MAKERS #19「株式会社Pyrenee(ピレニ―)CEO・三野龍太」命を守る楽しい製品を―既存のクルマにAIを搭載して交通事故を回避する

MAKERS #19「株式会社Pyrenee(ピレニ―)CEO・三野龍太」命を守る楽しい製品を―既存のクルマにAIを搭載して交通事故を回避する

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2017/11/29
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。

モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・髙岡謙太郎/写真・境理恵)

運転中に目的地までの経路を示すカーナビ製品は一般に普及し、ドライバーにとって身近な存在となった。ネットワーク回線によって、最新の地図情報がリアルタイムで取得できるようになり、ナビの情報精度が上がったほか、スマートフォンアプリを利用したナビ機能は当たり前に使われている。今では自動運転の車が登場したように、今後は運転者をナビする範囲は経路にとどまらず、事故防止や危険予測といった域に広まりをみせるだろう。そうした未来を睨み、いま新たな運転支援デバイスを開発しているのが、株式会社Pyreneeだ。創業者の三野龍太氏に、デバイスに盛り込まれた新気鋭のテクノロジーと今後の世界展開について伺った。

<プロフィール>
株式会社Pyrenee(ピレニー)創業者・CEO 三野 龍太(みの りゅうた)
1978年生まれ。東京都出身。建築工具メーカーで製品開発を経験した後、独立して雑貨メーカーを立ち上げデザイン、生産、販売を行う。本当に人生を賭けるべきモノ作りとは何かを考えた結果「人の命を守る楽しい製品」との答えに行き着き、2016年にPyreneeを立ち上げ、最初の製品となる「Pyrenee Drive」を2017年に発売するべく、メンバーとともに製品開発にとり組んでいる。
http://www.pyrenee.net/

既存のカーナビを超える、3つの機能

――まずはPyreneeがどういった会社なのかお聞かせいただけますか?

三野:私たちは「人を守る、人を助ける製品」を作る会社です。グレートピレニーズという山岳救助犬「Pyrenee」をイメージして社名とアイコンに採用しました。現在最初の製品として開発しているのが、運転支援デバイス「Pyrenee Drive」です。乗用車のドライバーの目の前に位置するダッシュボードに設置し、シガーソケットから給電するだけですぐに使い始められます。

現在手に取っているのは、製品のモックアップ。この大きさの中にディスプレイと基板が収納される予定だ

――この運転支援デバイスには主にどういった機能がありますか?

主な機能は3つあります。「交通事故を防止する機能」「ネット接続したドライブレコーダー機能」「スマホと連携してカーナビや音楽、通話などが使える機能」です。

ひとつめの交通事故を防止する機能ですが、この製品は自動運転のように車を制御せず、状況に応じてドライバーに適切なサポートをすることで事故を減らしていきます。世の中で起こる交通事故の9割以上がドライバーの不注意が原因であることをご存知でしょうか。この不注意を減らせるようにドライバーをしっかりとサポートできれば、かなりの数の交通事故が減らせると思っています。

この製品は、ディープラーニングによる物体認識とステレオカメラ(2つのカメラ)による距離測定をリアルタイムで実行します。そのデータから、ドライバーと同じ目線で常に道路状況を立体的に把握して、周囲に危険がないかを監視します。もし危険な状況になりそうな状態を察知したら、ドライバーに分かりやすくアラートをディスプレイ上に表示して、ドライバーが事故を未然に防げるアクションを起こせるようにサポートします。

ステレオカメラによって取得した目の前の物体のデータを、人工知能によって、人間、バイク、トラック、自転車などに判断していく

ーーこれが1番大きな機能ですね。最近ではスマホをカーナビにする方が多いですが、機能性が違いますね。

三野:そうですね。このデバイスでは、ステレオカメラが人間の目と同じように目の前で動いている物体を認識して、それが人なのか車なのか、何なのかを判別します。車や標識、人などを認識する学習を続けていくことで精度を高め、今後はさらに国ごとに異なるパトカーや救急車、消防車などの緊急車両の認識もできるようになっていきます。おそらくインドでは牛も道路にいるので認識することになりますね。製品購入後、ネットワークを通じて世界中から集められた情報を元に危険察知精度が上がっていく機能も大きな特徴ですね。

ーー犬や猫などの動物も認識しますか?

三野:認識できます。常に追加学習を行うディープラーニングによる物体認識と、ステレオカメラの視差情報を利用した物体との連続的な距離測定により、人間の脳と同じように目の前で何がどう動いているかを把握することが可能です。

例えば、走行中に突然人が飛び出してきてしまったとき、ドライバーがよそ見していると衝突事故の確率が高くなりますよね。そういった、安全な運転の基準を逸脱するデータもどんどん学習していきます。人間は、よそ見や考え事を一切せず完全に運転に集中し続けることは現実的には無理です。逆に、機械は人間と違って、与えられた使命を1秒も休むことなく行えることが利点なので、そこで人間の補完をすることができます。

