MAKERS #14「株式会社OTON GLASS 代表取締役 島影圭佑」―きっかけは父の失読症―“読む”行為をサポートする眼鏡型デバイス

MAKERS #14「株式会社OTON GLASS 代表取締役 島影圭佑」―きっかけは父の失読症―“読む”行為をサポートする眼鏡型デバイス

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2017/06/28
0

このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。

モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・髙岡謙太郎/写真・境理恵)

父親が脳梗塞の後遺症として文字を認識しづらくなる失読症を発症。それをきっかけに開発が始まったプロダクトが「OTON GLASS(オトングラス)」である。このメガネ型のデバイスは、文字を撮影した画像を文字認識技術で音声に変換。視覚からではなく、読み上げられた音声を通して聴覚から内容を理解することができる仕組みだ。まずは島影さんに現在取り組んでいるOTON GLASSについて聞き、そこから本人像に迫った。

株式会社 OTON GLASS 代表取締役 島影 圭佑
1991年生まれ。2013年、首都大学東京在学時、父の失読症をきっかけに、視覚的な文字情報を音声に変換することで「読む」行為をサポートする眼鏡型のデバイス「OTON GLASS」の研究開発を始める。2014年に情報科学芸術大学院大学[IAMAS]に進学し、同年に株式会社 OTON GLASSを設立、代表取締役に就任。現在も、読字障がい者、視覚障がい者にOTON GLASSを届けるため、研究開発と事業化を進めている。主な受賞歴に「James Dyson Award 2016 国内3位」「GUGEN 2016 優秀賞」「YouFab Global Creative Awards 2016 グランプリ」。

父の病気と向き合い、文字を音声化するデバイスを

――まずOTON GLASSは、どういった仕組みなのですか?

現在のハードウェアの構成は、メガネ、Raspberry Pi、スピーカー(イヤホン)の組み合わせです。ほとんどの処理はクラウド上で行われていて、Raspberry Piで画像を投げて返ってくる結果を再生しています。

メガネのフレームの中央にカメラが付いていて、メガネのつるにあるシャッターボタンを押すことで、文字を撮影します。その画像データがRaspberry Piからインターネット上の画像認識サービスにアップロードされて、OCRで文字認識されたものが音声合成技術で音声化されます。そして、その音声データがRaspberry Piに戻ってきてスピーカー(イヤホン)からその場で再生される、というのが一連の流れです。

――対象は、文字が読解できないけれど音声では認識できる障がいを持った方向けですよね?

そうですね。2012年に父親が病気になり、2013年に研究開発を開始しました。僕の父親は、脳梗塞の後遺症による後天性の失読症で、ディスレクシアとは少々違うんですね。言葉を忘れてしまう感覚に近い。

ディスレクシアは、先天的に文字が読むことが難しい障がいです。それは視力や知能に問題があるわけでなく、認知の部分に問題があります。運動が苦手な人がハードルを飛び越えられずぶつかってしまうのに似ていて、文字を読むことが極度に苦手な方たちです。会話はまったく問題ありませんが、文字を読むのに時間がかかったり読み間違えたりすることが多いのです。

人間が文字を読む時の認知プロセスは、文字が視覚刺激として眼に入り、それを脳内で音声化して、文字の意味内容を理解しています。ディスレクシアの人は、視覚刺激が入ったときに脳内で音声化することに問題があります。有名人ではトム・クルーズさんがディクレシアを公表しており、台本を音読してもらっているそうです。

障がいを克服するプロダクトの着想から制作まで

――前例のないプロダクトですが、どうやって作られたんですか?

僕は大学の頃、工業製品のデザインを勉強していて、その技術が基本的な手法になっています。まずはユーザーの生活の場に現地調査にいってヒントを得ながら、アイディアをスケッチなどで発散収束させコンセプトを練り上げていく。OTON GLASSの場合だと父親の行動観察をしました。普段どういうときに困っているかを、実際に一緒に行動しながら調べていたんです。そんななかで、あることに気が付いて。病院の診察でアンケートを書く際には文字が読めなかったんですが、担当医の先生が代わりにその文字を読み上げてあげると、父は回答できたんです。それを見て、近くで文字を読み上げる人がいて、それが身体の一部のようになればという発想を得ました。

それを実現するプロダクトを考えようと、いま世の中にある技術について調べてコンピューターサイエンスの論文などを読みながら、アイデアをスケッチで描いていきました。そうして出てきたいろいろなアイデアのなかから、最終的にメガネ型に収束しました。

――現在に至るにはどういった経緯でしたか?

