「世界が4次元ポケットになる時代」工学博士 稲見昌彦インタビュー(1)

「世界が4次元ポケットになる時代」工学博士 稲見昌彦インタビュー(1)

稲見昌彦
稲見昌彦 (ID205) 公認maker 2014/04/24
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聞き手:高須正和

Makerが増えると世界は四次元ポケットになる!
「光学迷彩」の発明家、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)稲見昌彦教授からのメッセージ

研究者からMakerへ

—— 稲見先生の研究室は研究者を育てるだけでなくて、優れたMakerを育てています。なぜMakerが続々生まれるのですか?

ありがとうございます。たしかに、このDMM.makeに参加しているMakerでも、テクノ手芸部の吉田くん、バイバイワールドの高橋くん、あとYakulの穴井くんとかは研究室の出身です。あと、僕の研究室ではないですが、Rapiroの石渡さんも電通大時代によく交流していました。

彼らに共通の資質は「表現することを恐れない」ことです。研究もそうですが、表現するって基本的に恥ずかしいことだと思うのですよ。「ちゃんと人前で歌えるか」と。

たとえばRapiroの石渡さん、今はRapiroでブレイクして、もともとスゴイロボット作家でいきなり華々しくデビューしたように見えますが、電通大の学生時代は「飛び出す絵本」みたいな、ポップアップするカードを作って売っていました。彼らしく、ものすごくクオリティ高くて繊細で、知り合いでなくても欲しくなるような。当時から表現することについて、恐れがなかった。

学生を含めて、Makerになって欲しい人へのメッセージは「最初はコピーでいいからとにかく何か作れ、作って人に見せろ」です。どんな優れた歌手も、最初はコピーバンドから始まるわけです。そのうちだんだん、ちょっとずつアレンジするようになって、自分のカラーが出てくる。自分の作ったものを見てくれる人、お客さんは自分の鏡ですから、表現してコメントをもらって、恥ずかしいけど見てもらって、その時に見た人が喜んでくれるかどうか。そのうち、喜んで貰う人が増えて、作ることが楽しくなって、毎日オリジナルでものづくりをするのが楽しくてたまらなくなると、その人はプロになりつつあります。
「これはもうあるから、作らなくていい」と思って一歩踏み出さないと何も作れなくなる。けっこうそういう人もいるんですよ。過去の作品にものすごく詳しくて、本人もいろいろ作りたいのだけど、「まだ、自分は人前で発表する段階ではない」などと批判を恐れ、人に見せる前に踏みとどまってしまう人。それは、とても残念なことだと思います。

ドラえもんの道具を生み出そう

—— 先生の研究室から、研究者とMakerが共に生みだされているように、今では研究者とそうでない人の差が見えなくなりつつありますね。

僕ら工学系の研究者は「人類の誰もが見たことのない新しいもの、ドラえもんの道具」を生み出したいわけです。でも、昔は研究者しかそれができなかった。かつて研究は設備産業で、3DプリンタにしてもHMDにしても、モーションキャプチャ装置にしても、プロ研究者にならないと個人ではなかなか触れる機会は少なかったわけです。

今はそれが違います。自分が使っているものと、ニコニコ技術部の人たちが使っているもので、そこまで差がなくなってきた。いま、研究費の最も適切な利用法は「世界から優れた研究者を集める」ということかもしれません。新たな発想が生まれるには、コミュニティをつくることが重要です。そして、今の社会には研究者や大学以外にも「ドラえもんの道具を作る」ためのコミュニティが、リアルにもバーチャルにも生まれつつある。

その結果どうなったかというと、「インタラクション」という業界では国内最大規模のシンポジウムがあります。これまでにないインターフェースを研究者たちがつくる、まさにドラえもんの道具のような研究成果が出展されている。
たとえば「手と画面だけある、指相撲をインターネット越しに実現するシステム」や「家電製品に目玉をつけて、目玉が移動するシステム」などが展示されている。

http://www.youtube.com/watch?v=IT-pxnWx7Yg

もちろん私も過去に展示したり運営に関わっていたことがあります。

そのインタラクションが、近年Maker Faire東京と、レベルが変わらなくなってきている。インタラクションはそれだけで食べているプロの集まりです。Maker Faire東京はDIYの祭典ですよね。でも、学生教育や研究としての背景とかはともかく、展示物だけ見ると差が少ない。インラクションの展示の一部は突き抜けているのだけど、少なくとも「普通のプロ」は「上位のアマチュア」に負けつつある。インタラクションのレベルが下がっているわけではなくて、これは日本全体のクリエイティブのレベルが、すごく上がっているということでもあります。

カーネギーメロン大の金出武雄教授は、研究の肝は「素人発想、玄人実行」とおっしゃっています。使う道具でプロとアマの差が少なくなった現在、一発芸勝負だけではとてもプロとして生き残っていけない。私のようなプロにとっては厳しい時代ですが、これは歓迎すべきことだと思っています。元来研究はプロ・アマの垣根を超えた自由なものであるべきですし、プロはキチンと底力を見せられるよう奮起する機会でもあります。

