超音波の話をしよう(8)「Pixie Dust」

超音波の話をしよう(8)「Pixie Dust」

星貴之
星貴之 (ID1529) 公認maker 2015/09/30
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こんにちは。超音波研究者をやっている、名古屋工業大学の星です。

超音波を集束させる装置を使ってあれこれ新しいことをしようとしています。前回はそれが認められて文部科学省に行ってきた話をしました。

今回は再び共同研究のお話です。

モノが浮いて動き回る時代

本連載の初回でも紹介した、筑波大学・落合陽一 助教との共同研究です。
また彼の博士論文の方向性を決めた記念碑的な研究でもあります。

http://youtu.be/odJxJRAxdFU

Three-Dimensional Mid-Air Acoustic Manipulation
(三次元音響浮遊)2014

2014年1月1日に動画を公開してから、再生回数340万回を突破しました。連載第4回「lapillus bug」と同様、音響浮揚(超音波の定在波の音圧の節に、小さい物体が捉えられて浮く現象)にもとづいています。ただし定在波の発生方式が違います。

lapillus bugも含めて、よくある定在波の作り方は壁面での反射を利用する方法です。一方、本研究では贅沢にも(笑)超音波装置を4台使って、それらで囲った空間内に定在波を発生させています。向かい合っている装置の片方が焦点を自分から遠くに、もう片方が自分の近くに動かすことにより、上下左右だけでなく奥行方向にも定在波を移動させることができます。

この研究は、世界初の三次元操作が可能な音響浮揚として世界中から注目を集めました。ナショナルジオグラフィックに詳しい解説記事が掲載されたのは特にうれしかったです。
Scientists Move Levitating Objects Through Space for the First Time
物体の音波浮揚、3次元操作に成功

計算機制御された音響場

三次元音響浮遊のための最小構成は、向い合せにした超音波装置2台です。
これで一本の線ができます。

http://youtu.be/w0KGPeLpLHo

対向する超音波フェーズドアレイを用いた三次元非接触マニピュレーション 2013

撒いた粒が空中に捕まっていく冒頭のシーンがお気に入りです。
実験中、何回もやって堪能しました。

きっかけは本当に偶然でした。2013年2月、連載第3回「コロイドディスプレイ」の実験中、落合助教(当時、東京大博士課程1年)がふとした思い付きで2台の超音波装置を向い合せにしたのです。そして東京大・暦本教授がたまたま所有していたパウダービーズクッションの中身(詰め替え用)を撒いたら・・・

「浮いたw」

もしかして動くんじゃね?・・・

「動いたwww」

そのあと先行研究を調べて原理を勉強したという、、、

ちなみに原理については「指でつまむように、両側から超音波で挟み込んでつまんでいます」と説明することが多いのですが、専門的には定在波の中で音響放射圧とベルヌーイの定理が絡み合った結果です。物体があってそこに力を加えるというより、あらかじめ用意されていた超音波の強弱分布に物体が捕まる。クモの巣みたいなイメージです。

ところで超音波の定在波は一直線に限らず、他の分布もありえます。
この気付きが、次のステップへと繋がりました。

ピクシーダスト

三次元音響浮遊を拡張した研究です。Pixie Dustとはピーターパンのティンカーベルが振り撒く「妖精の粉」のことで、この粉(と信じる心)があれば空を飛ぶことができます。イメージがぴったりなので、プロジェクト名としました。たまに「Pixel Dust」と覚えている人もいたり(笑)

http://youtu.be/NLgD3EtxwdY

Pixie Dust: Graphical Levitation System
(空中描画システムPixie Dust)2014

三次元音響浮遊からの差分としては、線から面への拡張と、グラフィクスとしての意味付け、の2点があります。

超音波装置には縦横に超音波振動子が並んでいます。これまでは縦横両方に位相制御を施すことで細い超音波ビームを作っていました。ところで縦だけに位相制御を施し、横方向には同じ位相とすることで、薄く幅広いシートビームを作ることができます。これを四方向から重ね合わせて格子状の定在波を発生させています。実は、シートビームについては慶應大・稲見教授からいただいた2013年10月の別件のコメントがヒントになっています。ありがたいことです。

世界最大のコンピュータグラフィクスの学会SIGGRAPHへの投稿論文では、本研究を下敷きとして「空中に浮かせた現実の物体を使ってグラフィクスを描く!」という新しい概念を提唱しました。具体的には、格子状に浮揚した粒々を映像投影のスクリーンとする、必要ない部分を落として粒々で形状を描く、浮かせた粒を高速で動かした軌跡と残像で線を描く、浮かせた様々な物体に動きを与える(=アニメーション)、の4パターンの方法があります。

三次元音響浮遊およびPixie Dustは各方面から評価され、超音波シンポジウム 奨励賞、Laval Virtual Awards部門賞&審査員特別賞、SIGGRAPH Technical Paper & Emerging Technologies & Poster採択、経済産業省Innovative Technologies採択&特別賞、グッドデザイン賞、Todai To Texas 4位通過によるSXSW出展権獲得、などの実績を残しています。さらに落合助教は、本研究を発展させたプロジェクトで総務省・異能(inno)vationプログラムに採択されています。そして米国法人Pixie Dust Technologies, Inc. 設立へと繋がりました。
http://pixiedusttech.com/

ということで、今回は筑波大・落合助教と行っている共同研究について紹介しました。ご意見・ご要望などあれば、コメントやメール、ツイッターなどでお知らせいただけると反映するかもです。それではまた☆彡

これまでの連載:星貴之

超音波の話をしよう(7)「ナイスステップ」
https://media.dmm-make.com/item/3577/

超音波の話をしよう(6)「集束超音波を広めたい」
https://media.dmm-make.com/item/2531/

超音波の話をしよう(5)「Graffiti Fur」
https://media.dmm-make.com/item/2529/

超音波の話をしよう(4)「lapillus bug」
https://media.dmm-make.com/item/2477/

超音波の話をしよう(3)「コロイドディスプレイ」
https://media.dmm-make.com/item/2413/

超音波の話をしよう(2)「集束超音波で遊んでみた」
https://media.dmm-make.com/item/2209/

超音波の話をしよう(1)「不触(さわらず)の誓い」
https://media.dmm-make.com/item/1577/

参考にしてくれた記事

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