザインされているのを感じます。

よくギーク仲間と、
「シンガポールは自由を担保するためによくルールがデザインされていて、まるで"Creative Commons"みたいな感じがする」
「バンコクやジャカルタも自由だけど、あっちはルールがない自由で、Warezみたいな感じだよね」
みたいな馬鹿話をしたりしています。

ギーク大臣 ヴィヴィアン氏

そのシンガポールの大臣は首相からの任命で決まるので、派閥のロジックでなく、有能な人がいきなり任命されるようです。

環境・水資源担当大臣のVivian Balakrishnan氏(以下ヴィヴィアン)は、大臣でありながら、本物のギークです。
僕がディレクションを手伝っていて、DMM.Make公認Makerの犬飼博士さん、スケルトニクスなどがプレゼンを行ったMaker's Blockというイベントに、高校生ぐらいの息子をつれてプライベートでいらっしゃいました。

トランスフォーマーのコスプレと一緒に記念写真

ArduinoとRaspberry Pi、グローブキットといったマイコン類についてかなり細かい質問をしていたので、「わりとコンピュータ詳しい人だなー」と思っていたのですが、その後大宮 俊孝さんに教えてもらったこの記事をみてビックリ。僕なんかよりぜんぜん本格的なギークです。

ヴィヴィアン バルキシュナンのガジェット箱はなんだろう?(ストレイツタイムズ シンガポールのクオリティペーパーです)
http://www.straitstimes.com/digital-life/more-digital-life-stories/story/whats-dr-vivian-balakrishnans-gadget-boxes-20140425

はじめてのパーソナルコンピュータはApple ][ Plus

まだ53歳の若い大臣なのですが、

・最初に触ったコンピュータはApple][ plus。1982年発売なので、高校生ぐらいからコンピュータに触ってたことになります。
・最初のHackは19歳の時、キャラクタベースのロールプレイングゲーム「オデッセイ」をHackして、ジョイスティックで操作できるようにしたこと。
・その後、医者になった後も、カルテの電子化プログラムなどを自分でwordstarをHackして書いていた。
・今も休日になると、子供用に買ったマインドストームを使って自分でプログラムを書いたり、マイコンを使って家のドアを電話で開ける機械を作ったりしている。(たぶんPIC)

いまでも現役のプログラマだし、IT知識を政策に生かしていて、
・シンガポールの次世代ネットワーク、ETC(シンガポールは駐車場から何からあらゆるものがETC一発で止まらなくてよくて、料金所が存在しない)の導入
・教育へのRaspberry Piの導入
・MakerFaireシンガポールのホスト。目的は「メイドインシンガポールのテクノロジーを作る」ため。
などの実績を上げています。

記事にある、本人のコメントもいちいちすばらしいです。

「これからのシンガポールの子供は、ABCのどれも身につけないとならない。 Art-感情的にグッと来るモノとは何かを理解しないとならない。 Building- ゼロからものをつくる、というマインドを持たなければならない Communication-美しく、良いモノを開発し、そのメッセージを人々に伝えて売らなければならない。 シンガポールをトレーダーだけの国にしてはいけない。「安くて速い」と競合するだけでは、十分とはいえない。」 「値段はもう問題ではありません。僕の父はApple ][ plus のために6000ドルのローンを組んでくれたけど、RaspberryPieは38ドルです。僕は図書館でプログラムを学んだけど、今はyoutubeにいっぱいビデオがあり、技術習得のためのすばらしいオンラインコミュニティーがある。 適切なツールを与えて、プログラミングを子供に教えると、"子供のできること"が一気に、僕らの想像力を超えて広がります。」 (これ、プログラムを学ぶきっかけとしてコミュニティーを挙げるのがすばらしいと思いました。これは"やってる人"でないとわからない)

出典- http://www.straitstimes.com/digital-life/more-digital-life-stories/story/whats-dr-vivian-balakrishnans-gadget-boxes-20140425

大臣、スティーブ・ウォズニアックに会って大興奮

ヴィヴィアン大臣は、自分のブログとFacebookに、Appleの創業者スティーブ・ウォズニアック(以下ウォズ)に会ったことを、興奮を抑えられなさそうに書いています。
https://www.facebook.com/Vivian.Balakrishnan/posts/10151586203447478:0

