MAKERS #7「株式会社イヌパシー最高経営責任者 山口譲二」

MAKERS #7「株式会社イヌパシー最高経営責任者 山口譲二」

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2016/11/23
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。

モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・髙岡謙太郎/写真・杉山周二)

犬の精神状態をLEDで表示させる世界初のプロダクト「イヌパシー」。動物の感情を理解したいという愛犬家の山口さんの思いから生まれたという。山口さんの愛犬、あかねくんはDMM.make AKIBAのオフィスにもやってくるので、ご存じの方も多いはず。あかねくんとの関係をより深めたイヌパシーの開発までの経緯と独立、愛犬家としての一面も伺った。

株式会社イヌパシー最高経営責任者 山口譲二
信州大学理学部生物学科2000年卒業。信州大学大学院2002年修了。2002年株式会社メタテクノ入社、SEとして画像処理や業務アプリケーション開発に携わる。2015年2月株式会社イヌパシー設立。「IoTx共感」をテーマに、喜びの見える化を通じてコミュニケーションのポジティブスパイラルを生み出し、より楽しく喜びにあふれるコミュニティづくりに寄与する商品とサービスの開発販売を行う。
http://inupathy.com/

https://www.youtube.com/watch?v=AkoJV8lFkrc

「INUPATHY : Dogs' mental visualizer」イヌパシーの紹介動画。5万回以上再生されて注目されています。

ーーまずはメインのプロダクト「イヌパシー」について、簡単に紹介していただけますか?

イヌパシーは、犬の心拍を測定しLEDを発光させて可視化することで、犬から人間へのフィードバックを可能にし、犬と人間の関係作りをよりスムーズで深いものにすることを目指すプロダクトです。端的にいうと、興奮している状態から撫でられることで落ちついていく様子や、遊びでテンションが上がっている様子など、犬の内面を可視化するプロダクトです。

ーーどういった仕組みなのでしょうか? 精神状態をデータ化させているわけですよね?

まず新しいセンサーを開発しました。犬の毛を剃らなくても毛皮の上から心拍が測定できるセンサーです。そのセンサーに入ってくる心拍のリズムの急激な変化を分析して、特徴を見つけます。例えば集中しているときに出やすい特徴を見つけて、集中している“集中指数“のようなものを算出しています。

ーー基本的に採取されているデータは心拍のみで、心拍の変動で興奮、喜び、集中というその3種類の状況がわかるとのことですが、どのようにその仕組みを発見したのですか?

もともと心拍の揺らぎに自律神経の活性が影響することは知られていました。そこで心拍の揺らぎをわかりやすく視覚化して眺めていたところ、犬が集中したときにキュッと変わったり、犬を撫でたときにキュッと変わるという、目に見える変化を見つけました。それをきっかけに心拍の変動に犬の気持ちのヒントがあると考え、深堀りしていきました。

ーー実際にそのプロダクトが作られるまでの経緯をお聞かせいただけますか?

1歳頃のあかねは、不安症があって常にどこか怯えていました。どう接してあげればいいかわからず、効果的に落ち着ける方法を知りたかったのです。その後、心拍を使う方法を思いつき、人間用の心拍計にジェルを塗って付けての計測や、ジェルを塗らずに計測できないかの実験などを通じて試行錯誤をしてみたのです。それらを通じて約2年前にようやく新しいセンサーが発明できました。

ーー色々と試行錯誤されていたのですね。長期間、調べられたのですか?

大学で生物学を勉強していたのですが、製作期間は犬全般の歴史や行動学などいろいろな本を読みあさっていました。最近では犬の行動学の定説ががらっと変わってきています。ひとつ例を挙げると、犬がしっぽを振ると嬉しがっていると言われますが、最近の研究では右に振ってるか左に振ってるかでネガティブな反応かポジティブな反応か意味合いが違うことが判明しました。このように今まで常識とした事がどんどん変わっているのです。

ーーそれは面白いですね。ここ数年で研究の状況が変わってきたのはなぜですか?

犬に限らず動物の精神状態に対して学術的にスポットライトが当たり始めたのが30年くらい前です。まずゴリラやチンパンジーなど人間に近い動物から始まり、ようやく一番身近な犬が研究対象になりました。犬には感情移入してしまうためか学問の世界では遠ざけられていました。科学的には客観的に捉えて研究しなければいけないのですが、ついつい親しみが湧いて判断が変わってしまうということがあり、客観的な研究は難しかったようです。

ーーそういった心理学分野での進化と機材の進化が偶然同じタイミングで合流して、イヌパシーが出来たのですね。そこに着目できたのは愛犬家ということが大きいと思いますが、愛犬の精神状態を詳しく知りたいと思ったきっかけはありますか?

