MAKERS #3「TRYBOTS 代表 近藤那央」
このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・髙岡謙太郎/写真・椎谷達大)
ペンギン型水中移動ロボット「もるペン!」のすみだ水族館でのテスト遊泳の動画
羽ばたきだけで水中を泳ぐペンギン型ロボット「もるペン!」は、高校時代のクラスメイトとの卒業研究。水族館のペンギンプールで本物のペンギンと並んで泳がせる動作実験などが話題を呼び、現在はDMM.make AKIBAのスカラーシップ生として日夜制作に勤しむ近藤那央さん。彼女は現在、夏に開催される浜松科学館での展示に向けて「もるペン!」のバージョンアップ中。徹夜続きの近藤さんに少々お時間を頂いて近況をお聞きしました。
・浜松科学館
http://www.hamamatsu-kagakukan.jp/
・生き物から学ぼう!展
http://www.hcf.or.jp/facilities/kagakukan/SummerExhibition/
近藤那央
ペンギン型水中移動ロボット「もるペン!」開発の「ロボットいきもの工房TRYBOTS」代表。ミスiD2015でテクノロジー系TVなどで喋ったり。たまに作曲・執筆。東工大附機械科からの慶應SFC3年。
http://trybots.tumblr.com/
――浜松科学館で「もるペン!」の展示が始まるので、今はお忙しそうですね。
浜松と行ったり来たりなんです。来週から搬入で、今ここでデバッグ中。展示期間の一ヶ月、特別展用のプールの中を泳ぎっぱなしで、動き続けるための耐久性も必要なんです。お客さんにオペレーションしてもらうので、万が一壊れても修理しやすいよう構造を簡単にして。メンバーがシフト制で展示会場に滞在するようにしています。
――「もるペン!」を作られたきっかけは?
高校の卒業研究で始めてずっと続けている感じです。ペンギンの泳ぎ方が早いので作ってみたいと感じたのがきっかけです。羽ばたきだけで泳がせることはこだわっているところです。メンバーはみんな高校の同級生で、始める前はクラスの友達でした。工業高校なので「もるペン!」は授業の一環の卒業研究なんです。メンバーの3人は、高1から同じクラスで6年目ですね。プロジェクトを始めて4年目です。
――今回展示されるバージョンと今までの違いを教えてください。
信頼性の向上など、どんどん性能が良くなっています。Ver6は機能がもりもり。テレイグジスタンスができるタイプで、水中の映像を遠隔でインターネット経由で見ることができました。今回はその機能をやめて、防水や破損に気をつけて展示期間中に長く泳ぐ事を想定して作っています。展示では基本的に鑑賞する人が操作して泳がせるようになっています。科学館の展示は前からやってみたかったのですが、常設展示は今までにやったことがないのでかなり難しいです。
――他に作ろうとしているものはありますか?
水中型でテレイグジスタンスができるだけの簡単なロボットのクラゲとかを作りたいんですけど、今は展示の作業につきっきり。ひとつの仕事が終わったらどんどん次の仕事を頂くのでそれにいっぱいいっぱいですね。
――スケジュールがいっぱいなんですね。
私は学生なので本業が忙しくて。今テスト期間ですが、うちの大学はゆるいのでどうにか。メンバーは5人いますが、他のメンバーは電気とメカとソフト担当です。私は何でもやります。
――DMM.make AKIBAのスカラシップはどういったきっかけで始めましたか?
私たちはゼロ期生なんですよ。DMM.make AKIBAの方から声を掛けていただいて。機材を使ったらお金かかるんですけど一部免除してもらっていることや、いろいろなイベントに呼んでくださったりとか助かってます。ここではハンダ付けやプログラムを書いたり金属加工したりしていますが、24時間いつ行ってもやりたいことができる。あとはいたたまれなくなって助けてくれるフリーランスのエンジニアさんが多いです。時間を気にせず手伝ってくださることが多くて、デバッグができないとか、動かないとか、そういう時に本当に助かってます。
――どれぐらいの頻度でDMM.make AKIBAにいますか?
プロジェクトがどれくらい忙しいかによります。先週から今週にかけては毎日。今、昼夜逆転中なので、週4くらい泊まっています。DMM.make AKIBAには一部夜行性の方たちがいて、皆さんが手伝ってくださる夜中は作業が濃い。皆さん22時くらいに集まってくださって、夜通し作業を手伝って明け方帰られるんです。この一週間フルコミットしていただいて、感謝しきれません。私は日中は大学があり、しかも大学が藤沢なので遠くて、2時間ぐらいかかるので大変。今日は寝てから来ました。明日は授業ないんですけれど、明日朝から電車で寝ようかな。忙しいですね……。
――子供の頃はどういったことに興味がありました?
お絵かき。アニメとかですかね。子供といっても中学生ぐらいですよね。私にとっては、ちょっと前ぐらいなんで。中学生の1年間は「化物語」とかアニメが好きでした。小学校の頃は「電脳コイル」が好きで、「電脳コイル」的な思想があります。私も作ったんですが、VR系の表現とかすごいじゃないですか。美術系にも興味がありましたが、高校受験の頃、小惑星探査機はやぶさの帰還の生中継をみて感動した事がきっかけで、工業系高校に進学しました。
――展示されるまでに至る卒業制作は他にもあるんですか?