また、この製品の大きな特徴は、ピレニ―ドライブを乗せた車の情報をクラウドにどんどん集めていくことです。実際の道路上で、どういう車の動きがあったか、どういう危ない場面があったかを、AIが追加学習していくことでさらに賢くなるのです。また、プログラムの更新を継続的に繰り返していくことで、購入後もデバイスは進化していきます。

それだけでなく学習を重ねることで、危険を感知する時間がかなり早くなると想定しています。今までは衝突の3秒前に危険を感知してアラートが出ていた場面でも、学習を重ねることで、3秒前、4秒前、5秒前と早い段階で危険を感知することが可能になります。さらに将来的に10秒前や15秒前に警告を出せるようになれば、事故はかなり減らしていけると考えています。

ステレオカメラをかざせば、ディスプレイ内の車も認識する。左のディスプレイに物体を判断した画像が表示されている

ーー完全に先を見据えているサービスですね

三野:2つ目の機能は、ネットに接続したドライブレコーダー機能です。このデバイスで事故を感知した時に、自動で事故時の映像とGPSのポイントをコールセンターに送るようになっています。万一、単独事故により自分で救急車を呼べないような時でも、遠隔で救援を呼ぶことが可能です。事故時の映像も自動で保管されて証拠が残ります。リリース段階から日本やアメリカではコールセンターを準備します。またユーザーが登録した家族や自分の会社にお知らせがいくように設定することで、どこの国でも不測の事態に対応できます。

ーーこれは世界的な展開を見据えているんですね

三野:世界中の人に使ってもらいたいですね。アメリカやカナダ、オーストラリアなど国土が広い国では、周りに人がいない状況での単独事故が結構多いそうです。

またGPSを搭載しているので、自分が通った経路を記録して旅の記録を残せます。ステレオカメラで3次元で録画できるので、ユーザーが走った経路の3次元地図を作ることができます。Google Street Viewのように、私たちが自社の車で世界中を走らせて撮影すると莫大な費用と時間がかかりますが、これはユーザーがそのときに走った道路のデータを利用して三次元地図を完成させていきます。

ーー多くの国でさまざまなユーザーが利用することによってデータが蓄積されていくんですね。

三野:そうですね。将来、一般化するであろう自動運転も、車自体が持っている3次元の道路地図を現実の道路と照らし合わせながら自動走行する仕組みです。ですので、3次元地図はどうしても今後必要になっていきます。このデータを自動車メーカーや研究機関に提供することで収益を得られると、この製品の価格も安くすることができます。そして大勢の人に使ってもらい、さらに地図のデータを集めて……という循環を作っていきたいです。

またこの製品の大きな特徴は、車を制御しないことにあります。例えば危険を察知して自動的に車のブレーキが作動するようなデバイスになると、それぞれの国での法律の縛りを受け、さらに日本であれば国交省などの認可が必要になります。自動制御しないことによって、ひとつのデバイスを世界中どこへでも販売することができ、なおかつ最新の技術を使うことができるのです。車を制御するデバイスは試験や認可に時間がかかりますが、ピレニードライブでは日進月歩で進化するディープラーニングや人工知能の最新の機能を、購入後もネット経由のアップデートですぐに実装することができます。

そして3つ目の機能は、スマホとの連携機能です。スマホのカーナビアプリ(iPhoneの「マップ」やAndroidの「Google Maps」など)をピレニ―ドライブの画面に表示し、タッチパネルで操作することができます。

開発の3つの難関を乗り越えて

ーー仕様の大枠は出来上がっているんですね。それをどうプロダクトの中に落とし込むかというのが今後の課題でしょうか?

三野:このデバイスを開発するうえで技術的なハードルが3つあり、そのうち2つが解決しつつあります。ひとつはディープラーニングの認識をエッジ側(デバイス側)で実行することですが、これがかなり大変でした。通常はディープラーニングによる画像認識にはスペックの高いパソコンを用いますが、それを小型のデバイスに組み込めるものでは処理するスペックが足りなかったのです。その部分の開発が難航していましたが、ディープラーニングのプログラムを工夫することでリアルタイムに正確な認識が実行できるようになり解決の目処がみえてきています。 

もうひとつは、ステレオカメラでの距離計測の計算量が非常に大きいことです。その問題を解決するために、計算量を減らす工夫をしました。今までは画面に映るもの全ての距離を計算していましたが、前処理としてディープラーニングの物体認識を入れることで計算する面積を従来の20%ほどに減らすことで解決しました。

最後のひとつは、目の前の状況を3次元的に把握した上で危険を感知する機能ですね。これは、これからディープラーニングのプラグラミングがきちんと動作するように取り掛かるところです。車や人間はぶつかりそうになった瞬間に動くので、それまでの軌道で動くとは限りません。それを予測していく機能です。ディープラーニングで、その予測をうまく動かすことが最後の大きな壁ですね。現在のデバイスはまだプロトタイプですが、来年中の発売を目指して開発を進めています。

ーーこの製品を作り始めたきっかけを教えてください

三野:「人生の中で遭遇するあらゆる危険から人を守って、楽しく強く生きていくために役に立つ製品」を作ることが会社の設立目的です。僕も今までいろいろものづくりをしてきましたが、今後の人生をかけて作りたいと思える製品とはどんなものかを考えた時に、人の命を救える製品を作ることだという結論に辿り着きました。

今でも交通事故によって世界中で毎日3,500人が命を落としています。世界中で自動車の数は増え続けていますが、自動運転社会になるにはまだ先が長いと思っています。だからこそ今あるテクノロジーを駆使して、車に載せるだけで交通事故を激減させるデバイスを作ろうと思いました、それが今から2年半前ですね。

ーーそこから手がけることになったのですね。運転の際に個人的に困った出来事などはありましたか?

