「ジャストロー錯視」What You Get Is What You See

「ジャストロー錯視」What You Get Is What You See

dotimpact
dotimpact (ID211) 公認maker 2014/04/24
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第1回は「ジャストロー錯視」を3Dプリントします

どっぱくことdotimpactと申します。

普段は本業であるプログラミングやインタラクションデザインに関する文章を書くことが多いわたくしですが、こちらでは突然ながら「錯覚・錯視と3Dプリンタ」というテーマで連載をさせていただくことになりました。コンピュータ内で作った純粋なデータを正確に出力するという3Dプリンタという技術をつかって、目の前の事実をゆがんで認識してしまうという錯覚・錯視を引き起こすオブジェクトを作ってみるとどうなるか、ということを試していきたいと思っています。どうぞおつきあいください。

ジャストロー錯視とは

初回である今回は、もっとも古典的な錯視画像のひとつである「Jastrow illusion(ジャストロー錯視)」を取り上げたい&3Dプリントしてみたいと思います。ジャストロー錯視という名前は知らなくても、こういう図は見たことがあるんじゃないかと思います。

この上下の図形でどちらが長く見える? というものです。ご存じですよね。ジャストロー錯視は1889年にAmerican psycologistにてJoseph Justrowさんが発表した論文[1] ではじめて言及されたことから名付けられたもので、論文でのオリジナルの図形は上図のような同心円弧ではなく下のような形でした。

[1]
American psycologistの該当論文はこちらで参照できます。
Studies from the Laboratory of Experimental Psychology of the University of Wisconsin. II
http://www.jstor.org/stable/1411617

この錯覚は、人間がふたつの領域のサイズを比較する際、隣接した一辺同士の長さの比較結果を領域そのものの評価に利用しようとするため、部分のサイズ評価と領域のサイズ評価が食い違うような図形では大きさの評価勘違いしてしまうのだと説明されています。論文内の言葉を引用すると「We cannot view the part as unrelated to the whole.(我々は全体と無関係に部分を見ることができない)」。またこの類いの錯視は円弧状の図形のみで起きるわけではなく、台形など条件(隣接する辺の長さが異なるように配置された同じ図形)を満たしていれば生じるのだそうです。

ジャストロー錯視は単純な原則で生じる錯視であるためか、画像検索などするとさまざまな形で作図されたバリエーションがあります(プラレールなどの列車おもちゃのカーブレールやバナナを並べた画像でも大きさの錯覚が起こるという話もあります)。そんななかで以前からインパクトあるなーと思っていたのが下のような形状のオブジェクト&動画でのプレゼンです(説明を見るに、この動画は香港のサイエンスミュージアムのジャストロー錯視を体験する展示からのようです)。今回はこの動画を目指して3Dモデルを制作しました。

http://www.youtube.com/watch?v=w8Zz05t19dg

ジャストロー錯視を手に入れる

というわけで3Dプリントの準備をはじめます。3Dプリントといっても今回作るものは2次元の図形に高さを持たせたものになるので、制作は2次元のドローツールでの作図からはじめました。ジャストロー錯視の作図は初めてだったので作図してみて錯視効果を確かめるという試行錯誤を繰り返したのですが、 ジャストロー錯視の初出論文での説明のように隣接する辺の長さが違えばよいというわけでもないようで、直径の大きいゆるい円弧に対して、なす角が直角に見えるような斜辺を接続した、扇形というより「むしろ矩形が歪んでいる」というふうに見える図形のほうが効果が大きいように感じたので今回はそのような作図としました。みなさんにはどう見えますか?

ちなみにこの作図の作業中、図形をレーザーカッターで切り出し錯視の効果を試そうとシート内に図を敷き詰めていたところ、ふとジャストロー錯視が脳にどういうものとして認識されているのかわかったように思えた瞬間がありました。こうやって見ると、ジャストロー錯視における下側の図は「より近くに(したがって大きく)迫ってきているもの」として見えているのかもしれません[2]。

[2]
マーク・チャンギージー(柴田裕之 訳)「ひとの目、驚異の進化」によると、錯視図形で起きる錯覚は、目に映る光景の光学的な歪みから自分自身の運動を予測して行う未来予測の働きとして説明できるそうです。「ひとの目~」ではジャストロー錯視には触れられていないのですが、このように説明できるのかもしれません。

さてこうして作図した2次元のジャストロー錯視を、今度は3Dプリントするためのモデリングツール(123D Design)にインポートします。2次元データのインポートにはいろいろと制限があるようで、

- ドローデータの形式はEPSにする(SVG形式でもよいようです)
- アプリ版ではインポートできないため、オンライン版123D Designでインポートしたプロジェクトをアプリ側で開く必要がある

という状態のようです。今回はIllustratorからEPS形式で保存したデータをオンライン版でインポート後保存し、アプリ版で再度読みこむ形でインポートしました。

[2014-04-25追記:]
原稿執筆時には上記のような手順が必要でしたが、OSX版123D Designはアップデートによりアプリ単体でSVGデータのインポートが可能になったようです(Windows版は未確認です)。


修正したモデルをstlデータで保存してDMM 3Dプリントに発注すれば立体版のジャストロー錯視オブジェクトが手に入ります。 ではさっそく見てみましょう!

ジャストロー錯視を見る

3Dプリントの発注が殺到していたようで届くのが遅れましたが、発注したジャストロー錯視オブジェクトが仕上がってきました。

今回はナイロン(ポリアミド)での出力で5,323円でした。3Dプリントの発注が初めてだったのとこのオブジェクトはどっしりした感じしたいという意図もあり肉抜きせずに発注したんですが、手に持って感じる「中身までマテリアルが詰まってる感じ」の重さと角の立った精度など、世の中に売っている樹脂製品とはまったく違う質感がすごい面白いです。サイズ的には妥協してしまった(ほんとは上の動画くらいの大きさにしたかった)んですが、裏側を抜いて大きく出力したほうがよかったかもしれないです。

同じデータのコピペなので当然ながら完全に重なります。

錯視の効果を確かめるために並べていろいろな角度から写真を撮ります。

立体物では錯覚の効果が視点によって異なるのでは? と予想していたんですが、見る角度を変えても効果が薄れたり強調されたりすることはほぼないように見えます。置いてみても持ってみても長さが違って見えます。おもしろい。

元々の目的であるジャストロー錯視動画も撮影しました。本当なら上記の動画のように2つのオブジェクトの色が違うと違いがわかりやすいんですが、今回は出力そのままの白色で失礼します(染色オプションもありますが、100mmを超える大きさのものには染色むらが出るので適用できないとのことです)。不思議さが伝わる動画になってるでしょうか? やっぱりもうちょっとサイズが大きいほうがよかったですね。

http://youtu.be/MfyefCVw_4g

今回作成したジャストロー錯視オブジェクトはこちらで購入可能にしておきました。割高ではありますが、お手軽にジャストロー錯視のオブジェクトを手に入れて見てみたい方はご利用ください。

http://make.dmm.com/item/43276/

次回以降も錯視物体を手に入れて見ていきますのでお楽しみに!

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