そうですね。あかねは、私にとって初めてほぼ子犬の状態から飼う犬でした。しつけの予備知識を勉強したのですが、本に書いてある通りにはいかない。今は叱らないしつけが主流ですが、当時は犬が悪い事をしたら叱るべきだというのが定着していたのです。私もあかねのことを叱ってしまっていました。

ーーコミュニケーションの作法がわからないから、もっと本人(犬)とコミュニケーションをとりたいというのが発端なのですね。現在実際に使用されていて、距離感が縮まったという感覚はありますか?

ありますね。それまで自分には犬をいかなる状況でもコントロールしなければいけないという考えがあり、ふと何かの間違いでリードを離してしまってもすぐに呼び戻すなど、犬に対してリーダーシップを取ろうとしていました。でもイヌパシーを使ってみると、実は犬が周りの環境に合わせて敏感に反応していることがわかりました。

例えば、あかねは部屋のドアが閉まっている場合と開いている場合で、心拍数が変わるんです。ドアが閉まっている状態だと冷静な判断ができるのですが、ドアが開いていたり騒音が鳴っていたり苦手な環境要因が増えると、ストレスというかドキドキ感が増して判断力が鈍ることがわかりました。

だったら彼が得意な環境をできるだけセッティングしてあげる。例えば、苦手な音を出すバイクが近づいてきたら、その前になだめてあげたり。どんな環境が犬に影響を及ぼすのかを知って、なるべく良い環境に整えてあげる。あとは出来るだけ犬に任せる付き合い方ができるようになりました。気を張ってガチガチの関係ではなく、何かある時だけ気を引き締めて、あとは自由にさせるという感じですね。

ーーそれによって、どう変わったのですか? 表現される喜び具合がすごく増えたなど?

どちらかというと、最初は興奮する条件を知る度に驚きがあったのですが、だんだん何をしたら喜ぶなど反応のパターンがわかってきて。例えば、怯えているときに声をかけてなだめるよりも触った方が落ち着く事が心拍からわかり、より適切な対処ができるようになりましたね。

ーー愛がありますね。自分はペットを飼ったことがないので感覚がわからないのですが、山口さんにとってあかねさんはどういう存在なのか、その感覚をお聞かせいただけますか?

犬好きにとって、犬は趣味ではなく人生そのものになります。家族と表現する方もいますが、自分は半身というか身体の一部のような感覚がありますね。数週間、一緒にいないと飼い主含めて不安になったりしますし、前に飼っていたみどり君が亡くなった時は自分の大事な部分がなくなってしまったような感覚になりました。逆に、一緒にいると気分の安定感が増したりしますね。

ーーちなみにイヌパシーは他の動物にも使えますか?

一応、哺乳類の基本的な生理システムは同じなので、人間も含めて応用可能と考えています。猫用は特に需要が多いはず。人間のケアにもいずれ発展したらいいなと思います。現代人は自分の気持ちを考える機会が少ないと思います。ストレスが溜まってくると自分の心がわからくなったり。なので、今の自分の状態がわかるようなプロダクトを次の次くらいに考えています。

ーー現在、心拍変動解析のHRVシステムを特許出願中とのことですが?

HRV自体は一般的な手法なので、そのHRVで今使っている解析方法を特許出願しています。HRVというのは、単純に心拍の変動から自律神経の活性を読み取る手法の総称で、実際の計算方法は色々あり、そのなかのひとつについて特許申請を行いました。

ーーイヌパシーの他に手掛けているプロダクトはありますか?

特にないのですが、3Dプリンターが好きなので仕事で行き詰まると3Dプリンタで遊んで現実逃避をしていますね。これはハロウィンにあわせて作ったおもちゃで、目玉があってぐりぐり動くという。あとこれの改良バージョンで足にバネのようになっていて、置くとちょっとゆらゆらっとする。まあ、完全な現実逃避です(笑)。元々ここに入る前から3Dプリンターというのにものすごく興味があって、前職でも3Dプリンターの研究レポートを出したりしていました。

ーー経歴をお聞きしたいのですが、DMM.make AKIBAに入居する前は、大学院で生物学を修了後システムエンジニアとして働かれていたそうですね。

そうですね。ただモノ作りというと実はだいぶ遡るところがあって。僕は幼少の頃、父の海外赴任が多く大体5年ごとに転勤して、生まれはニューカレドニアで、ニューヨーク、日本、オーストラリア。毎回環境と友人関係ががらっと変わるような少年時代でした。

そこで、寂しさもあって小学生の頃にプラモデルにかなり没頭したんですね。でも、プラモデルだらけになってるのを見た母から「人が作ったおもちゃで遊ばないで、自分で何か作ってみたら?」と言われたのが意外と刺さって、自分で作ることに興味が湧きました。それもあり、オーストラリアの高校では美術専攻で、美術と生物しか勉強しないような生活でした。

ーー海外での生活経験は、現在独立して会社を立ち上げたことに関係ありますか?

