MAKERS #9「合同会社techika 代表 矢島佳澄」
このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・髙岡謙太郎/写真・杉山周二)
柔らかい素材に電子工作を埋め込む作品を数多く制作し続け、女性ならではの感性が盛り込まれた作品は今までにない気付きを与えてくれる。学生時代にテクノロジーを用いた表現に興味を持ち、現在は合同会社techikaを立ち上げ、大学時代の仲間と共に乙女電芸部としても活動中。多岐にわたる活動の一部と現在までの経緯、そして今後の目標について伺った。
合同会社techika 代表 矢島佳澄
1989年生まれ。2012年慶應義塾大学環境情報学部卒業。2015年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。乙女電芸部というグループを主宰し、手芸と電子工作を組み合わせたワークショップを全国のFablabやMakerFaireなどで開催。近年は家電メーカーとのコラボレーションなども行う。池澤あやかとのユニット「いけざわあやかとやじまかすみ」では、DMM.makeでのブログ連載や「シブカル祭。2014」「SENSORS IGNITION2015」などに出展。2015年より伊勢丹の学びプロジェクトcocoikuで「やわらかい電子工作」の講師を担当。
http://techika.jp/
ーー矢島さんの活動である、合同会社techika、乙女電芸部についてお聞かせください。
主に電子工作と手芸を組み合わせた、ワークショップの運営や一点物の展示作品や工業製品のプロトタイプを作っています。techika自体は私一人で運営していて、乙女電芸部はメンバー9人で部活のようにわいわい活動しています。ワークショップは乙女電芸部で行うことが多く、techikaは受託開発が多いですね。乙女電芸部はtechikaがマネジメントする形をとっているので、仕事の場合はtechikaを通しています。
ーーでは、矢島さんの代表的な活動や制作物をいくつか紹介していただけますか?
最近制作に携わったのは、パナソニックアプライアンス社デザインセンターと京都の伝統工芸後継者によるクリエイティブユニット「GO ON(ゴオン)」との共創プロジェクトでの作品です。「織ノ響」という、西陣織の「細尾」による伝統的な織の技術とパナソニックの音響技術とのコラボレーション作品で、技術協力としてテクノロジーに関する部分をtechikaが担当させていただきました。
ーー伝統的な工芸と最新のテクノロジーの融合ですね。具体的にどういった点を手がけられましたか?
私は柔らかいものに電子工作を埋め込むのが得意なので、西陣織の生地そのものをセンサーにする技術的な作業と音源を連携させる音響のプログラミングを担当しました。
「織ノ響」は、西陣織の生地を表裏に張った六角形のスピーカーユニットを12個繋げた音を奏でるパーティションです。そのうちの6か所がスピーカーとなっており、生地に触れると音が鳴り、手を離すと音が止まるといった仕組みのものです。西陣織の生地自体に、金銀箔を貼った糸が織り込まれていて、金属の糸がセンサーになっています。当初タッチセンサーを仕込む予定でしたが、実験を重ねているうちに生地自体がセンサーとして使えることがわかりました。ちなみに西陣織の金銀箔を織り込む工法は約300年前からあるそうです。
音響の方ですが、今回の展示会での演出は、会場で流すBGMと「織ノ響」で鳴らす6つの音源についてもこのプロジェクトのために新たに制作されたものです。スピーカーの表面を触って鳴る音と、会場に流れるBGMが同期するようにプログラミングし、スピーカーユニットを触ると、BGMに様々な音のアクセントを加えたり、6つのユニットすべてを触ると1つの曲として完成するように仕上げました。
[GO ON × Panasonic Design]http://panasonic.co.jp/design/goon/
