MAKERS #4「primesap株式会社 代表取締役 木村岳」

MAKERS #4「primesap株式会社 代表取締役 木村岳」

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2016/08/24
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。

モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・髙岡謙太郎/写真・杉山周二)

https://www.youtube.com/watch?v=gEodKBtSQRM

ボクシングのミットにセンサーを埋め込んで、パンチの速度を測定する機材のデモ動画。木村さん自らが実演

IoT(Internet of Things)を用いて健康促進を目的としたプロダクトを提供する、primesap。人体動作測定を高速かつ精緻に行うことができるモーションセンサーを自社製作し、アスリートの身体を計測。計測した数値からより効果的なフォームを導き出すという、今後のスポーツ選手にとって不可欠になるであろうソリューション「LiveTrac」を開発した。その開発スピードアップのため、DMM.make AKIBAにオフィスを移転して第二創業。その第二創業当時から現在手掛けるプロダクトの話だけでなく、木村さんならではの健康に関する観点についても伺った。

primesap株式会社代表取締役 木村岳(きむらたけし)
1959年生まれ。プラントエンジニアリング会社でインドネシアにてLPGプラント建設プロジェクト駐在。銀行系シンクタンクにて大規模都市開発の事業企画と商業不動産のマーケティングのコンサルティングに従事。ビジネススクールを経てIT系戦略コンサルティングファームで米国本社勤務。日本国内の製造業や通信、電力大手と数々のICT系事業立ち上げを手掛ける。同社のAPJ撤退を機にプロジェクトチームごと国内大手広告会社グループに移籍。その後プライベートファンド系事業会社でスタートアップのハンズオン。2010年にprimesap株式会社を’クロスボーダーな技術戦略コンサルティング会社’として設立。2014年よりIoTヘルスケアを社内事業として立ち上げ、2015年からIoTヘルスケアソリューションの開発を本格化してDMM.makeアキバに移転。
東北大学工学部大学院修士課程修了、南カリフォルニア大学経営大学院修士課程修了、昭和大学医学部大学院博士課程在学中。
http://primesap.com/

――まずはprimesapの成り立ちについて教えていただけますか?

私は元々コンサルタントとして、大手企業の経営企画や事業企画を相手に戦略構築や事業立ち上げをしていて、2010年に独立してコンサルティングの会社としてprimesapを立ち上げました。海外とのネットワークが強かったので、海外のオーナーや創業者と組んでクロスボーダーに知財戦略・技術戦略を提供すると看板を掲げたところ、まずはタイ政府の商務省とITC省から、タイのIT輸出を強化したいという相談を受けました。確かにタイには優秀なITベンチャーがたくさんあったのですが、海外でのブランディングができていなかったので、ITベンチャーが複数社連携してアンブレラブランドを作り、タイで成功事例を作ることでショウケースにしようという戦略提案をしました。最初はツーリズムをテーマにしたデジタルマーケティング系の基盤構築でした。タイはインバウンドのツーリズムが非常に強く、毎年3千万人前後が世界中から集まってくるので、この訪タイ外国人観光客向けにITを活用する事例作りを目指しました。

タイに来た外国人観光客がまず必要となるのは、インターネットに繋がるWi-Fiのアクセスであり、地元の情報です。これらに対応するためのインターネットの接続基盤、インターネット電話で現地の通訳が対応する仕組み、そしてSNSを使った旅行者の出身国内と似た興味範囲のフィードが得られる仕組みを作りました。

ここで提案したソリューションを、そのままのメンバーで日本国内のビジネスプランコンテストにも応募しました。その当時の日本の空港の到着ロビーには、インターネット接続を案内する表示がなく、レンタルのWi-FiやSIMのカウンターも非常にわかりづらい場所にありました。そうなると、空港エリアの商業やサービス業の方々はそういった潜在的な顧客に対してリーチする手段を持たないことになります。そこで、タイで成功させた「Wi-Fi接続機能とSNSとマップ、IP電話をまとめたスマホアプリとウェブサービスを空港エリアで展開し、インバウンドツーリストをエリアの商業・サービス業に引き込む」というプランでいくつかのビジネスコンテストに応募し、2012年には2回、賞を頂くことが出来ました。また、この時期には、タイ政府がASEAN各国で開催した、タイのITや技術を紹介する展示会で基調講演をさせていただきました。

ちなみに、その仕組みを構成したタイのITベンチャーは、バンコク郊外のショッピングモールで同様のサービスを展開しています。ショッピングモール内で来訪者の歩いて行く方向の先にある店舗のマーケティングコンテンツを配信したり、そのあとの購買行動をルールエンジンに反映させて、ディスカウントや新しい商品などのコンテンツを最適化するということを今でも実際に運用しています。

――そこから現在の健康に関する製品を作るようになったきっかけはなんでしょう?