実は日本に帰国後、逆の傾向になったんです。転々としていたので定住願望が強くなって、大学卒業後、地元の長野県内でシステムエンジニアとして就職しました。長野に定住しようと考えていたのですが、数年経つとだんだん定住に違和感を感じ始めて、移動欲のようなものがむずむずし始めて(笑)。ずっと同じ組織にいるのもしっくり来ない感じがして、そのときに起業についてのインプットがあり、新しい価値を作ってみたいという流れになりました。まぁ関係あるようであんまり関係ない(笑)。

ーー働きながら休暇に愛犬の精神状態を知るプロダクトを作られていたんですね。それは単純に知りたいというのが動機で、そこから製品として売ろうとしたきっかけはありますか?

初期の頃から製品化と販売することを考えていて、センサーの使いやすさなどを考えて設計しました。それにはきっかけがあって、最初の試作機は、かなり劣悪な環境で繁殖犬として飼われていた子を保護して一年間一緒に過ごしていた方に試してもらったんです。その方と、イヌパシーの初期試作を着けたわんちゃんが一緒にいるところを録画したビデオを見てみると、初めて来た私の家で緊張しているわんちゃんに飼い主さんが手を添えた瞬間、すっと心拍が下がって青い色になって。その一瞬に飼い主さんとその子が積み上げてきた一年間が端的に現れて、すごくいい関係ができていることがわかりました。そのことからイヌパシーが他の飼い主さんにも価値があるという実感がわき、プロダクトにしたいと思い立ちました。

ーー試作を作って実感があったのですね。やはり長期間、飼い主と一緒にいると落ち着くのですね。やっぱり全く知らない人だと落ち着かないのですか?

そうですね。やはり落ち着かないと思います。機械とは関係なく飼い主と犬が関係作りをし続けて、その裏付けのような形で機械から反応が見られたのが単純に嬉しいですよね。自分が作ってきた関係が、実際この子を触っただけで落ち着かせる事が出来るのだと確認できたのが。

ーー目で見えると嬉しいでしょうね。人間に比べると犬は精神状態が素直に出るのですか?

人間のコミュニケーションは、自分の感情を隠したり相手の感情を見抜こうとしたりカードを伏せた状態でのやり取りがあるので自分の精神状態が丸見えにならないのですが、犬は全部カードをオープンにしてくれている状態なんです。そういうコミュニケーションもあることがひとつの気づきでした。

ーー人間は社会性や建前があるのが動物との違いですね。距離感が縮まったのが確認できた例は他にもありそうですね。

そうですね。ユーザーテストのなかでいろいろ嬉しい事がありました。顔の骨格的に悲しそうな表情をしているわんちゃんの飼い主さんがいて。たまたまイヌパシーの展示ブースに来てくれて、イヌパシーをつけて犬をなでたりしている時に嬉しそうな虹色が出ているのを見て「顔つきは悲しいけど中身はハッピーなんだ!」って言って喜んで帰っていったということがありました。

―ーちなみにいままでどれぐらいの方が試されましたか?

いままで犬の数で約50頭ですね。おかげで概ね安定した動きをするようになりました。個性の違いもあるんですけれど、ある子は音にすごく反応したりしなかったり、なんてこともありますが、全然機能しないということは今の所はなくなってきました。

最初はデザインがひどく、ありあわせの材料にLEDがぶら下がっているような状態(笑)。お菓子のケースに本体を入れたものを作っていて、その頃は犬の散歩をしている人にテストを依頼しても全然取り合ってもらえなくて。でも、exiiiの小西哲哉さんのデザインを採用してから付けてみたいと言ってくれる人がすごく増えました。

グッドデザイン賞を受賞したexiiiによるスタイリッシュなプロダクトデザイン

ーーやはりデザインは重要なんですね。exiiiの小西さん以外にもこのプロダクトに関わられた方はいますか?

