MAKERS #11「VAQSO Inc. CEO 川口健太郎」―ダーウィン『種の起源』から導き出した「オリジナル理論」で”嗅覚”をビジネスにするメイカー

MAKERS #11「VAQSO Inc. CEO 川口健太郎」―ダーウィン『種の起源』から導き出した「オリジナル理論」で”嗅覚”をビジネスにするメイカー

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2017/03/22
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。

モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・髙岡謙太郎/写真・杉山周二)

ハードウェアスタートアップという言葉が浸透する前から、「匂い」に関するオリジナルのプロダクト「ZaaZ」を開発した川口氏。大手企業のプロモーションなどに活用され、そこからさまざまな匂いに関するプロダクトを作り続ける。2017年、VR用ヘッドマウントディスプレイに取り付けるプロダクト「VAQSO VR」を発表。新たに設立したVAQSO Inc.の世界規模の展開について伺った。

VAQSO Inc. CEO 川口 健太郎
東京都出身。専修大学 経営学部 卒業。日本大学大学院:MBA最年少講師(26歳)、SONY VAIO販売員:全国1位(4回)、AppleWatch 開発コンテスト:初代優勝、イトーヨーカ堂 試食販売員:全国2位、2006年 ダーウィンの『種の起源』よりインスピレーションを得て『オリジナル論』を提唱(21歳)。2009年 色々な食べ物の匂いがでるマシンZaaZ oneを発明。同年、ザーズ株式会社設立。2011年 流れ星の生成方法を考案。2017年 米VAQSO Inc.設立。
https://vaqso.com/
http://zaaz.jp/

VR(仮想現実)ヘッドマウントディスプレイに匂いを追加

――現在リリースを予定している「VAQSO VR」について説明していただけますか?

VRの映像やゲームコンテンツの体験中に匂いが出るデバイスです。どういったものかというと、お菓子のスニッカーズくらいの大きさのデバイスに小さな穴が3つ開いていて、あらかじめセットされている3種類の香りが出ます。例えば「フライドチキンの匂い」「天井の砂埃の匂い」「お風呂上がりの女の子の匂い」など、コンテンツに合わせた匂いをセットして噴出させるデバイスです。

――コンテンツにあわせて匂いの素が提供されるのですか?

はい。ゲームジャンルごとに既存のラインナップから、選んで購入頂く予定です。例えば、シューティングゲームは「銃を撃った時の火薬の香り」「下水道の香り」「森にシーンが変わったときの匂い」などのセットです。恋愛ゲームで女の子が近づいたときに髪の毛の香りがする体験ができます。ゲームにオリジナリティを出したいと希望されるゲームコンテンツメーカーがいらっしゃる場合は、そのVRコンテンツの世界観に完璧に合わせた匂いを作ることも可能です。今はプロトタイプなのでカートリッジと本体が一体化していますが、製品版はユーザが簡単にカートリッジを入れ替えれるようにします。

今は各社のVR用ヘッドセット、Oculus rift、HTC Vive、PSVR、ハコスコ、グーグルカードボードなど、どれにもVAQSO VRを取り付けることができます。デバイスにマグネットが付いているので、ヘッドセットへの取り付けも一瞬。デモで試しましたが、マグネットの磁力はVR映像に影響はありません。ちなみに匂いは、通常のプレイで約1ヶ月保ちます。

匂いのカートリッジは、製品版では5~10種類に拡張する予定です。匂いのラインナップは、BtoBとBtoCで異なり、BtoCの場合はあらかじめ決められた香りですが、BtoBの場合はプロジェクト単位で匂いを新たに開発します。2017年の今年中に販売ができるように進めています。

――現在までの反響はいかがですか?

2017年1月17日の会社設立時におこなった記者発表の記事は、世界20カ国、約500のメディアに掲載いただきました。他に、実業家の堀江貴文さんが好きなガジェットを集めてイベントを開催する「ホリエモン祭り」が2月4日におこなわれたのですが、そのサテライト会場にVAQSO VRが展示されました。その後、アメリカのピッツバーグで本戦があるピッチコンテスト「Hardware cup」の日本予選に出場して、3位に入賞しました。現在、競合となるBtoCの匂いデバイスは世界におよそ3社いますが、その中でVAQSO VRが一番小さくて複数の匂いが出せるハイスペック製品という位置づけになります。

――メディアが大々的に取り上げたのは、なぜでしょう?