また、お正月に未来のお神輿を想像するワークショップを行いました。普段「cocoiku」という伊勢丹新宿店の子供向け学びプロジェクトで講師をしているのですが、その出張イベントで日本橋三越本店でこどもたちとお神輿について学んで、LEDやスピーカーも付けたちょっと未来のお神輿をつくりました。
[cocoiku]http://www.cocoiku-isetan.com/
向島三囲神社から宮司さんにお越しいただき、三越の屋上にある三囲神社(分霊)でご祈祷していただいたあとで、館内をワッショイのかけ声とともに練り歩きました。居合わせたお客様方にも拍手で迎えていただき、こどもたちは満面の笑みでお神輿を担いでいました。
「酉年だから鳥の羽根をつけたい!」や「めでたい感じにLEDは赤と黃と白に光らせて」「加速度センサーを使ってお神輿が揺れたら音を鳴らそう」など、工作のアイディアと電子工作のアイディアが並列に出てくるのが印象的でした。
こちらはケーブルテレビの新しい技術の展示会「ケーブル技術ショー2014」で、未来のリモコン「乙女電芸部の考えるメイカーズ時代のリモコン」をパナソニックさんと提案したものです。現在のリモコンはボタンがたくさんあって複雑ですが、ここで提案したのはリモコンのボタンをさまざまな生活用品に埋め込むというコンセプトです。
これはルームシューズ型のリモコンで、家に帰ってルームシューズを履くとテレビが付き、なおかつ家に帰った時はニュースが見たくなるので、自動でニュース番組のチャンネルに切り替わります。ジャンルごとに別れたケーブルテレビのチャンネルを、生活に合わせて変える仕組みです。他には匂いセンサーを使って、アロマディフューザーでラベンダーの匂いを焚くと草原の映像などのゆったりできるチャンネルになったり、ミントなどすっきりした匂いではF1中継など爽快感があるチャンネルに変わります。
というように、室内にいろいろセンサーを組み込んで、生活に応じてリモコンになることを提案しました。できれば、リモコンをなくしたいんですよね(笑)。気分に合わせてチャンネル自体が変わったら、自分でリモコンを操作する必要もないので。
[techika:乙女電芸部の考えるメイカーズ時代のリモコン]https://goo.gl/vDbTt2
ーー新しいリモコンのかたちとして提案したのですね。他にも作品はありますか?
これは学生時代にお手伝いした、ISSEY MIYAKEの店舗のディスプレイです。伊勢丹新宿店やELTTOB TEP銀座店のショーウインドウで、プリーツ素材のドレスをモーター制御してダンスするように動かしました。この時のテーマが「Rhythmatic Forest」で、どういうリズムで動きを制御したらドレスが息づいているようにに見えるかを配慮しました。
これはplaplaxというアーティストとISSEY MIYAKEのコラボレーションのお手伝いでテクノロジー部分を主に担当しました。plaplaxは、メディア芸術祭の第1回のデジタルアート部門で大賞を受賞した近森基さんを中心とするアートユニットで、私の師匠的な存在です。コンセプトを考えるのはアーティストですが、素材を使って実験からはじめて、技術的に具現化していく作業をしています。
[techika:ISSEY MIYAKE × plaplax 「Rhythmatic Forest」]https://goo.gl/vf6kq9
ーー他にも受託開発したものはありますか?
詳しく言えないものも多いのですが、コミュニケーションロボット「BOCCO」などで知られるユカイ工学をプロジェクトメンバーとしてお手伝いさせていただくことがあります。やはり柔らかいデバイスを制作する案件で呼んでいただくことが多いですね。
[BOCCO]http://www.ux-xu.com/product/bocco
昨年は「ユカイ工学×乙女電芸部」としてワークショップもやらせていただきました。センサーを使ってBOCCOを動かしたりお話させたりして、物語をつくりました。
[Instagram]https://goo.gl/wP4xFd
ーーユカイ工学さんともコラボレーションしているのですね。今につながる過去の作品も紹介していただけますか?