彼はウォズと、Apple][plus上で走るIntager BASICについて語り合うことができていました。それはすごく、美しい時間だったと思います。

ヴィヴィアンはウォズと、「なんでAppleみたいな会社がシンガポールから出てこないか」について語り合ったようです。ウォズは、「シンガポールはまだそういう都市ではない、オープンではないから」と語ったようです。
(西欧では、独裁政権のシンガポールは、あんまり評判がよくないです)

ヴィヴィアンはそれに対して真摯に回答しています。
シンガポールのIT化は1980年代から始まり、他の国よりスタートが遅れたこと、
シリコンバレーに行った時に、Googleで働くシンガポール人たちと話して、「お金よりも、"世界を変えられる"という確信があるからGoogleで働いている」という感想を受けたこと、ウォズのような優れたエンジニアと、ジョブズのような、それを人々みんながほしがる「セクシーな」ものに仕立て上げられるアーティストが、ともにシンガポールに必要なことを。

そして、
「とはいえ、シリコンバレーのコピーはできない。その歴史、スキル、学会、空気など、シリコンバレーを完全にコピーすることはできない。もし"私は自国のシリコンバレーを作っている"という政治家がいたら、そのひとはたぶん全然違うものを作っている。
でも、シンガポールは子供も妻も安心して暮らせ、銃や麻薬におびえずに、よい教育を受けられる社会を作っている。正直で信頼できる投資家がいて、いろいろな人と会ってアイデアを交換できる社会である。
まだシンガポールはウォズからみて取るに足らない存在だ。でも、いつか、"ほら、僕らを数に入れないのは、まちがってたでしょ?"と言うことを楽しみにしている」

と結んでいます。

ウォズと会うことでテンションが上がる政治家、ウォズとこういう話ができる政治家は、世界でも珍しいんじゃないでしょうか。

僕は首相官邸でMakerFaireをやりたい

アメリカでは、先週の日曜日、7月5日にオバマ大統領がホワイトハウスでMakerFaireを実施して、Makerたちに向かって「あなた方が明日のアメリカだ。今日が、"国民のMakeの日"だ。」と高らかに呼びかけました。
White House Maker Faireにおけるオバマ大統領の挨拶
http://makezine.jp/blog/2014/06/the-presidents-address-at-the-white-house-maker-faire.html
(これ、すごく感動的な記事です)
オバマも、ブラックベリーのヘビーユーザーだったり、Googleの創業者からソートのアルゴリズムについて聞かれてジョークで返したり、テクノロジーに関心が深い政治家ですね。

その1週間前、ヴィヴィアン大臣はすごく楽しそうに僕らのイベントを見て、いくつかのマイコン類を買って、僕に「ハッカースペースシンガポールの、唯一の日本人メンバーなんだって?ありがとう」と言って帰っていきました。
すごく格好がよかったです。

3Dプリンタで作った義手に興味津々。そういえば医者のキャリアをお持ちでした。

ソーラーパネルをDIYしてる出展者と記念写真。隣がハッカースペースシンガポールのブースだったので、メンバーの僕も混ぜてもらいました。僕もネコミミとチームラボTシャツの正装です。

僕は7月に、ヴィヴィアン大臣の前で、「ニコニコ学会:研究してみたMadness at MakerFaireシンガポール」の座長として、何人かの日本人研究者と一緒に登壇します。
なんとかして、来年のMakerFaireホワイトハウスに出展かプレゼンをしにいきたいなあと思っています。

そして何より、いつか、日本の首相官邸でMakerFaireやコミケやボーマスが行われ、仕事でなくて楽しみに、ギークな大臣が来ることを楽しみにしています。


追伸:
このエントリが評判になって、日本でもギークが政治家になったり、ギークやパソコンオタクであることをアピールすると票が集まるような社会にしたいので、はてブ・シェア・RTなどを歓迎します。

僕、「好きな漫画はハルロックで、毎年MakerFaireに出展するのを楽しみにしてる」みたいな政治家がいたら、何党の候補者であろうと投票します。

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