今「VAQSO」には私含めて数名が在籍しています。アドバイザーの黒川文雄は、セガサターンでの初期のポリゴンゲーム『デイトナUSA』『バーチャファイター』を広めた実績があり、また「ブシロード」という会社の副社長でもあります。ゲーム業界に精通している彼が、ゲーム系メディアにアプローチしたことで注目が集まりました。

――では、これからオリジナルのコンテンツを作るのですか?

私たちの会社では、VRのコンテンツを作っていくのではなく、デバイスとAPIを作っていきます。現段階としては、デベロッパー向けに簡単なデバイスと組み込めるAPIを公開しているので、デベロッパーは既存のゲームにコードを2行入れるだけで、VAQSO VRと連携ができる仕組みになってます。

――今のところ形になったコンテンツはありますか?

まず、デモゲームのVR作品があります。シチュエーションは夕暮れ時の高校の教室。机の上にコーヒーとチョコレートが置いてあり、VRのコントローラーで掴んで顔に近づけると、その匂いが出てくる作品です。左を向くとユニティちゃんという女の子のキャラクターが立っていて、顔を近づけると女の子の香りもします。


――デモ作品を制作する上で、どういった点が苦労されましたか?

匂いをどうやってミュートするかがポイントでした。匂いは1回出すとなかなか消えにくいので、どう制御していくかを研究しています。このデバイスは鼻の前のテニスボールほどの狭い範囲にしか匂いが出ないのですが、体験しているユーザーは空間全体で香りがしているように感じるんですよ。

――今後はどういった展開になりますか。決定したゲームのタイトルはありますか?

まだないですね。国内の大手ゲーム会社やヘッドセットのメーカーに営業をしています。春に向けてVRのデベロッパーに向けたプレセールを行っていて、秋にBtoCのプレオーダーがあります。合わせてBtoBのアミューズメントや広告プロモーションの準備を進めていきます。

――国内だけでなく海外に向けても発信できるデバイスですね。

世界展開を前提にしているので、スタートアップとして世界中の投資家から資金を集めたいです。それもあって今後はサンフランシスコに本社を置いて、開発拠点は東京という形を考えてます。3月末に「シリコンバレーVR」という展示会、4月にニューヨークとピッツバーグでのデモやコンテストにブースを出す予定です。

嗅覚への興味の発端

――では遡って、どうして匂いに興味を持たれたのかを聞かせていただけますか?

僕が大学在籍時にダーウィンの『種の起原』を読んで、自分で「オリジナル論」というロジックを考案しました。これは簡単に言うと”オリジナルが最強”ということです。絵画で例えると、ゴッホのひまわりをピカソが描いたとしても、ゴッホの描いたひまわりの価値を超えられない。音楽で例えても、ビートルズの曲を優れたバンドマンが弾いても、オリジナルの価値を超えられないと思うんです。それはビジネスでも当てはまると思っています。ビジネスのオリジナルは、人間の感情が動いたときであり、人間の感情を落としこむと五感になります。

――面白いですね。まず経済効果的な話ではなく、人間の感情に視点が行くのが。

五感のビジネス領域は、視覚だとメディアの産業、味覚は飲食業、聴覚は音楽、触覚はマッサージや美容。嗅覚は、お香と香水とアロマテラピーになります。お香と香水とアロマテラピーに共通しているものはBtoCのモデルです。逆にBtoBの匂い領域のビジネスはこれまでに無いため、可能性を感じました。そして、今までにないBtoBの匂いの領域を切り開くためのキラーコンテンツは「色々な食べ物の匂いが出るマシン」だと直感しました。その後いろいろな食べ物の匂いが出るマシンを発明して、3ヶ月後の2009年10月に製品化。同月に会社を設立しました。大学6年生(24歳)の時でした。それがZaaZの始まりで、2017年の3月で9期目になりました。ハードウェアスタートアップという言葉が知られていない頃でしたね。

生活に匂いを加えるZaaZのプロダクトたち

――約8年の中で手掛けられたプロダクトをひとつづつ教えてください。

最初に「ZaaZ One」というデバイスを作りました。トランプくらいのキューブ型をしたサイズのデバイスです。匂いのカートリッジが変えられて、スイッチを入れると筐体の中で香りが気化します。それをファンで筐体の外に送り出す仕組みです。基本の構造は私が考えて、筐体を削る作業などは加工業者にお願いしました。レジ横に置いて匂いを出して購買意欲を高める販促目的のデバイスで、ドトールなど大手に営業しました。