大学の卒業研究での、おにぎりの中にセンサーを入れて上手く握れるかを測定する作品「おにぎリズム」です。きれいな三角形のおにぎりを握るには、120度ずつ回転させます。そのために、ごはんの中に地磁気センサーをいれて握って、120度の回転ができるとクルッと音が鳴るシステムを作りました。120度の回転を体得するためのデバイスです(笑)。これは私の家がお米屋さんで、祖母がおにぎり屋さんをやっていて、身体的な動きをアーカイブしていかないとと思って。本当はおばあちゃんのおにぎりを残したいと思ったんですが、誰が握っても一般的なおにぎりを握れるところを目指しました。
[おにぎリズム]https://goo.gl/RYHlQ2
芸大時代に作った、うどんがセンサーになっていて照明が光る映像作品「でんき食べたい」です。これは2012年に電力問題が話題となった時期に電気について考えていたので、電気にまつわるものを作りました。自分の身体を介して電気が付くことを試したいと思って、つゆに電極を挿していて、そこからうどんに電気が伝わって、自分の口に触れると照明が点きます。
[でんき食べたい]https://goo.gl/3wtWRr
高さ5メートルはある、蛍光灯を近付けると発光するコイル「わたしのしらないでんき」を作りました。コイルが1000ボルトくらいに昇圧されていて割と危ないですね。これはSlayer Exciterといって、高周波の発振が起っています。送電線の大電流を送っている所で蛍光灯を近付けると光るのと同じ原理です。電気は線を繋がないと付かないものだと思ってたのに、どうやらそうでもないようで、電気の正体を自分なりに探りたいと思って作りました。ちなみにコイルを巻くためのコイル巻き器からつくりはじめました。
[わたしのしらないでんき]https://goo.gl/88ooE6
「plugged-in animals」という、フェルトで作ったUSBに寄生する動物のぬいぐるみです。まったく実用性はありません(笑)。サーボモーターとマイコンが入っていて、USBから電源を取って動きます。約10種類作って、光る物もあります。今、人間はネットワークや電源がないと生きられないので、プラグに挿されてないと何もできないなと思い、形にしてみました。
[plugged-in animals]https://goo.gl/ijT1sM
ーー多作ですね。ワークショップや教育に興味を持ったきっかけはありますか?
最初は大学の頃にワークショップを行った経験があって、2012年頃から毎年Maker Fairでハンズオンのワークショップを行っています。そこでは「レジンLED」という、ビーズなどを入れたオリジナルのLEDを作って光らせるワークショップを行い、それが好評で増えていきました。
ーーでは、矢島さん自身がものづくりに興味を持ったきっかけはありますか?
高校3年生の頃、メディア芸術祭の10周年記念展にいって、その横にあった先端技術ショーケースで、筧康明さんたちの作品「テーブルスケープ・プラス」を見て、「すごい!私も作ってみたい」と思ったのがきっかけです。テーブル自体に映像がプロジェクションされている上に、鏡を使ってオブジェクトにも斜めから映像が投影されていて、魔法はつくれるんだと思いました。
[ICC]http://www.ntticc.or.jp/ja/archive/works/tablescape-plus/
2008年頃に流行っていたサイバースペースのようなバーチャルリアリティでなく、もっと実世界に寄った表現ができたらと思っていたんです。サイバー空間のなかで生活するのは寂しいので、もっと普段の生活の中でバーチャルなものが触れたらいいのにと高校生の時に思っていたら、それが作品になっていたので感銘を受けました。
ーーSFCでは筧先生の研究室に所属していたんですよね。
はい。高校卒業後、慶應大学SFCに入学したら、偶然筧康明先生が専任講師に着任されていて。私は環境情報学部でインタラクションデザインという、「ものと人」「人と人」や「ものともの」の関係性をどうデザインするかを、デジタルデバイスを使ってより豊かに変えることを学んでいました。先程の卒論の「おにぎリズム」のように、手仕事をデジタルテクノロジーでいかに残していくかをインタラクションデザインとして実践し、実世界と情報環境をどう行き来するかを主なテーマとしていました。
それから大学院は東京藝大に進み、映像研究科のメディア映像専攻に入りました。コンピューターを使ってメディアアートを作る人などいろいろいましたが、私は基本的に変わらず手芸と電子工作とプログラミングを組み合わせた作品を作っていました。
ーー学生時代に作品を制作されてから、DMM.make AKIBAに入るきっかけは?
最初、日本テレビのテクノロジー系の番組『SENSORS』が主催する展示会「SENSORS IGNITION2015」に、研究室の後輩のいけざわあやかさんと一緒に出展しないかと声をかけられて。作品を制作する場所に悩んでいたら、日テレさんから密着取材をするのでDMMさんに場所を使わせて貰おうという話になったことがきっかけです。それから展示後も通いたいと思い、DMM.make Scholarshipに応募しました。この施設ができる前から、チームラボさんの紹介でDMM.makeのブログで公認maker「いけざわあやかとやじまかすみ」として、ものづくりの記事を書いていました。
[モノづくりログ]https://media.dmm-make.com/maker/163/
ーーDMM.make AKIBAでは、どういったことをされていますか?