僕自身はプロダクトデザイン専攻なので、プログラミングや電子工作などのエンジニアリングについては専門外です。協力者を募るためにアイディアが伝わる映像(ビデオプロトタイプ)を作って訴えかけました。そしてエンジニアやデザイナーの仲間を集めて、最初のプロトタイプを完成させました。

当時から現在まで、文字を撮影して音声に変換するというシステムの基本の流れは変わっていません。開発を始めた当初、世の中に出回っていた文字認識と翻訳と音声化に関する技術の精度はまだまだだったのですが、GoogleのクラウドビジョンAPIを筆頭に各種APIの登場で実用化が現実的なものとなりました。

僕自身もそうですが、テクノロジーを使った製品を扱うプロダクトデザイナーは、ユーザーが製品を使う目的やその使用場面をイメージしながら、それをどういう技術で実現できるか調査するというのを行ったり来たりしています。あらゆる諸条件の中で、仮説を立てそれを可視化し、チームで検証し、一歩一歩前に進めていく役割を持っていると思います。

――プロダクトを開発する仲間はどのように集めましたか?

大学院のIAMASに在学中、お世話になった小林茂先生が主催するメイカソンに参加し、それをきっかけにMaker Faireに出展して、そこで出会った仲間が最初のメンバーです。

――Maker Faireが出会いの場として機能してるんですね。初期のプロトタイプをブラッシュアップしていくなかで大変だったことは?

当時は今ある技術ほど実用的なソフトウェアがまだ出ていなかった。それとハードウェアのクオリティを上げてくのが難しかった。最初集めたメンバーは僕と同世代だったのですが、やはりハードウェアは実社会での知識や経験が無いとクオリティが担保できません。製品化を視野に入れるとこのメンバーのままでは厳しいということになり、一度解散してるんです。

そして僕一人になり、またメンバーを集めなおして。今一緒に開発してくれているのが、約10年間メーカーに勤めていたハードウェアのエンジニアの方ですね。ソフトウェアは時代の流れで進化して、やっと形になってきました。細かい経緯もありつつ、現在3台目です。

――シンプルで使い易いデザインだとおもいますが、これは島影さんが手掛けたのですか?

今、このモデルにはプロダクトデザイナーは介入していません。これはハードウェアエンジニアの栗元が手掛けています。スタイリングを変える余地はまだたくさんあるので、プロダクトデザイナーと協働して、次のモデルを作りたいです。

――現在のプロダクトの課題はなんですか?

最近はユーザーさんに製品をお渡しして、生活の中で使ってもらう準備を進めています。現時点の製品でも欲しいという方はいるので、まずそういった方にお渡しして、より生活に即したフィードバックをもらえるような体制をつくっている最中です。

――最近PRにも力をいれていらっしゃるようですが、一番反響があったものはなんでしょう?

テレビ東京さんの「トレたま(トレンドたまご:ワールドビジネスサテライト内コーナー)」に取り上げていただいて、その反響は大きいですね。それと、金沢21世紀美術館でOTON GLASSを体験できる展示を現在も行なっていて、こちらも知ってもらう上で重要な役割を果たしています。体験しないとわからないものなので、体験を通して製品を知ってもらい、それが波及していくような展示を目指しています。

他には、DMM.make AKIBAで毎月行われる交流会でプレゼンテーションしまして、DMM.make AKIBAにいる人たちと知り合うきっかけになりました。

――OTON GLASSは今後どういった展開を予定していますか?

現在、フィードバックをもらうテストマーケティング中で、製品としての正しい仕様を探っている段階です。Raspberry Piベースのものから卒業して、次は専用の基板を作り、小型版を開発したいと思っています。

専用設計にしてメガネ単体だけで成り立つものにするのか、またはスマートフォンと連携してメガネ側はインターフェースのみに使うか。とにかく普通のメガネのように、気軽に掛けられるもの、使えるものを作りたいです。

――ビジネス化を目指した量産に対応できる設計に落とし込む段階なんですね。海外にも似たプロダクトはありますか?

海外ではイスラエルとイタリアの画像認識の研究者が、物体認識まで行う視覚障がい者の方のデバイスを作っています。そことの違いは、僕らは基礎技術である文字認識・翻訳・音声合成などは外部のサービスを利用し、それらを統合して、日常で使いやすいハードウェアとインターフェイスを作ることに集中していることです。

これまでと、これからのこと

――では、島影さん個人についてお聞かせください。テクノロジーなどに興味を持ったきっかけはいつ頃からですか?

元々理系でしたが、子ども頃から絵を描いたりモノを作ったりするのが好きだったので、大学進学では建築とプロダクトデザインを受験して、プロダクトデザインを選びました。

デザインは工業製品から空間系までジャンルが多岐にわたりますが、その中でもビビっときたのがメディアアートの美術館であるICCに行った時です。僕はメディアアート的な視点でなく、プロダクトデザイン的な視点でICCを楽しんでいて、そこからテクノロジーを使ったプロダクトを作りたいと思うようになりました。

ICCにインパクトを受ける前にも大きな出来事があって、それはiPhoneが出たことです。純粋な家電でなく、ソフトウェアもハードウェアもインターネットもすべて統合されたプロダクトが、社会にものすごい影響を与えていることがとても印象的でした。そのことも、テクノロジーを使ったプロダクトに興味を持ちはじめたきっかけのひとつです。

僕は学芸員の資格を持っていて、在学中、山口県にあるメディアアートの美術館YCAMで1ヶ月インターンを経験しました。そこでの経験も、今に影響を与えています。

――YCAMのインターンではどのようなことを担当しましたか?