ツーリズムが成功したので、次の産業は?ということで提示されたのが、メディカル(医療)でした。タイの面白い点は病院を株式会社化できること。タイは国民皆保険なのですが、自由診療と保険診療のどちらも認められる。日本では診療内容が同じであれば、ベテランの医者でも新人でも患者が負担する料金は同じですが、タイのビジネスとして運営する病院では、病院側が自由に料金を設定しています。

そこで、タイの商務省および厚生省と、日本の技術とタイの医療が連携することで高い付加価値を生み出そうというプロジェクトを立ち上げました。また、primesapが中心となって日本側に任意団体「WellAgingJapan」を作りました。これはさまざまな角度から健康を科学して、健康寿命の延伸するということを目的に、あらゆる分野から関連する技術を持つ会社に集まってもらったもので、2012年から3年間、「WellAgingJapan」はタイの医療ビジネスの方々とディスカッションを重ねています。

日本人の寿命が世界一レベルであることはよく知られていますが、私がこのプロジェクトを通じて知ったのが、日本人の健康寿命はそれほど長くないと言うこと。健康寿命とは、介護を必要としない限界年齢のことです。健康寿命と寿命のギャップで比較すると、日本を除く先進国では6年前後であるのに対して、日本はそのギャップが11年です。言い換えると日本人は死に至る11年前から自力で生活出来ないと言うこと。これは、日本の医療技術が極めて素晴らしく、延命させることに非常に強いと言うことです。これ自体は悪いことではないけれど、健康でない状態で生きているだけなのは当然ハッピーではないから、そのギャップを短くする、つまり健康寿命を延伸するソリューションを作りたい。その思いが日に日に強くなり、primesapで事業として取り組むことを決意するに至りました。

健康寿命を延伸するソリューションを作るためには、医療の知識だけでもハードウェアだけでもだめです。メディカルとエンジニアリングとビッグデータをボーダレスに融合した、本気のソリューションを考えた時に、そのためのハードウェアが無いことがわかり、2015年にDMM.make AKIBAにオフィスを移して、ハードウェアも開発することにしました。

――primesapの健康に関する考えを聞かせていただけますか?

人間の運動機能に限定すれば、オリンピックやプロスポーツのアスリートは非常に良い状態であるといえます。その対極に寝たきりの状態がプロットされるとすると、我々はすべて、この間のどこかにいる。人はみな、運動機能を低下させたくないと思っているけれど、これをシームレスにカバーできるサービスはなかなか無い。そこをシームレスにやろうとするのが我々の会社なのです。

――primesapにはどういった方が参加されていますか?

primesapが目指しているのは、健康寿命と寿命のギャップを短くすること。そのためには、体の良い状態も悪い状態もわかることが重要です。なので、まずはアスリートや健康な状態を深く理解しているお医者様に参加してもらいたかった。primesapのチーフメディカルオフィサーは、オリンピックのチームドクターを数回経験しています。日本プロ野球機構のメディカルチームにも所属し、野球連盟の医療チームの座長です。彼は、アスリートが故障しても、そこから適切な治療を経て元のパフォーマンスに戻るプロセスを知っているわけです。そして弊社のエンジニアは組み込みもクラウドもわかり、人体の構造も理解できるので、センサーが測定した人体動作やバイタルデータを、メディカルオフィサーとディスカッションしながら、的確にビジュアライズすることができます。さらには、フィールドでアスリートを測定しながら、コーチと話し合いながらソフトウェアをその場で作るといったことまでやってしまいます。

私自身は元々エンジニアで、その後コンサルタントに転身して、技術をマネタイズする戦略を国内外で手がけてきました。その中では、今で言うビッグデータやディープラーニングのようなこともやって来ましたが、今のプロジェクトではオペレーションズ・リサーチやデータモデリングなどが非常に役立っています。

――現在はどういったプロダクトを製作されていますか?

