超音波の話をしよう(13)「音響浮揚いろいろ」

超音波の話をしよう(13)「音響浮揚いろいろ」

星貴之
星貴之 (ID1529) 公認maker 2016/08/17
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こんにちは。超音波研究者をやっている、東京大学の星です(名古屋工業大学から異動しました)。

超音波を集束させる装置を使ってあれこれ新しいことをしようとしています。前回は通販で作れる「DIY音響浮揚装置」を紹介しました。

ところで、音響浮揚はここ数年で急速に多様化しています。何となく眺めているとどれも同じに見えてきて、話題になるたび何が新しいのか分からなくなってしまいます。今回はそのあたりを整理してみようと思います。

さっそくですが、音響浮揚の原理を列挙します。音でものが浮くこと自体は1900年代から示され多くの研究報告がなされてきましたが、2000年代に入って次々と新たな原理が提案されています。

【密閉型】
● 定在波音響浮揚
 ○ 垂直クント管
 ○ 音響浮揚チャンバー(1974)
   http://ntrs.nasa.gov/search.jsp?R=19750016702

【開放型】
● 近接場音響浮揚(1964)
   http://dx.doi.org/10.1115/1.3653080
● 定在波音響浮揚
 ○ 0次元操作(1975)
   http://dx.doi.org/10.1016/0041-624X(75)90072-4
 ○ 1次元操作(2007)
   http://dx.doi.org/10.1143/JJAP.46.4948
 ○ 2次元操作(2013)
   http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1301860110
 ○ 3次元操作(2014)
   http://dx.doi.org/10.7567/JJAP.53.07KE07
● ホログラフィック音響浮揚(2015)
   http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9661
● 多点支持音響浮揚(2016)
   http://dx.doi.org/10.1063/1.4959862

※ 参考文献(http://dx.doi.org/10.1007/s00419-009-0401-3)&筆者の調査。
ホログラフィック音響浮揚、多点支持音響浮揚は筆者が便宜上命名。

【密閉型】と【開放型】

まずは大きな括りについて説明します。

密閉型は、スピーカを筒や箱に取り付けて内部で共鳴させることで大振幅の定在波を作り出す構成です。可聴音を閉じ込めてエネルギーを集中させるためのものです。
○ 垂直クント管
  http://demoweb.physics.ucla.edu/content/100-kundts-tube
○ 音響浮揚チャンバー

https://youtu.be/94KzmB2bI7s

一方、開放型は容器を使わず、超音波の直進性や干渉を利用して音響エネルギーを局在させる構成です。物体を差し入れたり、手で触ったりできるという特長があります。こちらの構成は原理が多様です。以下、それぞれの原理について説明していきます。

近接場音響浮揚

超音波振動している振動面の上に平面状物体を載せると、1 mmに満たない距離を隔てて浮上します。これは高速振動に空気の流れが追従できずその場に留まってクッションのように働く現象(スクイーズ膜)によるものです。次の動画の0:28からご覧ください。

https://youtu.be/wRPlmIbABmQ?t

浮上距離は小さいですが、重い物体でも浮上させられる長所があります。物体を持ち上げる圧力は振動面からの距離の二乗に反比例することが知られています。そのため、物体に荷重をかけると浮上距離が小さくなるとともに急激に圧力が大きくなって、浮上状態が保たれます。数cm角の面積で10数kgの重量を浮上させられるという報告もなされています。

定在波音響浮揚

超音波のビームで定在波を作ると、音圧の節に引き込まれて微小物体が空中に保持されます。これはビーム進行方向に働く音響放射圧と、音圧の節(=粒子速度の腹)まわりに働くベルヌーイの力によるものです。

物体を空中に保持するだけでなく、超音波を巧みに制御することで動かすこともできます。振動子を対向させて位相差を変えることで1次元的に動かしたり、

https://youtu.be/669AcEBpdsY

複数の振動子を並べて反射板と対向させて振幅を変えることで2次元的に動かしたり(動画では透明な反射板ごしに観察しています)。

https://youtu.be/dahgKTMdaFE

本連載でこれまでに紹介した「lapillus bug」や「Pixie Dust」も、このカテゴリに含まれます。フェーズドアレイによる集束超音波を用いているため、従来の振動子よりも遠くまで大きな振幅の超音波を送ることができ、また定在波の位置を動かすこともできる特長があります。

