ナガコと撮影ギークたち(3)「HIGASIX 前編」

ナガコと撮影ギークたち(3)「HIGASIX 前編」

林 永子
林 永子 (ID273) 公認maker 2014/08/29
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CM撮影現場に潜入

7月某日。人気カメラマンの正田真弘さんより「今度、照明技師のHIGASIXと面白い撮影をするから、ナガコさん見に来てよ〜」との一報を受け、「あ、そうなんだ、それ絶対面白いに決まってるね、行く行く〜」と内容も聞かずに即答した3日後、横浜の山下埠頭で行われた明治『キシリッシュ』CM撮影現場に潜入して参りました。まずは、本番前に腹ごしらえするカメラマン、正田真弘氏にご挨拶。

砂埃の舞う港の倉庫内では、刑事に追われる男女の臨場感を女性の目線で撮影するべく、女性出演者がBlackmagic Pocketを仕込んだヘアバンドを装着。

進行の邪魔をしないよう、全自動的に散布してしまう鬼のごとくのオーラを滅却しながら、照明技師のHIGASIXを捜索。窓の外から倉庫内を照らすLEDや室内灯、窓とは反対側に配置されたパトカーのランプ等、作業していそうな場所を順番に巡ってみるものの、姿が見えず……。

倉庫内外の随所に照明機材を設置した現場だけに、すれ違う可能性が大いにあるとは言え、HIGASIXに限っては見つからないはずがあり得ません。なぜなら彼は常にド派手なハット、通称ファレル帽を装着しており、出演者よりも目立つ謎の照明技師として知られる男。

『淡麗グリーンラベル』の広告撮影時には、かのジョージ・クルーニーさえもが気になって仕方がない様子で、「あの帽子の彼は一体、何者なんだい?」と周囲に尋ねずにはいられなかったという伝説の持ち主です。参考写真はこちら。

(撮影:正田真弘)

この目立つハットとカラフルな洋服の人物を探すものの、見つからず、どこに行っちゃったんだろうなと思っているうちに本番。倉庫内の2つの出入り口の1つが完全に閉め切られ、片方にはカメラに映り込むパトカーがスタンバイ。

今回はワンカットで15秒バージョンとWEBムービーを撮るとあり、映り込んでは洒落にならないので、パトカー側の倉庫の外の影に隠れるナガコ40歳、完全に不審者。さておき、山下埠頭、港の倉庫、刑事といえば『あぶない刑事』。主演の男女を追う警察官を先導する刑事のボス役の演者は、おそらく、タカか、ユウジになり切っているに違いない……。

……ん?

あ、HIGASIX発見! まさかのスーツで刑事出演! と、いうわけで、今回のゲストは照明技師兼刑事役としてエキストラ出演もこなすHIGASIXこと東元丈典さんです!

ちなみに、前回のゲストのカメラマン片平長義さん( https://media.dmm-make.com/item/1205/ )も今回のHIGASIXの現場も、「頭にBlackmagic Pocket装着」「本人が映り込む」という共通点がありますが、ここ、そういう縛りのコーナーじゃないのであしからず。あくまでも偶然であることを強調させていただきます。

加えて強調したいのは、刑事役の彼を冒頭で紹介し、本当はこんな帽子の人、と落差をもって紹介する予定だったのに、後日、取材時に電源ボックスを小脇に抱えてしれっと現れた際の出で立ちがこちらになります。

誰だよ!

この衣装のコンセプトは何なのか。そもそもなぜ衣装を着て来たのか。来歴はどうなっているのか。映像業界きっての謎男HIGASIXへのインタビュー開始!