先ほどの身体機能のスケールで表現すると、最良の状態であるアスリート向けと、悪い状態の方向けの両側をターゲットにしたプロダクトを製作しています。中間部分は非常に多くのプレイヤーがウェアラブルセンサーを提供している状態なので、そこは優先順位を下げています。

アスリートの動作解析ソリューションは出荷を開始していて、野球の投球動作やボクシングのパンチなど、非常に早い動作をキャプチャーして、無線でリアルタイムに解析するような機能を提供しています。

解剖学的なスポーツ動作の研究では、関節の回転動作が重要。野球のピッチャーは、肩や肘を故障することがありますが、これは関節が無理な回転をするからです。一方で、故障する状態と最大のパフォーマンスが出ている状態は非常に近いことがあり、限界のところで故障せずに安定できるのが理想。我々の体が人それぞれ違うように、関節の可動域も人によってそれぞれ違います。

体に装着する以外に、ボールやボクシングのサンドバッグに埋め込むセンサーも開発しています。使用するセンサーは動作測定のものと同じですが、投球動作によるボールの回転や、打撃動作によるパンチのインパクトやスピードを評価することで、動作自体の評価を深めることが出来ます。

――内蔵されている基盤が小さくなったから開発できたというのが大きいのでしょうか?

現在のプロダクトはインテルの技術サポートを頂くことで開発が大きく進みました。我々のプロダクトは、より精緻に動作を評価することを目的にしているので、体に装着したデバイス自体で結構複雑な演算処理をしています。インテルからサポートを受ける以前に使っていたプロセッサでは、それは不可能でした。インテルの次の世代のモジュールではより小型化できる予定です。

――スポーツの種目は野球以外も作られていますよね?

はい。水泳、スキー、ボクシング、陸上競技の単長距離、サッカーなど広げていて、最終的にはオリンピック競技のようにメジャーな種目は全部カバーする予定です。いろいろ手を広げているように思われるかもしれませんが、基本的な技術は一緒で、測定する種目によって測定するポイントやアルゴリズムをチューニングするというやり方なので、多くの種目をカバーすることは無理なく実現できます。

――こういったことに取り組んでいる他の企業はありますか?

コンシューマー向けでは、エプソンやソニーがテニスのラケットエンドにセンサーを付けてプレイヤーのスイングを解析するデバイスを販売しています。富士通はスマートフォンを腰に固定してゴルファーのスイングを解析するアプリをずいぶん前にリリースしています。また、韓国のベンチャーによる、ラウンド中でも全身に取り付けることができるセンサーで、ゴルファーのスウィングを細かく解析するものなどがあります。

医療やバイオメカの研究向けでは、光学式モーションキャプチャーシステムを使用するものや、我々のものと同様にMEMSセンサーを使用するものなど、様々な種類のものがあります。
我々のソリューションは、プロジェクトに多くの医療研究者が参加し、私自身も医学部大学院に席を置いて、研究者の視点で設計しています。スポーツの動作中に、解剖学的な視点でリアルタイムにデータ解析しているものは、まだ他にはないと思います。

――ビジネスとしての規模感を聞かせてください。

基本、我々のようなソリューションによって改善できる分が、我々のようなビジネスのマーケットサイズであると考えています。例えば、我が国の高齢者医療は15兆円。我々のソリューションで1割の高齢者の方々が元気になり1.5兆円の支出削減に繋がるとすると、さらにその1割の1500億円は、我々のターゲットであり得ます。高齢化は先進国に共通する課題ですし、先進国以外でも富裕層には既に顕在化している課題です。世界中にマーケットは存在します。

アスリートに関しては選手の獲得のためのコストや、育成のためのコストの5%ぐらいが妥当と考えています。オリンピック関連の選手強化費用は概算250億円、プロ野球選手の年俸は全球団で推計360億円。我々のソリューションを使用することで故障を防止し、パフォーマンス向上が期待できるのであれば、十分な導入動機ではないでしょうか?

――では、エキスパートのアスリートとは逆に、アクティブでは無い方向けのプロダクトはありますか?