はい、たくさんいます。別の仕事をしながらの方が多いのですが、例えばデザインや広報に強い方が結構積極的に関わってくれています。あとは製造会社と付き合いの長い方に橋渡ししていただいて、難しい海外の製造がやりやすくなったり。輸出入のプロフェッショナルの方が毎週遊びにきてくれたり、すごくたくさんの人に支えられてます。

ーーDMM.make AKIBAのオフィスではどういった作業をされていますか?

事務作業や試作機の作り込みもあります。家ではダラダラしてしまうので、ここに来て仕事するという感じで。まぁここでダラダラしている姿も目撃されてますけど(笑)。犬と寝ていたりとか。

ーー購入はクラウドファンディングのサイトからのみですが、売れ行きというのは?

クラウドファンディングは期間が終了して、今はクラウドファンドでの先行予約の準備をしています。イギリスの大手メディア『BBC』に取り上げられたのがきっかけで、世界中から毎日2、3名の購入希望の問い合わせをいただいています。累計すると約300名からメールをいただいていますね。生産することよりも、購入希望者との関係をキープしていくのが今後の課題ですね。まだ正式な値段を公開していないので、うまく伝えたいです。

ーー海外の展示会J-POPサミットやSXSWに出展されていますが、他に出展予定はありますか?

大きいものは台湾での展示会ですね。いま、欧米と日本、アジアとインドという2つのカテゴリーで分けて考えています。欧米と日本は、ペットの数は増えないけれどペット一匹あたりに掛ける単価がどんどん高くなっていく市場です。イヌパシーはそちらをターゲットにしているんですけど、一方でアジアではこれから爆発的に犬が増えていく傾向があります。製造拠点をアジアに置くので、アジア市場の動向をしっかり見ておきたいのもあり、台湾に展示してみます。

展示会でイヌパシーを体験している様子。飼い主さんになついています

ーーいままで海外でこういったプロダクトはなかったのですか?

なかったですね。作る試みはいくつかあって、脳波を測定する装置を作っていた人もいたようですが……。

ーーでは最後まで形にしてプロダクトとして世に出したのは山口さんが初めて?

まだ世に出ていませんが、出れば初めてになりますね。ぜひ出したい。出さなきゃ(笑)。現在は開発やクラウドファンドが終わって、製造のための資金や販路、在庫管理、需要予測、Webサービスの充実など今後の販売に必要なことをしています。

ーー今後の活動でやりたいことはありますか?

去年SXSWに行ったんですけど、すごく楽しい思いをして来年も行きたいと思っています。アメリカまで犬を連れて行けないので、現地の日本人グループの方に飼い主を紹介してもらって。そこでお会いした方たちとすごく仲良くなって、イヌパシーも気に入ってもらえました。今もFacebookでやり取りしていて愛犬家の友達ができちゃった(笑)。現地のコミュニティに飛び込んでみたのがすごく良い経験でしたね。
また来年もSXSWに行って、お友達になったワンコたちに、今度は販売目前のイヌパシーを試してもらいたいな!と思います。

ーーでは最後に、これから起業を目指す人にアドバイスをいただけますか?

MAKERS的な入り口からスタートアップを目指す人の多くが「あなたの課題は何ですか?」という質問に答えるのが苦手な傾向がある、と感じてます。
でも、それは別にやりたいことの背景に課題感が無いわけではなく、単に言葉にするのが難しいだけのことがほとんどだと思います。そこまで情熱をかけるだけの理由があるはずです。だから、しっかり時間をかけて見つめ直してあげると、背景にある課題感がうっすら見え始めてくると思います。
起業がやりたいことを実現する唯一の選択肢とは思いませんが、自分のやりたいことを信じつつしっかり見つめ直してあげる機会はぜひたくさん作ってあげて下さい!

DMM.make AKIBAでのひととき。あかねくんは会員さんたちとも仲良しで馴染んでいます

DMM.make AKIBAから一言

DMM.make AKIBAのアイドルと言えば、山口さんの相棒あかねくん(ウェルシュコーギー・11歳・♂)。開発パートナーとして不可欠である、ということで特別に入館を許可されている存在であること、ぷりぷりのおしりを左右に揺らしながら歩く姿に誰もが癒されていることなどは、以前PRESSのレポートにも書いた通りなのですが、あかねくんをこよなく愛する山口さんの姿(主に、あかねくんを抱きかかえたまま居眠りしている姿)にも癒されます。いつもにこやかな笑顔でAKIBAの空気を和ませてくれる山口さん。イヌパシーの製品化を楽しみに待つとともに、山口さんが理想とする「人間と犬の優しい関係」が世の中にたくさん生まれていくよう、DMM.make AKIBAも応援していきたいと思います。(編集・境 理恵)

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