竹中直人に憧れて

東元丈典aka.HIGASIX
Lighting Director。2005年、GO-SUNSを設立。2007年、照明技師として独立。近年はKIRIN、KOSE、Kanebo、SUNTORY、SHARP、SONY 、Yahoo!等々の広告映像を中心に、ムービーとスチール両者の照明を手がけている。

所属事務所 Volante
http://www.volante.cc/members/takenori_higashimoto/tv-commercial/

掲載記事「ライティングディレクター・東元丈典 a.k.a. HIGASIX × ロビン — 〈死なないための住宅〉で暮らす猫」
http://ilove.cat/ja/7993

—これまでの経緯とか仕事のお話をする前に、どうしても聞いておかなくちゃいけないことと言えば、本日のお衣装なんですが。何事(笑)?

正装ですね。結婚式や忘年会の時に着ている衣装なんです。リングライトを誰でも気軽に頭の上に装着できるシステム、通称「イージーエンジェル」を開発しまして、白塗りはシブチカ「三善」で買います(笑)。

—私もそこにつけまつげを買いに行きますが、さておき、重そうだし、熱そうだよね。

もう疲れちゃったので、後は明日話します。

—くったくたじゃん! 話聞くまで帰さないからな! さて、いつも洋服も衣装も奇抜だよね。

この年賀状いいでしょ、気に入っているんです。卯年だったのでバニーガール(笑)。

—コンセプチュアルだね(笑)。

こっちの別の年賀状はもっとちゃんとコンセプチュアル。海辺の太陽光の下で照明に当たっています。いい写真でしょ?

—太陽の下で、太陽を作る男だ。これはすごくキュートだね。うん、こういう照明の話をそろそろしないと(笑)。照明技師さんになった経緯を教えて。

僕、中学生の頃くらいから竹中直人さんが大好きで。当時は周防正行監督の「ファンシーダンス」とか「シコふんじゃった」なんかを観ていて、TVだと「東京イエローページ」とか、舞台だと「竹中直人の会」(竹中氏が岩松了氏の書き下ろし作品を上演するプロデュースユニット)を下北沢「ザ・スズナリ」に観に行ったり。まあいわゆる追っかけですね。とにかく気になって仕方なかったの、存在が。独特だから。で、20歳になった頃、思い切って竹中さんに弟子入りさせてほしいとお願いに行ったら、門前払いされまして(笑)。その時知り合った人が「竹中さんが今度映画を撮るので、スタッフで入らないか」って誘ってくれて、紹介されたのが照明部だった。それが99年のこと。

—じゃあ、いきなり現場に入ったんだ。照明技師になりたかったとかは?

全く考えもしなかったですね。いきなり現場、いきなり照明部。竹中さんが監督・主演している『連弾』っていう映画に参加したんだけど、右も左も分からないから竹中さんばっかり見ていました。そのままずるずると業界入りして、映画は5、6本参加したかな。豊田利晃監督の『ナイン・ソウルズ』、中原俊監督の『コンセント』とか。

—仕事をしながら、知り合いが広がっていって、CMも手がけるようになった?

流れが変わったのは、今回の『キシリッシュ』CMのディレクターでもある関口現さん監督の映画『SURVIVE STYLE 5+』に照明助手として入ってからですね。この映画はスタッフがCMと映画の混合だったので、知り合いも増え仕事の幅がいっきに広がりました。カメラマンのシグママコトさんと出会ったのも『SURVIVE STYLE 5+』。そこから転がるようにして広告業界へ突入。縁あって僕は今、シグマさんの事務所(Volante)に所属しています。

—舞台、映画、と来て、広告にたどり着いたんだ。劇団を持っているという噂を聞いたこともあるのですが。

役者の友だちと、制作会社のDNAプロデューサーの堀康之くんと一緒に、芝居をやろうということになって、劇団を主宰した……、というか、プロデュースユニットを作ったんですよね。『GO-SUNS』って劇団名の。2009年の第一回公演『しゃくなげの花』に始まって、第二回公演『ピストル』、第三回公演『HELLO WORK』、第四回公演『文學青年』と公演しています。

サーチライトのための刑事

—さて。面白衣装のインパクトのせいで構成がめちゃくちゃになったので(笑)、話を戻して、先日の山下埠頭での撮影について改めて。内容は、警察に追われる男女2人の逃亡犯が倉庫に追い込まれ、キスをするシーンのワンカット撮影だったけれど、照明のコンセプトは?

