メディアアート教育の現場から見えるもの1

メディアアート教育の現場から見えるもの1

金箱 淳一(kanejun)
金箱 淳一(kanejun) (ID231) 公認maker 2014/04/24
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美大の授業で生まれた制作物に関しては、外に知られる機会は少ない。

私は楽器インタフェース研究者として活動する傍ら、美大で助手として働いている。私が補佐を担当しているメディアアート演習という授業では、アイデアの発想から、Arduinoやmax/mspを利用した具体的な制作手法を学び、4週間でアート作品を制作するという内容である。この授業を通して生まれたのが、syoukaという作品である。

大学生がどのように発想し、試行錯誤して制作したのかを、今回は根本瑞月さんのインタラクティブアート作品「syouka」を元に紐解いていく。

https://www.youtube.com/watch?v=QixEuYXTbw8&feature=youtu.be

この作品は、布で作られた花の下に立つと、映像が変化するプロジェクション作品である。

私はその繊細さに惹かれ、どのようにしてこの作品が生まれたのかに興味を持ち、本人にインタビューしてみることにした。

女子美・メディアアートとの出会い

—— はじめに、根本さんのバックグウランドを教えて下さい
根本:普通科の高校で、中学から美術部に在籍していました。高校の時はずっと、映像やアニメーションをやりたくてムサビの映像科に行こうと考えていました。周りに女子美の付属高校に行っていた子が結構いたり、先生が女子美出身だったこともあり、女子美を受けてみようと思いました。

—— 数ある選択授業の中で、インタラクティブアートを選んだのはなぜ?
根本:それはいろいろな人に聞かれますね。私はもともと光と影が好きなんです。例えばイルミネーションとか夜景、水族館に行くと、水槽だけ明るくて人が暗かったり。電気で照らされた時の人の影など、そういったものが気になっていました。そんな中、大学2年生の時に、ombracocco[1]という作品を思いつきました。スクリーンの前に人が立って、その影と画面の中のキャラクターが遊べたら面白いと考えて、映像と遊ぶ/リアクションが返ってくる要素を盛り込みたいというシンプルな理由で、金箱さんに作品の相談をしました。それが「インタラクティブアート」という作品の形式だと、その時初めて知りました。

[1] ombracocco
自分の影とアニメーションで遊べる作品。ombraとはイタリア語で「影」という意味。人が入ってくるとカメラが人の位置情報を取得し、アニメーションが変化する。友人2人との共同制作。

https://www.youtube.com/watch?v=-fzgq8ud8FE

映像と影が戯れる作品。これは放課後の教室

鑑賞者が決まった位置にくると、映像の主人公がキスをする

作品”syouka”に至るまでの道のり

—— なるほど。それでは授業で作ったsyoukaのコンセプトについて少し教えて下さい
根本:悩みや苦しみを消化させて昇華する。そういった作品を作りたいと思っていました。
syoukaを作っていた当時は、私自身とにかくいいものをつくりたい、皆を驚かせたいと躍起になって、発想ができなくて苦しいことがありました。それを友達に相談したとき、同じ悩みを持っている友だちがいたんですね。私は悩みを聞いてくれるだけで良いと感じる方なので、そういう悩みは人に話すのですが、その子は悩んでいたら外に打ち明けられない人でした。我慢しているのが普通みたいに思っているのかもしれないけれど、友達側からしたら寂しい。一言でも悩みが他人に言えれば、解決することもあると思うんです。頼れなくても、話す勇気、それに気づいてもらえるような作品を作りたいと思いました。この作品には、人が花の下に行くと、吸い上げてくれるようなインタラクションがあります。花にその悩みを聞いて(消化して)もらっているように見せたかった。

作品のアイデアスケッチ

—— 誰かを思って作品を作る、というのがとても印象的ですね。確かに、発想の過程では、だいぶ苦労していた印象を受けました。
根本:そうですね。悩んでいるその子のために作ったというのもありますが、作品に対して思い悩んでいたその時の私に向けた作品でもあったと思います。

