FAB AND CRAFT(2) アナログファブリケーション

FAB AND CRAFT(2) アナログファブリケーション

この春より、母校である専門学校桑沢デザイン研究所で、1年生が「ハンドスカルプチャー」という課題に取り組む期間に限り、非常勤講師として授業を担当しています。「ハンドスカルプチャー」というのは、「ノミ/小刀/やすりを使い、全て手作業で、木の塊から手に心地よく美しい形を作る」という課題です。製材された直方体のヒノキから、直線・平面が一切ないすべすべで滑らかなかたちを、2か月をかけて削り出していきます。授業中は、ノミを鎚で打つ音と、削られたヒノキ材の香りで教室がいっぱい。極めてアナログな制作過程です。他の美術学校出身の方と話していても、「あぁ、あれ、桑沢の子みんな作ってるよね」とコメントをいただくので、名物課題としてご存知の方もいらっしゃるかも知れません。

ハンドスカルプチャーの制作に使う、材料と道具

私は最近、デジタルファブリケーションを取り入れた、新しい生活様式やものづくりをデザインする取り組みに多く携わっています。パソコン上で作成したデータに沿って、その通りに機械が自動的に加工をしてくれる世界です。
でも、そんな働き方をしたことでより強く感じるようになったのは、「作る手段がどれほどデジタル(バーチャル)になろうとも、作るものが現実世界に立ち現れる「もの」や「こと」である限り、アウトプットされた完成品とそれを受容する人間との関係性は、何処まで行ってもアナログ(リアル)であることに変わりはない、という事実だったりします。

例えば、曲面が美しいプロダクトのデザインを3Dデータで作成して、3D切削加工機や3Dプリンタを使って実物の立体として出力したとします。「その曲面がデータ通りであるかどうか」は定量的に測定して判断することができます。それに比べて「その曲面が人にとって心地良いものであるか」を判断するには、より定性的な要素を測定する方法が必要です。それらは主に、見る・触れるなど、直接誰かが体験して感性や感覚を介することで判断されます。
つまり、「このデザインは、人にとってどう感じられるか」を熟慮しつつ、デジタルなツールを使いこなしてデザインをするためには、ツール自体を自在に操作する能力だけでなく、アウトプットされた「もの」や「こと」に対して身体的な感覚や感性に則した判断を下せる能力が求められてきます。

ハンドスカルプチャー
授業を担当したのを機に、久しぶりに制作したものです

「ハンドスカルプチャー」の課題を通して制作者が発見するであろうことは様々で、恐らく十人十色ではありますが、「デザインをするための身体的な感覚の使い方」に関する発見も多くあるだろうと思います。
例えば、「材料の特性(木目など)を読み取って、活かしながら加工する方法」「美しい造形を作るためには五感を研ぎ澄ますことの重要性」「道具自体の使い方より体の使い方が、道具を上手く使う要」などのことを、私自身はこの制作をきっかけに考えたように記憶しています。

学生たちが卒業を迎えてデザインを生業とすることになったら、世の他のデスクワークと同じく、パソコンの画面と向かい合い、デジタルの世界で仕事をすることの方がずっと多くなるでしょう。ただ、その仕事に使うツールがデジタルであってもアナログであっても、最終的なデザインを決めていくプロセスに必要な能力に、大きな違いはありません。美しい形を探り、両者を使いこなすために人間が必要とする能力は、シームレスなのではないかと思います。ただ、その能力をデジタルな世界の中だけで研鑽することは、今のところまだ難があります。

何らかの新しい技術の進歩・普及があれば、デザインにリアルな体感を必要としない新しい方法がいつか登場するのかもしれません。しかし、少なくともその時まではもうしばらく、デジタルを使うにも、まずはリアルな世界で様々な事物に触れて、感覚を研ぎ澄ましていく方法が必要なように感じています。

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