次に作ったのが「ZaaZ 2」。"究極”を形にすることだけにフォーカスして、6ヶ月間会社にこもって、独力で開発を進めました。振り出しに戻るようなトライ&エラーもありましたが、常に”壁があったら破壊する”の精神をベースに、そして、必ずこのマシンで人類の未来を変えるのだという意志をモチベーションに、何が起きても愚直に、ただひたすらに開発を進めました。

開発においてはプロダクトデザインや設計を自分で手がけましたが、香りの出力を世界最高クラスに上げることをゴールに定めて設計を開始しました。リバースエンジニアリングを行い、3DCADを使ってモデルを起こすところから、匂いのミスト同士をぶつけあうことで極小のミストを生成する新構造の考案や、素材やパーツの選定・仕入れ、アッセンブリーまで、気合で一貫して行いました。また、デザイン面では、プロダクトの存在感を消すため、筐体にミラー素材を採用したステルスデザインという新しいデザインスキームを編み出しました。これらの開発に成功したことで、匂いの広がるエリアを9平方メートルから700平方メートルへと、スペックを飛躍的に向上させることができました。

その後、現行モデル「ZaaZ 3」です。2と3の違いは、スリムになって音が静かになりました。匂いが出る量は、2に比べると少ないのですが、タイマーなど色々な機能を追加しました。ZaaZ 3の実績としては、パルコ、イケア、キヨスクなどの企業がプロモーションやブランディング目的で採用しました。

変わった取り組みでは、蒼井優さんの出演した舞台で主人公がガソリンを撒くシーンがあって、ガソリンの香りを客席に出す演出に使われたこともあります。広告会社カヤックとともに取り組んだパルコの案件では、体感型の読書コーナーを作りました。電子書籍を読むと、ソファーの脇に置いてあるZaaZ 3からストーリーにあわせた香りが出てきます。

「匂い名刺」は、名刺やショップカードに匂いをつけるためのカードケースです。匂いもいろいろバリエーションがあって、コーヒーの入れたての香り、バタートースト、檜、ミントという定番系のものもあります。例えば、コーヒーショップの店員が持つ名刺やショップカードに香りを付けるために使います。匂いは記憶に残るので、名刺交換時のファーストインパクトを五感で覚えてもらう意図があります。こちらは2月に放送されたNHKの「おはよう日本」や、『日経ビジネス』『日経新聞』に取り上げていただきました。

「ZaaZ Bath Fragrance」はおうちの風呂を一瞬でヒノキ風呂に変えるスプレーです。クラウドファンディングがきっかけで製品化したものです。これは国産の天然のヒノキのオイルが中に入っています。シャワーを浴びているときにバスルームの空間にスプレーすると、一瞬でヒノキの香りに包まれて、おうちのお風呂がヒノキ風呂に変わったような感覚を体感できます。訪日の外国人向けにターゲッティングした製品です。伊勢丹新宿本店のイブ・サンローランやディオールの前方に位置する場所で、期間限定プロモーションを行ったりしました。現在は東急プラザ銀座などで販売中です。

まだ名前がないんですが、こちらは開発中のプロダクトです。「SCENT MEDICAL(セントメディカル)」というのは、気体を使って人の機能性を高めるサービスに付けた名称です。このプロダクトは車向けのSCENT MEDICALのデバイスで、最適なタイミングでカフェインが噴出します。スマホのGPSと連動して、渋滞時や事故多発地帯にさしかかる前にカフェインが噴出されるアルゴリズムが組まれていて、眠気を防止できます。カフェインには匂いがないので、いつも通り運転しているだけで事故率が下がるというもの。現在世界複数国で特許を出願しており、日本では2月に特許を取得しました。

匂い以外の事業として、広告デザインのサービスも行っています。東証一部の会社、サカタインクスの新ブランドのブランディングとしてBI(ブランド・アイデンティティ)や、ロゴ、営業資料を作りました。あとはパナソニックとか小田急不動産のグラフィック、産経リビングのウェブコンテンツ、ふとんの西川の映像やリーフレット、それと生協のチラシを毎週作っています。ブランドのプロモーションは広告事業なので、匂いのビジネスとはプロモーションの側面でけっこう連動するんです。

学生時代はメンズネイリストとして活躍

――噴出する匂い自体はどのように制作していますか?