——4週間という限られた制作期間の中で、コンセプトワークの期間が長かったよね?
根本:そうですね。3週間はかかっていました(笑)最初は、天蓋を使った作品を制作したいという気持ちがあり、その手法に囚われて、抜け出せずにいました。前の作品[2]の経験に引きずられていたのかもしれないですね。いつも作品を最後まで完成させたいと思いながらも、達成できていない部分があったのですが、前の作品はそれができていたと感じたんです。文化祭で展示した時も結構評判が良かったので、この手法を追求したいと思っていたのですが、考えれば考えるほど深みにはまっていって、難しい時もありました。

[2] FALL IN THE BED
眠りに落ちる感覚を具現化できないかと思い制作したインスタレーション作品。
タイトルの通りベッドに体が沈んで落ちてしまう夢か現実かわからない感覚を、エアベッドとソレノイドバルブで実現した。
鑑賞者が中央のベッドに横たわるとセンサーが反応し、頭上のスクリーンに映像が再生され、エアベッドから徐々に空気が抜けていく仕組み。

https://www.youtube.com/watch?v=p6ECowIM6QU&feature=youtu.be

作品体験の様子

体験者は寝転んで、上のスクリーンを見上げる

syoukaの作品形態

—— 次に、作品の形態について。布にプロジェクションするアイデアはいつ思い立ったの?
根本:テストで天蓋にプロジェクションしてみたら、とても綺麗に写ったんです。布の流れも映像を綺麗に見せることに一役買っていて、これしかない!と思いました。他にも紗など、いろいろな材質の布にプロジェクションのテストをしてみましたね。結果、天蓋に使われていた素材が一番きれいだったので、それに似た素材(チュール)を探しました。

天蓋へ映像を投影する実験

—— 結果としてプロジェクションマッピングになったよね。
根本:そのことは途中ではあまり意識していませんでした。プロジェクションマッピングが流行る前から、立体的な映像と触れ合えたら面白いと思っていたので、あの形態になっているのだと思います。

syoukaの制作手法

—— 布でできた花の作り方について少し教えて下さい。
根本:はじめはアール・ヌーヴォーをイメージしていたんです。針金に布を巻き付けて、鉄などを使ったもっと大きな構造体を考えていました。でもそれを実現するには、時間がないと。何しろ3週間をコンセプトワークに使っていたので。

針金の花へ映像を投影する実験

根本:そんな中、布だけで花を表現するのはどうかとアドバイスを頂いたんです。早速造花を買ってきて、それを解体して、型紙をとって、組み合わせて作ってみました。
一つ目の花を作った時は、造花を分解して参考にした型紙を使いました。でもこれは、布の面積をかなり多く使うし、形に統一性がないので、以降は作り方を変えてみました。花びらを、一枚ずつ切って、それをまち針を使って形を整えたのですが、のちのち考えると、一番初めに作った花のほうが綺麗だったと思います。

構造を知るため、造花を分解

—— 自然界のものは、全て同じ形ってないからね。後半の作り方の方は、なんだか工業製品みたいで、花の良さである個性が出ないということかな。他に、制作で苦労した点は?
根本:縫いですね。丸い花の形を作るために根元をほぼ縫っています。花びら同士をくっつけるのも縫い。後半は花びらが重なりすぎて、とても厚い布に針を刺すという重労働がありました。裁縫というよりも、縄で縛っている様な感じでしたね。茎のところは、金網を丸めて茎にして、そこに布を縫って取り付けていました。すぐ終わると高をくくっていたのですが、全く終わらなくて。作業量の多さに終盤はため息をついていました。

花びら同士をバランスを見ながら縫い合わせる作業

—— それを始めたのが講評6日前、と。(笑)
根本:全然時間がありませんでしたね。そのため家でもずっと作業をしていたのですが、あまりに慌てすぎて設置の日に家に花を忘れたりしたし。しかも二回(笑)。