定在波では節と腹が交互に現れ、その間隔は波長の半分です。これが浮かせられる物体のサイズを規定します。大きい方は波長の4分の1程度、小さい方は1%程度までと言われています。例えば40 kHzの超音波の波長は8.5 mmであることから、2 mmから0.1 mm程度。粒は浮きますが、粉は浮かない感じ。

この原理では重い物体を浮かせるのは大変です。金属製の物体を浮かせた報告もありますが、基本的には発泡スチロール球や水滴など(大体1 g程度までの)軽い物体が対象です。また液滴の場合、弾けてしまわないよう表面張力とのバランスを考慮して超音波振幅を調節する必要もあります。

ホログラフィック音響浮揚

定在波は互いに逆向きに進む波の重ね合わせで生じるため、振動子と反射板、あるいは振動子同士を対向させ、作業空間を挟み込む必要がありました。それに対して、フェーズドアレイ1枚で音響浮揚を行うものです。

https://youtu.be/g_EM1y4MKSc

定在波音響浮揚では音圧の腹に挟まれた節に微小物体を捕捉しました。定在波の代わりに、多数の超音波振動子の位相制御によって上空の音圧分布を操り、高い音圧に囲まれた低い音圧の部分に微小物体を捉えます。扱える微小物体のサイズ、質量は定在波の場合と同程度です。

多点支持音響浮揚

超音波の波長より大きな物体を浮かせるものです。定在波音響浮揚やホログラフィック音響浮揚では音場が物体を包み込んでいましたが、こちらでは十分に大きな面に超音波ビームが当たった際に生じる音響放射圧を用いて支えます。また近接場音響浮揚とも異なり、振動子と物体の間に1 cm程度の距離があります。

https://youtu.be/COKBqJx4Aps

動画では3個の振動子が球(直径5 cm、質量1.5 g)の表面に超音波を照射し、3方向から力をかけています。指3本でボールを下から支える感じです。

なお、論文によると振動子から球までの距離が半波長に設定されて定在波を生じていますが(筆者の見解では)定在波は原理の本質ではありません。定在波は多重反射による共鳴で超音波振幅をかせぐためであり、もし振動子が十分に大きい振幅の超音波を出力できれば距離に制約はありません。

共鳴するときには必ず定在波も発生する(逆は必ずしも真ではない)ため、共鳴と定在波はセットで考えられがちのようです。「共鳴させない定在波でも音響浮揚できるよ!」という論文が最近出版されるほど※。その論文より先に「lapillus bug」や「Pixie Dust」で当たり前のように共鳴させずに定在波音響浮揚していたのですが、そもそもそれらがセットという発想がなかったため、共鳴させていないことを特徴として推していませんでした。今思うと惜しかった(◞‸◟)
http://dx.doi.org/10.1063/1.4905130

ということで、今回は趣向を変えて、私の研究というより音響浮揚全般について解説しました。
ご意見・ご要望などあれば、コメントやメール、ツイッターなどでお知らせいただけると反映するかもです。それではまた☆彡

これまでの連載:星貴之

超音波の話をしよう(12)「DIY音響浮揚装置」
https://media.dmm-make.com/item/3675/

超音波の話をしよう(11)「静電気分布計測」
https://media.dmm-make.com/item/3629/

超音波の話をしよう(10)「人工授粉」
https://media.dmm-make.com/item/3623/

超音波の話をしよう(9)「ショッカソン」
https://media.dmm-make.com/item/3613/

超音波の話をしよう(8)「Pixie Dust」
https://media.dmm-make.com/item/3579/

超音波の話をしよう(7)「ナイスステップ」
https://media.dmm-make.com/item/3577/

超音波の話をしよう(6)「集束超音波を広めたい」
https://media.dmm-make.com/item/2531/

超音波の話をしよう(5)「Graffiti Fur」
https://media.dmm-make.com/item/2529/

超音波の話をしよう(4)「lapillus bug」
https://media.dmm-make.com/item/2477/

超音波の話をしよう(3)「コロイドディスプレイ」
https://media.dmm-make.com/item/2413/

超音波の話をしよう(2)「集束超音波で遊んでみた」
https://media.dmm-make.com/item/2209/

超音波の話をしよう(1)「不触(さわらず)の誓い」
https://media.dmm-make.com/item/1577/

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