みんな続けていればできると思いますよ。もっと技術のある作品はたくさんあるし、すごいロボットはあります。でも、みんな卒業前に受験が始まると、単位を取って終わってしまう場合が多い。私たちが続いているのは、次の目標が出来たっていうのと、みんな推薦入試で受かったので時間ができたからだと思います。その時の目標は水族館で泳がせるということでしたが、叶いました。
――今後の大きな目標はありますか?
このチームで食べていけたらいいなと思います。今回の展示は作品をリース(貸出)しているんですよ。これがうまく行ったら次のステップに入れると思うんです。採算が赤字じゃなければいいなと思っています。ちゃんとビジネスになって自分たちのお小遣いが入れば。もともと趣味でやっていることなので材料費が必要です。続けていきたいっていうことになると、ある程度資金がないと次にいけないので。
作りたいから作る、というものなので、それを続けるために色々頑張っています。仕事が楽しいというよりも、たくさんの人に見てもらえるし、できなかったことができるようになったり、新しいチャレンジをするのが嬉しいです。DMM.make AKIBAの機材を使えることで、自分たちのポケットマネーではできないような加工ができるのも。友達も作品を作ってるんですけど本当にお金がなくて困っています。作りたいけど作れない。その点私たちは運が良くて、いま楽しんで作れているので良かったと思います。
起業する感じでもないからビジコンとかは出せないんです。「作りたいから作る」みたいなモチベーションだし、ビジネスプランがあるわけではないので合致しないんですよね。でももっと面白いものを作ってロボコンとかで勝ちたいかな。面白いものを作りたい学生に対しての何か支援があるといいなと思いますね。みんなビジコンとかばっかりなんですよね。私は起業したいというわけではないので。
――自分でそういう立ち位置だとわかって活動されているんですね。そういった流れと別の流れを作ってみたい?
地道に作っていくことが重要ですね。あと運と感性。学生だからフルコミットできないということもあって、学生であることを利用しつつ気持ち的にはプロで。どこまでできるか難しいですけど、お仕事をいただいたらしっかり対応していきたいです。
――近藤さん自身が創っていきたい世界について聞かせていただけますか?
私はロボットが好きなので、サービスロボットが作りたいですね。ペッパーのような、人とコミュニケーションを取って何かをするロボットをずっと開発していたいと思います。「もるペン!」はロボットの足回りがよくなった感じで、頭を良くする以前の問題。まずは水の中で泳げるようになったので、次は頭も良くできたらハッピーみたいな。ペンギンのコミュニケーションでいうと、水の中で人と泳いだり、水泳を教えたりできたらいいですね。水生生物みたいにただ遊んでくれるとか、アトラクションですね。
数日後、浜松科学館での「もるペン!」の展示が開催!
展示間際の切羽詰まった作業中に行った前半のインタビュー。それから日を改め、展示が開催されてから後日談をお聞きしました。
――数日前から展示が開催されましたが、いかがでしたか?
展示するまではどんどん壊れたので、いかに壊れないように修正をかけるかが大変でした。死にそうでしたよ(笑)。昨日やっと安定して、今日は何も壊れずに終わったみたいです。昨日まで張り付きでしたが、今日はやっと大学に行けました。会場はそんなに広くないんですけれど、この展示がメインなんです。会場に2.5×4.5メートルの水槽が二台あって、同時に動かしています。子供向けの展示なので小さな子が動かすことが多かったのですが、50人くらいが楽しんでいました。メンバーと交代で会場に行っていて、今週末も展示会場に行きます。
――最後にコメントなどありましたら。
今回の展示に関して、夜中もずっと作業を手伝っていただいたり、本当に総力戦という感じでDMM.make AKIBAのすべての人にお世話になりました。ありがとうございました!
浜松科学館で見事な泳ぎを見せる「もるペン!」
展示は7月16日(土) 〜 8月31日(水) まで。7月24日(日)には記念講演会に登壇。
DMM.make AKIBAから一言
ある朝出勤すると、Baseのフリーアドレスエリアの一角が工具箱をひっくり返したような大変な状況に。そこには、文字通り工具箱をひっくり返して「もるペン!」の制作に追われているTRYBOTSのメンバーがいました。その周辺には、修羅場に巻き込まれたエンジニアの皆さんが徹夜明けで朝を迎えており・・・。 「もるペン!」の浜松科学館展示に向けてひたむきに頑張る姿を見兼ねたエンジニアさんたちが夜通し作業を手伝ったり、支配人の呼びかけでスタッフ有志が差し入れをしたり、AKIBAのみんなでTRYBOTSを支えよう!という空気になっていたのですが、那央ちゃんの熱量が人を惹き付け、巻き込んでいくのだなぁとしみじみ感じた一週間でした。これからもDMM.make AKIBAは、TRYBOTSと那央ちゃんの活動を応援していきたいと思います。(編集・境 理恵)
◆才能ある若いメイカーズを支援するDMM.make AKIBA Scholarshipについて
詳細はこちら→https://akiba.dmm-make.com/about/scholarship
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