花というモチーフ

—— モチーフに花を用いるのは、とても女性らしいと思いました。花をモチーフにしたのはなぜ?
根本:もともと、花とか植物をよく見ていたんです。母親がガーデニングをするので、小さい頃から花の名前を教えてもらっていたので、その経験を活かして、花を使って何か作品ができないかと考えていました。

—— そのアイデアと、天蓋に使っていた素材と組み合わさったと。
根本:そうですね。もともと月下美人という花を作りたいと思っていました。夜に咲く花です。でも花は、ディテールを詰めれば詰めるほど難しいですね。

テグスで花を吊るテスト

花の配置など、バランスを見てようやくこの形に

プログラミングについて

—— プログラミングに対しては、どういう意識を持っていますか?僕の個人的な印象ですが、美大でのプログラムは他の大学に比べて敷居が高いと思っているのだけれど。
根本:そうですね、やっぱり難しいです。ソースをコピーして改編していくという作り方は何となくわかったのですが、そのソースをどう探したら、最終的に自分がやりたいことにたどり着くのかが分かりづらかったです。何しろ初めての言葉が多いので、そこにつまずいていたこともあると思います。

—— それを聞いて、美大でプログラミングを教えるときは、新しく出てくる言葉や関数、概念を丁寧にフォローしていくが重要だと思いました。それを知っていれば、自分たちで調べることができるから。
根本:授業の中で少しわかったのが、前にこういうコードを書いたな、というのを思い出して、それを持ってくれば良いと考えるようになりました。でも、プログラミングは地道な作業ですよね。作業から結果を確認するまでの時間がかなりかかってしまうので、その中でモチベーションが徐々に下がってしまうという問題もあります。
皆、普通に絵が描けるし、絵の手法は皆熟知しているから。それと比較すると地味な作業だと思います。絵もそうですが、美大生は直感的に考えますよね。それに対して、プログラミングは論理的なことなので、苦手に感じることがある。まだまだハードルが高いと思いました。でも、作品を作るために基本的なところでもいいから知っておきたいとも思います。

—— 今後作ってみたいものは?
根本:またつまずくかもしれないけど、花をモチーフにした作品は発展させていきたいと思います。花や植物は自分の周りにたくさんあって、イメージもしやすいから。今度はきっちりと時間をかけ、針金で骨組みを作ったりしたいです。卒業制作では、見た人が何か心に思うようなもの、心に残るものを作りたいです。

—— そうですか、これからもがんばってください!

女性のみの美術大学でのメディアアート制作とは

根本さんへのインタビューから、光と影に対する純粋な興味から映像、そして映像と触れ合うことをモチベーションにインタラクティブアートに進んできたことがわかった。身近な実体験からコンセプトワークを丁寧に行い、プロジェクションのスクリーンを立体物で自作することで独自の世界観を築いた。プロジェクションマッピングという言葉が新しいものではなくなってきた現在、花を作るという「手仕事」が今までの作品との差をつけることを再度実感する機会となった。

そして、絵を描くという直感的な行為に慣れている学生にとって、論理的な思考が必要とされるプログラミングに対する敷居は未だに高いと感じた。「論理的な思考」を制作の中で上手く実践できる方法があれば、インタラクティブアートに取り組む人が増えるのではないかと考える。

例えば、過去の資産を大事にするようなやり方。機能毎に分解された小さなモジュールを組み合わせることで大きなプログラムにするという考え方。それを実践するためには「そういえばこのモジュールは前にここで使ったな」と思い出せることが重要である。そういった意味で関数のボキャブラリーを始め、できることを少しずつ増やしていくというのが正攻法だと思う。

彼女の言葉に印象的な一節がある「プログラミングは数式覚えるのと似ていますね。こういう数式が当てはまるから、これで解けると。」

自分が実現したい表現に対して、解決する問題をどう捉え、アプローチしていくか。そのためには、簡単に思い出せるくらいにコンパクトな単位に機能を分割して物事を考えるのが肝要だと考える。

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