打ち合わせをする時は12階のBaseを使い、ものづくりは10階のStudioでつなぎを着て作業しています。普段はスカートが多いので、つなぎをロッカーに置いていて着替えています。
ーーDMM.make AKIBAにいる方と一緒に制作されたことはありますか?
いまのところないですね。わたしは結構人見知りなので、皆さんがなにをやってるかあまり知らないです(笑)。でも「こんなの作ってるんですね」という会話はします。
ーー今後の目標についてお聞かせください。
今は子供向けワークショップの主催が多いのですが、今後は大人向けワークショップも企画していきたいと思ってます。私の夢としては、室内にリモコンを埋め込むようなことを主婦本人が自分の発想で制作できたらと思っていて。他には、洗濯機はメーカーが決めたコースだけでなく「子供の野球ユニフォーム洗うボタン」を付けられるようになったり。単なるカスタマイズではなく、機能自体もハックできるようになるといいですね。そして、メーカー側もユーザーがハックする余地のある製品を出して欲しいと思っています。
ーー本人が自分の生活にあったデバイスを作る未来に向けて、どういったことができるんでしょうか?
スキルがないとなかなか難しいので、まずはその手助けですね。いまはファブリケーションが身近になった時代で、レーザーカッターや3Dプリンターなどたくさんのマシンが出てきて、電子工作や組み込み系のプログラムがわかりやすくなっているので、みんなに教えて楽しんだり。センサーなどの使い方の知識を得ることで、できることのアイディアも主婦側から出てくると思うんですよね。
ーー主婦の実生活から出てくるアイディアは、人によっていろいろありそうですね。
いま売られている製品はマーケティングされて、多くの人に向けられた製品が作られています。既存の製品に個人の発想で、柄やデコレーションだけでなく、機能にもアイデアを組み込めたら嬉しいと思っています。そういった活動を続ければ、もしかしたらメーカー側も興味を持って動いてくれるかもしれません。
また、自分が本当に欲しいものを制作するための発想も教えていきたいと思っています。今はかわいいものを作るワークショップが中心ですが、のちのちはアイデアのワークショップもできたら。電子工作でいろいろなものを自分で作れるようになることと、そのスキルを使って、どんなものを作るかが大事だと思っています。
ーー最後に今後の活動について教えてください。
柔らかい導電性材料を扱うメーカーさんなどとも議論させていただいているのですが、柔らかいデバイスはあたたかみがあったりかわいさがあったりするので、生活に寄り添う媒体になるんじゃないかなと考えています。新しい素材も使って、どんどん「柔らかいハードウェア」をつくっていきたいです。もちろん受託開発とワークショップの依頼もお待ちしております(笑)。
少し前に、『fabcross』というメディアで「これであなたも人気者!ハッピーをまき散らせるDIYバズーカ」という記事が公開されました。読んでみてください。
[Fabcross]https://fabcross.jp/category/make/20170116_bazooka_01.html
DMM.make AKIBAから一言
メディアで矢島佳澄ちゃんの記事を見かけることも増えてきました。
「いけざわあやかとやじまかすみ」はDMM.make Scholarshipの第0期生なので、佳澄ちゃんとのお付き合いもそこそこ長くなってきているのですが、「ゆるふわ」なモノづくりをしているだけじゃないということを広く認知してもらいたい!という一心で今回インタビューをお願いしてみました。インタビューしてみたら初耳のことも多く、予想以上に多作で驚いたのですが、それでも記事に掲載しているのは彼女の活動の一部です。常に高くアンテナを張り、自分の好奇心の対象に向かって一心不乱に情熱を傾けていく姿勢はエンジニアそのもので、それでいてきちんと周りを巻き込む求心力を持ち合わせている。大変かわいらしく女子力高めの外見と裏腹に、内に秘めた「おっさん力」の高さに気付いて以来、私はこの人から目が離せなくなってしまいました。
これからも、多岐に渡る活躍を期待したいと思います。(編集・境 理恵)
『MAKERS』前の記事⇒MAKERS #8「koike. ファッションデザイナー小池優子」