独居高齢者向けの見守りソリューションも開発しています。さくらインターネットとインテルのスカラーシップでも採択して頂き、現在実証試験に入っています。ゲートウェイを宅内に設けて、就寝中は布団やベッドのセンサーによるチェックで、日中はウェアラブルな動作記録センサーによるチェック。風呂やトイレなどセンサーを取り外す場面ではコンピュータービジョンによるチェックといった形で、それぞれ状態を把握します。センサーのデータパターンで異常を検知すると緊急かどうかを判断し、緊急でない場合はライフログとして記録を続ける。これをビッグデータ化することで、緊急事態の予見や健康状態の改善のための提案をするような、プロアクティブな見守りを目指しています。

――木村さん自身のお話もお聞きしたいのですが、もともとスポーツはされていましたか?

私はずっと体育会系で、高校・大学と陸上の棒高跳びの選手でした。ただし地区大会でようやく入賞するレベルなので、アスリートとしては二流以下です。大学院の時もサーフィンやトライアスロンなど運動は継続していました。その後、社会人になってから海外駐在などで運動ができない期間が長くなり、一時は100kg近くまで太ってしまいました。そこから減量するためにフィットネスクラブに通ったのですが、そこの指導方法に疑問を持ったことがきっかけとなり、トレーニング理論や生理学を勉強するようになりました。今のプロジェクトを立ち上げたあたりから、トレーナーの方々と様々なメソッドを検討するようになりましたが、今は私自身が最初のテスターとなっています。今のこの身体を作ったのはここ2年ぐらいです。つい先日、フィットネスクラブの心肺機能診断システムで、18歳と測定されました(笑)。実は今年57歳なんですけどね。

――DMM.make AKIBAでは、どういったことをされていますか?

primesapは、私とCTOとチーフメディカルオフィサーの3人がコアメンバー。メディカルオフィサーは病院の院長でもあるので、必要に応じてここに来ます。CTOと私は基本的に常駐していて、私は今ファンドレイズに向けての準備や、特許に関する資料作成を行っています。また身体にセンサーを装着する、アンカーシステムと呼んでいる治具の設計もやっています。ハードウェアの組み立ても、昔は私もやっていましたが、今はもっぱらCTOに任せっきりです。

――primesapの今後の展望をお聞かせください。

まずは、今手がけているアスリート向けソリューション「LiveTrac」と、独居高齢者見守り・院内施設内看視システム「LifeTrac」を軌道に載せることを目指して、国内外で販売パートナーとユーザーを確保すること。これは2016年内に完了します。これらはすべて動作解析技術がベースです。
動作解析のソリューションに関する次のフェイズは、特許出願中のデバイス技術を実装して超高速化することと、AIによる解析を実用化することです。これらは2017年前半には完了します。

そして、健康寿命延伸のテーマのためには、運動機能だけではなく、心肺機能と脂質代謝機能についてのソリューションも提供します。これは2017年後半ですね。
資金調達は段階的に進めています。これらのソリューション開発を加速するには、最終的には病院やフィットネスクラブの買収も視野に入れています。国内外問わずに様々な動きを検討しています。

それと、primesapはエグジットをゴールとする会社ではありません。私とチーフメディカルオフィサーは50代ですが、それぞれ後継者育成に入っています。健康寿命延伸は永遠のテーマなので、primesapも永遠に続きます。100年後にはX-MENを作れるぐらいになりたいですね(笑)。

DMM.make AKIBAから一言

いつも、しゃんとした姿勢で颯爽と歩いている印象の木村さん。今回のインタビューを通して、「人が健康で幸福に暮らすこと」への思いを知るにあたり、木村さんの若々しさの秘訣も少し分かったような気がしました。自虐的に「じじいベンチャー」なんて名乗って笑っている木村さんですが、グローバルマーケットを見据え戦略的に取り組む木村さんの背中から、若いスタートアップが学ぶことは多いのではないでしょうか?

”知的でダンディなナイスミドル”というイメージと裏腹に、ときどき自室(TeamRoom)内にカードキーを置き忘れたまま外に出て部屋に戻れなくなり、運営スタッフに助けを求めにくるという、お茶目な一面もお持ちの木村さんなのでした・・・。(編集・境 理恵)

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