「3 Dimentional Surface」#2: Phil Thompson

「3 Dimentional Surface」#2: Phil Thompson

MASSAGE
MASSAGE (ID363) 公認maker 2014/08/26
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もはやごくあたり前の存在となったインターネットは、私たちの日常に深く広く拡散し、人々のものの見方や考え方にさまざまな影響を及ぼしつつあります。連載「3 Dimentional Surface」は、そうした新しい現象に敏感に反応し、作品を作ろうとしている世界中のアーティストたちを紹介しつつ、彼・彼女たちの作品を3Dプリンターを使って実体化させるという主旨でお送りしております。

(本記事は雑誌『MASSAGE』のオンライン版との連動企画です。今回紹介するPhil Thompsonのインタビュー原文はこちら読むことができます。 http://themassage.jp

前回の記事では、ネット上にスカルプチュアを作り出すことで既成の彫刻の定義を更新するという野心的な試みを行っているManuel Fernándezというアーティストを取り上げました。
前回の記事はこちら。https://media.dmm-make.com/item/1399/

さて、第2回目となる今回はイギリスで活動するPhil Thompsonを紹介したいと思います。

第2回:Phil Thompson

データなどを故意に破壊することによって出現する現象「グリッチ」に注目して、同様のアプローチで作品を制作するアーティストやプログラマーが近年増えてきました。Phil Thompsonは彫刻作品をメインに活動するアーティストですが、彼もそうしたムーブメントにとても強い影響を受けたひとりです。彼はグリッチという手法について以下のように述べています。

「僕はグリッチというのは完璧な再現性の先を見せるもの、構造物の内部を表出させるものと思っています。(中略)僕はグリッチや何らかのエラーがイメージとかデータの物質性をあばいてくれることが分かったし、それは物質的な構成要素であるケーブル、ハードドライブ、モニターなどを破壊する事でも引き起こり、様々なコードやファイル形式との間にある相違を明らかにしてくれるものだと分かりました。」

グリッチがイメージやデータの物質性をあばくという言い方は、とても面白い。実際にフィジカルでもデータでも、何かを壊すとその壊れ方によって物質としての性質が見えてきたり、理解できるといった場面を思い浮かべることができると思います。今のテクノロジーの多くは、その内部で何が起こっているのか理解することができない。でも、グリッチはブラックボックスになってしまったそうした技術の中にある何かを、また別の形ではありますが、ふたたび出現させることができるということです。

デジタルな質感を物質化する

さて、今回彼が作ってくれたのは、3D Printed Rocksという進行中のシリーズの一部だそうです。まるで石ですね。

今回の「石」の作品は、ポリゴンの凹凸をそのまま残すことで、3DCGならではの質感をそのまま彫刻として物質化しようとする試みと言ってよいと思います。

「僕はデジタルの実践をすることで、彫刻という言葉の定義がどう変わっていくかという事に興味を持っています。現在、さまざまな産業において、彫刻的な仕事の多くはコンピューター上で編集されていますよね。この変化は、彫刻の作品・仕事がどのように変わってきたかを私達に示しているだけではなく、データそれ自体の重要性を強調しているように思っています。
だから、3Dプリント自体は彫刻の歴史の両端を合成しているように見えます。3Dプリンターで伝統的な彫刻の主要な要素を形づくることによって、僕は減算するプロセスと積層するプロセスとの違いを対比したいと考えているのです。」

実は今回、最初はギリシャ彫刻のヴィーナスの3Dデータが破壊されたような形の作品を送ってくれたのですが、どうしても3Dプリンター用のデータとして入稿できませんでした。その代わりに、もっと作るのがやさしい今回の作品に差し替えになったという経緯がありました。

ギリシャ彫刻の作品は、デジタルな手法により壊された形をそのまま彫刻の作品の効果として取り入れようという実験です。グリッチ的な表現を立体に取り入れようとしているようにもみえますね。

どちらにしても二つの作品には、デジタルな質感を物質化しようという共通したコンセプトが存在しています。

モチーフがありふれたものというのもとても重要です。古いモチーフに新しいデジタル文化の表層を与えてみたらどうなるか。その対比を明確にするために、「石」がそのモチーフとして選ばれている、そう言ってよいのではないでしょうか。

貨幣の表層の価値

最後に彼の作品として特徴的なものを、もうひとつ紹介したいと思います。硬貨を溶かして立方体に成形した作品なのですが、これは10,000の1ペニーのコインから鋳造されたものなのだそうです。彼はこの作品について以下のように説明しています。

「僕はいつもオブジェクトやイメージの表層にあるもの、それらが構成する意味に興味を持ち続けてきました。自分の作品は、表面上のクオリティーを壊すよう企てることで、物事の本質をより明らかに見せようとする試みだと考えています。たとえば、貨幣に関する僕の作品は、硬貨に使用されている材料の価格が、実際の硬貨が持つ貨幣的な価値を上回る特定の時点を示すことで、表面にあるズレを明らかにしようとする試みです。」

貨幣の価値は、通貨の「形」が素材にまで還元された時、いままでとは異なる価値体系と関係し始めます。素材の持つ実際の価値と、貨幣の表層の価値。この二つの価値が、彫刻作品のなかで対比されているのです。

この作品はデジタルな手法で作られたものではありませんが、表層と実質の間にあるズレを明らかにするという、先に紹介した3Dプリンターによる彫刻作品と共通する視点が見えてきます。Phil Thompsonは、表層と実質の関係にメスを入れ、そのズレが明確になるポイントを作品として定着する、そういう試みを行なっている作家と言えるのではないでしょうか。

Phil Thompson プロフィール

1988年マンチェスター生まれ。ロンドンに移住し、ゴールドスミスカレッジ、美術のスレイドスクールで彫刻を専攻。彼の作品は、ディジタル技術が既存のメディアや慣習に与える影響に取り組んでいる。パリのXPO Galleryで作品を発表した。 http://www.pjdthompson.co.uk/

文:庄野祐輔 翻訳:増川草介・藤田夏海 3Dプリント撮影:ただ(ゆかい)
All photo courtesy the artist and XPO Gallery

MASSAGEとは

様々な場所で個人が作り出しているコミュニティや、DIY文化。その深層を掘り進み、日々起きている出来事をアーカイブする雑誌/オンラインマガジン。世界中に散らばるさまざまな遊びの文化を紹介していきます。オンライン/オフライン、国境などあらゆる境目を超えて、自分独自の領域を見つけた個人が独自に編み出してきた生き残るための方法論や、そこに織り込まれた歴史の片鱗を見つけ出し、紹介していくことを目的としています。
http://themassage.jp/

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