カメラを仕込んだヘアバンドをつけた女性の目元と目線を活かすアングルだったのですが、走ったり、隠れたりする芝居の中で、360度、どこを見ても照明機材が見えないようにしないといけない。でも、そこを気にして控えめにすると、劇的な光を作り込めなくて、つまらなくなっちゃうっていうのが、カメラマンの正田さんの思惑にあって。緊張感のあるサスペンスだから、陰影の付け方を強くしたり、カラーライティングも入れないと薄っぺらくなっちゃうしな……、と考えて。コンセプトはズバリ「愛し合う男女、逃避行の光と影」です。

—いろいろなタッチの色光が渦巻いていたよね。

倉庫内はナトリウム灯のオレンジ色の光と暗部にはシアンの蛍光灯、外にはネオンサインが光っていて、パトランプの赤い光が回転している……、そんな想像をしながらベースを作りました。光の演出としては、追いかけてきた刑事の手にしているハンドライトが近づいてきて、台詞をきっかけに表のネオンサインの色味が変わる。キスの直前ではヘリコプターのサーチが2人の顔に「ふぁっ」と当たる。ドラマチックな作り方をしていますね。

—そのハンドライトやサーチライトを「ふぁっ」と上手く当てるために、自ら刑事として潜入したんだ。

そうそう。2人が1度、刑事の方を振り返るんだけど、カメラにハレーションが入るようにしたくて。でも見切れちゃうから機材も照明部も入れないので、ちょうどいいタイミングで映り込む刑事役の人にハンドライトを持たせるしかない。だけどエキストラさんがうまく光を当てるのは難しいだろうから、監督にお願いしました、僕に刑事役をやらせてくださいって。本番中もハンドライト振りながら無線機でサーチライトのタイミングも指示してたからね。「ふぁっ!」て。だから、ただの出たがりってわけじゃないです(笑)。

—意味があるってことだよね。

そうです。チーフに任せてもよかったんだけど、責任重大なシーンで、酷だから、自分でやる、と。

—倉庫撮影後は、都内に移動して、タクシーで撮影したんだよね。

車内に仕込んだLEDを後続のマイクロバスにWi-FiでDMX信号を飛ばして、iPadで調光操作しました。6台のLEDをシアン、イエロー、レッドの色に設定し、台詞や背景に合わせながら操作したのですが、2人がキスするその時、顔が寄る瞬間にちょっと光が変化するといいなあと。

—完成されたスペシャルWEBムービー『The long kisses』はこちら( http://www.meiji.co.jp/sweets/candy_gum/xylish/special/ )です。みなさま、是非、ご堪能ください!

後編に続く!

謎の帽子男から謎の刑事へ、さらには謎の天使へと進化を遂げた謎過ぎる男、HIGASIX。その奇抜な外見ばかりに目を奪われがちですが、照明演出の確かな腕があるからこそ、みんなを楽しませるエンターテイナーとしての素養が活きる彼のパーソナリティーを、後編ではよりディープに紐解いてみたいと思います。

また、盟邦カメラマン、正田真弘もインタビューに緊急参戦! 愛して止まないHIGASIXの魅力をレクチャーしていただきます! 乞う! ご期待!

しかし、状況が完全に白昼夢。っていうか真夏の世の夢。

インタビュー撮影:池田晶紀(ゆかい)
取材場所協力:モノポール


これまでの連載

ナガコと撮影ギークたち(1)「片平長義 前編」
https://media.dmm-make.com/item/1205/

ナガコと撮影ギークたち(2)「片平長義 後編」
https://media.dmm-make.com/item/1385/

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