ちなみに、集客では数も、多様さも完全にMakerFaireのほうが上ですよね。学生もMakerFaireに出すほうが燃えるようになってきている。
さっきもお話したとおり、観客の存在はすごく大事です。

日本全体が「4次元ポケット」にならなきゃいけない

工学研究の目的が「人類の誰もが見たことのない新しいもの、ドラえもんの道具」を作ることであるならば、それはとても楽しいことです。昔はプロの研究者しか、その楽しみを味わえなかった。それが今はだれでも「週末研究者」(ニコニコ学会的に「野生の研究者」と言いましょうか)ができるようになり、しかも野生の研究者のレベルがプロと変わらなくなってきている。プロの研究者が職業としてそれで食べていける、ずっとそれだけ考えていられるのはすばらしいことです。でも、野生の研究者には野生の研究者の強みがある。たとえばプロ研究者の間には「有用性」という概念があります。実際に何の役に立つか、何かを便利にすることができるかなどを表す概念で「新規性」(その研究がほかのどこにもないものか)とならんで、研究者にとって重要な概念です。でも野生の研究者はそこは深く追求しなくても良い。普段実社会で活動している彼らには、有用なこと(人を楽しませることを含めて)は当たり前のことで、身につきすぎて概念自体説明する必要がないわけです。また、新しいかどうかというより、今が旬かどうかの方が大切ということも「表現」と考えればそのとおりだと思います。

これまでインタラクティブ技術の研究者を脅かす存在はアーティストの方々でした。岩井俊雄さん、八谷和彦さん、クワクボリョウタさんといった人たちが、新しいビジョンとプロトタイプを提示して、ドラえもんの道具を生み出してきた。僕と八谷さんは「高度に洗練された技術は魔法と区別がつかない」(アーサー・C・クラーク)をスローガンにしている点で共通してるのですが、僕は学生時代に「視聴覚交換マシン」を体験して以降ずっと彼の背中を追ってきました。でも今では、Makerたち全体が仲間でありライバルになってきたわけです。これはすごく燃えること。ワクワクする時代になりました。

今、このDMM.Makeには、研究者、アーティスト、野生の研究者、ハードウェアの起業家、会社員、いろんな人が「Make」するためにいますよね。一つの場所に集まりつつある。「これが欲しい」と思ったものがポッと出てくる…これはまさ4次元ポケットみたいなものですし、実はドラえもんのポケットは未来のMakerたちにつながっているのかもしれません。

読み/書き/そろばん/ものづくり

—— 逆に、もっとビギナー、ものづくりをまだはじめてない人たちへのアドバイスはありますか。

僕は最近よく「読み・書き・そろばん・モノづくり」というのですが、思いついたものをまず形にしてみるプロトタイピングは、モノづくりのクオリティ向上のほかにも、実際的に生活の色々な面で役立ちます。

仕様書にした瞬間に魂が抜ける、ということはよくあります。モノには言葉にできないいろんな側面があって、プロトタイプを見せると、言葉なしでそれが相手に伝わります。それこそ外国の人と話すときに、英語を勉強するよりもプロトタイプを見せたほうがコミュニケーションが円滑に進んで、結果として英語のスキルが上がる、なんてことはあります。

http://vimeo.com/32763532

—— それは、理解できます。僕もこないだシンガポールのハッカースペースに、稲見先生の同僚の一人である勝本 雄一朗さん(DMM公認Maker)と一緒に遊びに行ったのですけど、自分たちが作ったもののムービーをいくつか見せるだけで仲良しになれました。勝本さんはムービーだけじゃなくて、NINJA Trackの現物も持って行っていたので、特に。2時間位しかいなかったのに、もうずっと前から友達だったみたいな感じになって、そのあとも頻繁にハッカースペースに呼ばれたり、メールが届いたりするようになりました。

そうですね、もう一つの「言語」のようなものだと思います。「Maker言語」のようなものが生まれて、その人たち同士でコミュニケーションができる。プロトタイピングができると、世界で使える新たな共通語を、上手にしゃべれるようになるぐらいの、便利さはあります。国籍や母語よりも「Makerかそうでないか」とかのほうがコミュニケーションには重要なのかもしれません。

共通言語は共通の通貨でもあって、いい情報をもらおうと思ったら、通常は本を買うなりお客さんとして行って、お金を払うぐらいしか手段がないわけです。それが、研究者やMakerの世界では、自分が作った面白いモノを見せれば、向こうも負けじとモノを見せてくる。それこそ初対面でも未発表の秘密のお話まで。だから、その意味でもMakeできたほうが便利なんですよ。よく学生には「先に語学留学するのではなくて、語学を勉強できるようになるために、相手に興味を持ってもらうために、まず名刺になるようなモノをつくれるようになれ」と言っています。

楽しい以外に、そういう実利的な意味もあります。なにか新しい趣味を始めたい、時間が余っている、そういう人にはぜひモノづくりをおすすめしたいですね。

(つづく)

次回以降の掲載/「デジタルファブリケーションで何が変わったか」「工学部の強みと限界」「アイデアとカルチャーで新しいものを産まないと日本の未来は危うい」など

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