YCAMでは、教育普及部門に所属して、テクノロジーに対してどう向き合うか考える場を作ることをしていました。僕が企画したワークショップは、小学生を対象にした「実際にドラえもんの道具があったら社会にどういうことが起こるかを考えてみよう」というものです。その技術が、社会に起こす良い面も悪い面も含めた影響を考える場を作りました。

――他にはどのようなことをされましたか?

僕は首都大学東京のデザイン学部の出身で、no new folk studioの皆さんなどが先輩なんです。みなさんはインタラクションデザインの研究室でインタラクティブな楽器などを制作されていました。

僕はプロダクトデザインの研究室で、自動車メーカーや家電メーカーなどのデザイナーになる研究室でした。1〜2年生は分野を分けずに一緒に勉強して、その後3年生からインタラクションデザインやプロダクトデザインをはじめ、様々な領域に分岐します。分野の垣根をあまり感じさせない教育環境は、今の僕に強い影響を与えていると思います。

あとは東芝のデザイン部門で2週間インターンをさせてもらい、デザイナーとして必要な基礎知識を学びました。そこではデジタルデバイス部門に配属され、情報技術を使ったプロダクトを考える機会がありました。

――DMM.make AKIBAのオープンチャレンジの一期生はどういった経緯で?

日本で一番大きなハードウェアのコンテスト「GUGEN 2016」に出展して、審査員でDMM.make AKIBAのエヴァンジェリストでもある岡島さんからAKIBA賞をいただきました。それが今進行中のオープンチャレンジアクセス権です。サポーター企業が3ヶ月間、僕らの事業化を応援してくれるアセラレーションプログラムで、その一期生です。

――オープンチャレンジプロジェクトのサポートはどんなものでしたか?

具体的には、オリックスさんなどサポート企業の方が一緒に営業に行ってくださったり、僕だけではアクセスできないような企業や立場の方と、お話しする機会をいただいたりしています。DMM.make AKIBAにはハードウェアスタートアップのネットワークやコミュニティがありますので、そこもふんだんに使わせてもらっていますね。

――最後に、島影さんの今後の活動や目標を教えてください。

とにかくOTON GLASSをユーザーに届けるためになんでもする!それに尽きます。7月7日にDMM.make AKIBAでオープンチャレンジの成果発表会(Demoday)がありますので、是非お越しください!

【DMM.make AKIBA Open Challenge1 Demoday】
2017年7月7日、DMM.make AKIBAでビジネス化に向けたIoT関連プロダクトの発表展示会「Demo Day」を開催します。
[参加申込] ⇒ http://peatix.com/event/272019/view

このイベントでは個人や団体が開発するプロダクトのサポートプログラム「DMM.make AKIBA Open Challenge」の第一期に採択された11チームが、技術やビジネスに精通したサポーター企業と3ヶ月間タッグを組みブラッシュアップした成果を発表します。
[出展プロダクト紹介] ⇒https://media.dmm-make.com/item/4235/

DMM.make AKIBAから一言

「DMM.make AKIBA Open Challenge」の第1期生となる以前より、ハードウェアスタートアップ界隈で「OTON GLASS」の評判を聞いていました。代表である島影さんの第一印象は、スマートでスタイリッシュ。でも実際にお話してみると、拍子抜けするほど気さくで明るく、「天真爛漫」という言葉がぴったりな人物でした。一言で言うと「オモロいお兄さん」なんですが、今回のインタビューを通して、「OTON GLASS」の誕生以前からこれまで、そしてこれからのこと、それに懸ける島影さんの思いを知り、改めて「島影圭佑」という人物の奥行き感と引き出しの多さ、「OTON GLASS」の計り知れない可能性を感じました。ただのオモロいお兄さんじゃなかったと分かったところで、今後の展開から目が離せません。

なお、「島影さん、含み笑いが…」「素の島影さんが出すぎてるので、もうちょっと抑えてもらって、ノーマルな感じを装ってください」という番組ディレクターさんの指摘とアドバイスにより、慣れない神妙な面持ちで「トレたま」の撮影に挑む島影さんの様子はこちら。
[テレビ東京]http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/trend_tamago/post_133521/
(編集・境 理恵)

参考にしてくれた記事

記事が登録されていません。
この記事を参考にして、新しく記事を投稿しよう!

違反について