超音波の話をしよう(15)「Holographic Whisper」

超音波の話をしよう(15)「Holographic Whisper」

星貴之
星貴之 (ID1529) 公認maker 2016/11/11
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こんにちは。超音波研究者をやっている、東京大学の星です。

超音波を集束させる装置を使ってあれこれ新しいことをしようとしています。前回は(株)新川・早田氏との共同研究「陽炎抑制」を紹介しました。

今回は共同研究というか、共同創業した会社のプロダクトのお話です。

空中点音源スピーカ

筑波大学・落合陽一 助教をCEOとする会社Pixie Dust Technologies, Inc.のプロダクトです。2015年3月に外観を発表し、それから1年半の製作期間を経て、2016年9月にArs Electronica Festival、国内では10月にDCEXPO Innovative Technologiesで実機をお披露目しました。

https://youtu.be/UVp_jGKOmnY

Holographic Whisper 2016

集束超音波をAM変調することで、焦点から全方位に可聴音を放射するスピーカです。

この点音源は空中の任意の位置に設置することができ、音場設計の自由度が格段に上がります。例えば狙った人の耳元にささやき声を届けることができますし、空中を飛び回る目に見えない何かを音で表現することもできます。集束超音波の特長

 (1)相手に触らない
 (2)狭い範囲を狙える
 (3)発生場所を自在に変えられる

をフルに活かした応用です。

SXSW

事の起こりは2014年11月、Todai to Texasへのチャレンジを思い立ったところでした。Todai to Texasは、東大発のスタートアップやプロジェクトチームが参加し、プレゼン審査を通過した数組が米国テキサス州オースティンで開催されるSXSW(South by Southwest)で展示する権利を獲得する企画です。当時、音響浮遊技術Pixie DustがDCEXPO Innovative Technologies特別賞やグッドデザイン賞を受賞しており、ガンガン行こうぜというノリで落合助教(当時・東大院生)と審査に臨み、うまいこと通過することができました。

そこから、せっかくスタートアップの登竜門と言われるSXSWで展示するのだから会社にしないかという話になり、あれこれと必要なものを集め、2015年1月にPixie Dust Technologies, Inc.( http://pixiedusttech.com/ )の共同創業にこぎつけました。「物」ではなく「場」を操るテクノロジーの研究開発によって社会に貢献する会社であり、その手始めとしての音響場に取り組んでいます。

https://youtu.be/Joatqk9byzM

「音のビーム」と「音のボール」

「超音波」「スピーカ」といえば、パラメトリック・スピーカが思い出されることと思います。これは「音のスポットライト」「超指向性スピーカ」とも呼ばれるように、指向性の狭い「音のビーム」を作るスピーカです。

パラメトリック・スピーカの原理は、さらっと「超音波の直進性を利用している」とだけ説明されることが多いですが、実際には複数の原理が絡み合った結果です※。

※ 数式によるパラメトリック・スピーカの説明
http://star.web.nitech.ac.jp/pdf/120324doc.pdf

 (1)変調された振幅の大きな超音波が存在する空間は音源としてふるまう(自己復調)。
 (2)超音波は直進性が強い(回折しにくい)。
 (3)上記(1)(2)の複合により、振幅の大きい超音波の平面波は、その進行方向に音速で進む音源の直線状のアレイを形成する。これはエンドファイア・アレイと呼ばれる、直線方向に非常に鋭い指向性を持つ音源配置である。すなわち、超音波の直進性のおかげだけでなく、可聴音自身の干渉によって超指向性が実現されている。

これに対してHolographic Whisperは、あえてアレイを形成しないよう焦点を結ぶことにより、(1)の原理のみを利用するスピーカです。放射された可聴音は焦点を中心として全方位に伝搬します。ただし、これは焦点深度が焦点径と同程度のときの話です。焦点距離が遠くなるほど焦点深度が焦点径よりも大きくなり、それとともに徐々に進行方向への指向性を帯び、最終的にはパラメトリック・スピーカと同様になります。

パラメトリック・スピーカの使用法は、音のビームを直接浴びせるか、壁に反射させてその壁から音がしているように聞かせるかのいずれかです。一方、Holographic Whisperは空中の任意の位置、すなわち人と壁の間にも音源を配置することができます。将来的には、空中映像で映し出された人物の口元に音源を合わせるなどの用途も考えられます。

ということで、今回はPixie Dust Technologies, Inc.のプロダクトについて紹介しました。ご意見・ご要望などあれば、コメントやメール、ツイッターなどでお知らせいただけると反映するかもです。それではまた☆彡

これまでの連載:星貴之

超音波の話をしよう(14)「陽炎抑制」
https://media.dmm-make.com/item/3953/

超音波の話をしよう(13)「音響浮揚いろいろ」
https://media.dmm-make.com/item/3853/

超音波の話をしよう(12)「DIY音響浮揚装置」
https://media.dmm-make.com/item/3675/

超音波の話をしよう(11)「静電気分布計測」
https://media.dmm-make.com/item/3629/

超音波の話をしよう(10)「人工授粉」
https://media.dmm-make.com/item/3623/

超音波の話をしよう(9)「ショッカソン」
https://media.dmm-make.com/item/3613/

超音波の話をしよう(8)「Pixie Dust」
https://media.dmm-make.com/item/3579/

超音波の話をしよう(7)「ナイスステップ」
https://media.dmm-make.com/item/3577/

超音波の話をしよう(6)「集束超音波を広めたい」
https://media.dmm-make.com/item/2531/

超音波の話をしよう(5)「Graffiti Fur」
https://media.dmm-make.com/item/2529/

超音波の話をしよう(4)「lapillus bug」
https://media.dmm-make.com/item/2477/

超音波の話をしよう(3)「コロイドディスプレイ」
https://media.dmm-make.com/item/2413/

超音波の話をしよう(2)「集束超音波で遊んでみた」
https://media.dmm-make.com/item/2209/

超音波の話をしよう(1)「不触(さわらず)の誓い」
https://media.dmm-make.com/item/1577/

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