カクテルを作るように、複数のケミカルを混ぜてシェイクして1個の匂いにしています。絵の具を混ぜることと似ていて、オレンジ色は赤と黄色を混ぜて作るのと同じような感覚で匂いをブレンドします。幼少期から10年程、アトリエで絵を描いていた経験の影響も大きいですね。

僕自身の略歴をお話すると、4才から中学生までアトリエに通い、中学の時から10年間ストリートダンスを続け、大学時代は自分で作ったダンススクールでインストラクターをしていました。中学から高校に移る頃に、ギャツビーからメンズ用ファンデーションや男性用化粧水などが発売されたり、コムデギャルソンからメンズ向けのスカートが発売される流れのなかで、これからは「男性が女性化して、女性が男性化する」トレンドが来ると感じました。

僕はこれまで女性だけが使っていたファッションツールの中で、男性が取り込みやすいものを考えたときに、メンズ向けのネイルが流行ると感じました。当時のメンズネイリストは国内に20人ほどしかおらず、彼らは美容室の客単価をあげるために、数年ネイルを学んでメンズネイリストになっている背景がありました。一方で、僕は4才から10年間絵を学んでいました。キャンバスサイズを1m四方から1cm四方にするとネイルアートになるので、当時の僕は日本でナンバーワンのメンズネイリストになれると考え、独学でネイルを学んで、高校1年生の時にメンズネイリストになりました。それから大学3年生まで6年間メンズネイリストをしていたんです。

でも活躍できるのは芸能人の専属ネイリストくらいで、ネイリストがネイルサロンで出せる売上には上限があることに気づき、ネイル業界からフェードアウトしました。親が広告会社の経営者だったので大学は経営学部を選び、講義を受けているうちに自分で始めた方が面白いと思うようになり、起業しました。絵、ダンス、ネイル、起業とゼロからクリエイティブすることが、昔から好きでしたね。

VR匂いデバイスのトップシェアを目指して

――そこから匂いという全く見えない物を扱うようになったのは面白いですね。DMM.make AKIBAを知ったきっかけは?

知人の経営者を通じて知りました。以前は西麻布にあるマンションの一室を事務所として借りていたのですが、たまたま契約が切れるタイミングだったのでこちらに移りました。

――DMM.make AKIBAではどういった作業をされてますか?

調合やプロダクトのデザイン、クライアントとの打合せなど、外回りの営業以外は全部ですね。VAQSO VRの筐体はテックスタッフの方に加工してもらいました。AKIBAの中では、技術的にわからないことを相談したり、作業を依頼することもあります。

――DMM.make AKIBAで協業してる方はいますか?

トップアーティストのライブ会場などで高音質の音響配線を担っている足立さんなどを中心に、会員同士で偶発的に始まったプロジェクトなどがありました。クロムハーツのような筐体のアッパーな約35万円のイヤーモニターを作るプロジェクトです。どちらかというと音楽好きよりファッション層に対してアプローチするもので、私は製品の企画などプロデューサー的な役割で参加していました。3Dプリンター出力の部分では、DMM.makeの3Dプリンター事業部の方にモデリングをお願いする座組みでした。

――今後のVAQSOの事業展開は?

我々はVRの匂いデバイスの領域のなかで、世界ナンバーワンを目指しています。ゴールドマンサックスが一般公開しているマーケティングの試算では、VRのマーケットが2025年までに約9兆円に急成長するそうです。その中で我々がターゲットとするマーケットは約4兆円。仮にそのシェアを3%だとしても1000億円になります。今後は世界規模で「VRから匂いが出るデバイスはVAQSO」というブランディングを仕掛けていきたいと思っています。

DMM.make AKIBAから一言

オープン当初からDMM.make AKIBAをお使いいただいている川口さん。いつも黙々と仕事に打ち込む姿が印象的でしたが、ときどき「いい匂い」が漂ってきて、辿ると川口さんが開発している「ZaaZ」に使用される香料のものでした。それは「お風呂上がりの女の子の匂い」だったり「焼きたてのパンの匂い」や「挽きたてのコーヒーの匂い」だったり。川口さんの「匂い」に対するこだわりと探究心は、それらのタイトルからも想像に難くないのですが、「挽きたてのコーヒーの匂い」と一口に言っても「1872年にテキサス州の荒地で髭の男が淹れたブラックコーヒーの匂い」を具体的にイメージしたものだと聞くと、もうそれだけで、ただならぬ熱い思いが伝わってきます…。そしてその熱い思いは、VRの世界にも進出。メディアの注目度も高く、これからの展開が楽しみです。
個人的には、ダーウィン『種の起源』から導き出した「オリジナル理論」について、一度じっくり伺ってみたいと思ったのでした。(編集・境 理恵)

おまけ:「VAQSO VR」を体験するライター髙岡氏。人をこんな顔にさせるとは...。

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