超音波の話をしよう(14)「陽炎抑制」

超音波の話をしよう(14)「陽炎抑制」

星貴之
星貴之 (ID1529) 公認maker 2016/11/07
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こんにちは。超音波研究者をやっている、東京大学の星です。

超音波を集束させる装置を使ってあれこれ新しいことをしようとしています。前回はここ数年で多様化している音響浮揚のバリエーションを紹介しました。

今回は再び共同研究のお話です。

ぐにゃあっ・・

株式会社新川・早田滋 主幹技師との共同研究です。JSTマッチングプランナープログラム「探索試験」の支援を受けていました。

https://youtu.be/tO8p3eQrI5s

画像計測高精度化のための超音波定在波による空気揺らぎの抑制 2015

IC製造工程( http://www.shinkawa.com/corporate/product.html )のダイボンディングやワイヤボンディングは、数100℃のヒーターの上で加熱しながらumオーダーの作業が行われます。温められた空気の上昇によってカメラ映像がゆらゆらと揺れ(陽炎(かげろう))、位置決め精度を劣化させる要因となります。この陽炎を抑えるために超音波定在波を利用できないか、という研究です。定在波の音圧の腹を横切るように見るともっとも映像が揺れなくなることなどが分かってきました。

これまで紹介してきたものと違い、(エネルギーを集中させた方が効率が良いなど利点はありますが)本質的には集束超音波である必要はありません。定在波の空間的構造を利用する点が特徴的です。

産学連携

2014年2月、早田氏から研究相談がもちかけられました。他の集束超音波の共同研究を展示会で見たことがきっかけのようです。もともと超音波定在波で陽炎が抑制できるのではないかと新川単独で簡易的な予備実験を行い、それっぽい結果は得られていたとのこと。しかしそれ以上踏み込んだ実験をするには機材も知見も足りないため一緒にやらないかという話でした。

ちょっと間があいて2015年中旬、企業の開発ニーズに大学が取り組むJSTマッチングプランナープログラム「探索試験」の第一回公募があることを知り、これはぴったりなのではっ!?ということで応募しました。無事に採択され、画像計測の精度が最もよくなる超音波強度や定在波中の箇所を特定したり、シュリーレン法やPIVで現象を観察したりしました。これらの知見をもとに実用化を目指します。

空中超音波の可視化

原因を突き止めたり条件を洗い出したりする研究では、現象を何らかの方法で可視化するのが効果的です。

シュリーレン法は、媒質の屈折率の空間勾配を可視化する方法です。屈折率が変化しない一様な場所は明るく、大きく変化する場所は暗く映ります。最初の実験動画では、超音波を照射した際に、定在波の音圧の腹が明るく、節が暗く見えています。

PIV(Particle Image Velocimetory)は媒質の流れを可視化する方法です。水の場合にはポリスチレン粒子などを流しますが、空気の場合にはグリコールのミストなどを噴霧します。シート状の光を照射することで、特定の断面内の粒子のみを観察し、その動きを追って解析します。

【おまけ】
集束超音波を高速シュリーレンシステムで撮影してみた動画が公開されています。フレームレートの遅いカメラでは定在波にしないと超音波を捉えることができませんが、この動画では進行波を捉えることができています。

https://youtu.be/Eo_89Kd1qhE

いやぁ、本当に集束して、そして拡散しているんですねぇ。理論で予測できていても、本当にその通りになっていることが分かって安心するやら感心するやら。

ちなみにこの映像は8,000 fpsで撮影されており、波面は1フレームの間に42.5 mm(=5波長)ほど進んでいることに注意が必要です。ゆっくり進んでいるように見えるのはエイリアシングのためです。これは Time Fountain( http://youtu.be/rvY7NGncCgU )や Stop Motion Goggles( http://youtu.be/zOrKwT7e364 )でも用いられている現象です。

厳密に言えば、超音波が本当に40 kHzであればピタッと止まって見えるはずです。しかしデジタル回路の都合により、実際にはちょっとずらした周波数40.064 kHzで駆動しています。その波長は本来の0.9984倍。(足りない0.0016波長)×(1フレームあたり5波長)×(29 fpsで再生)= 毎秒0.232波長。動画を見ていると4秒程度で最初の状態に戻ることから、この試算が合っていることが分かります。

ということで、今回は(株)新川・早田氏と行っている共同研究について紹介しました。ご意見・ご要望などあれば、コメントやメール、ツイッターなどでお知らせいただけると反映するかもです。それではまた☆彡

これまでの連載:星貴之

超音波の話をしよう(13)「音響浮揚いろいろ」
https://media.dmm-make.com/item/3853/

超音波の話をしよう(12)「DIY音響浮揚装置」
https://media.dmm-make.com/item/3675/

超音波の話をしよう(11)「静電気分布計測」
https://media.dmm-make.com/item/3629/

超音波の話をしよう(10)「人工授粉」
https://media.dmm-make.com/item/3623/

超音波の話をしよう(9)「ショッカソン」
https://media.dmm-make.com/item/3613/

超音波の話をしよう(8)「Pixie Dust」
https://media.dmm-make.com/item/3579/

超音波の話をしよう(7)「ナイスステップ」
https://media.dmm-make.com/item/3577/

超音波の話をしよう(6)「集束超音波を広めたい」
https://media.dmm-make.com/item/2531/

超音波の話をしよう(5)「Graffiti Fur」
https://media.dmm-make.com/item/2529/

超音波の話をしよう(4)「lapillus bug」
https://media.dmm-make.com/item/2477/

超音波の話をしよう(3)「コロイドディスプレイ」
https://media.dmm-make.com/item/2413/

超音波の話をしよう(2)「集束超音波で遊んでみた」
https://media.dmm-make.com/item/2209/

超音波の話をしよう(1)「不触(さわらず)の誓い」
https://media.dmm-make.com/item/1577/

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