三野:とくにないです。身内が轢かれたとか、そんなストーリーはありません。ただ僕は大型犬のグレートピレニーズを飼っていたので、どこに出かけるにも車は必需品でした。毎日のように運転していたので事故も数多く目撃し、それをどうにかしたいと常に思っていました。

ーーもともとよく運転をされているんですね

三野:はい、結構運転していますね。夏は涼しい長野や軽井沢などにでかけ、海外に行くとレンタカーを借りています。特に製品の開発のなかでよく訪れるサンフランシスコやシリコンバレーのエリアでは車で移動しないととても不便なのです。この製品はさまざまな技術を結集しているので、ディープラーニングやステレオカメラの高い技術を持っている会社、PRビデオを制作している会社、他にはベンチャーキャピタルなどを訪ねてまわっています。

ーーコンペディションや展示にも出展されているのでしょうか?

三野:今年は「IBM SmartCamp」の日本大会で優勝し、日本代表として米国で行われる決勝大会に出場しました。世界中から集ったスタートアップと一緒にプログラムに参加したする経験はとても刺激になりました。

ーーディープラーニング機能でより話題になりそうですね。会社のメンバーは何名ですか?

三野:現在は常勤社員が僕を入れて4名。僕とCTOのエンジニア、デザインをするスタッフ、デザインや試作、経理や総務もしてくれる人が1名ですね。そして他に非常勤のメンバーが5名いて、みんなAIや組み込み、回路設計などのエンジニアです。ほかにも技術系の開発会社と協力して製品を開発しているところです。

ーー今後、作りたいプロダクトはありますか?

三野:現在はこれに集中していますが、次はウェアラブルのデバイスを作りたいと思っています。例えば、それを装着することで事故に遭う確率が減らせるプロダクトですね。ブレスレット型の端末で自分の近くにある車や人を知ることができ、危険予知しやすいものですね。あとは犯罪に遭いにくいようにしたり、万一犯罪にあってもすぐ助けを呼べるようにしたり、そういった機能を搭載したウェアラブルのブレスレット型デバイスが最有力です。

あとは、子供とかお年寄りの居場所が把握するデバイスです。今すでに似たようなデバイスがありますが、現状は電池が数日しか持たなく、月額の通信料が高いという問題があります。僕たちはそれらを全部解決したものを作る用意ができていて、さらに開発したそれぞれのデバイスがつながるように作りたいと思っています。

ーー連動する要素があると今後さまざまなラインナップが出てきそうですね。DMM.make AKIBAを利用するきっかけはどういったことからですか?

三野:きっかけは、「Orphe(オルフェ)」を作っているNo new fork studioの菊川さんがここを利用していたことです。僕はOrpheの初期に試作品製作のサポートメンバーで参加していました。自分が起業するときもこんなところで始めたいと思っていて、そのままここで起業することになりました。菊川さんとはハッカソンで出会ったのがきっかけです。僕は電子部品関係がわからなかったので、逆に得意だったボディの設計を手伝いながら、いろいろと勉強させてもらっていました。

ちなみに、CTOの水野が技術面の指揮をとり、フリーランスのエンジニアや外部の技術会社と連携しながら開発を進めているのですが、彼とはAKIBAの1周年記念パーティで出会ったんです。それがなかったら水野と知り合えなかったし、わからないことがあったらAKIBAの誰かに聞けば解決することが多いので、この場はすごく貴重ですね。

ーーBaseでの事務作業だけでなく、Studioの機材も使っていますか?

三野:結構使っていますよ、筐体作ったりカメラを実装したり。これから液晶をはめ込みますが、配線やはんだ付けは全部Studioで行います。あとはUVプリンターやレーザーカッターを使っています。地味にすごいのが、紙やすりのコーナーですね。試作品をきれいに仕上げるには紙やすりの粗さの種類がたくさん必要なのですが、紙やすりは消耗品なので常に自分で揃えおくのはとても大変なのです。でもここでは、2000番から80番まで12種類の番手(粗さ)の紙やすりが約10cm角でずらっと並んでいていつも補給してくれていて、とても使いやすい。紙やすり環境がすごくいいですね(笑)。

ーー最後に今後の予定を教えてください

三野:毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大級の家電見本市「CES2018」に出展するために現在準備を進めています。世界中から多くのメディア、また業界関係者が集まるCESでのアプローチはとても大事だと考えています。今後も各イベントのへ出展の数を増やし展示のアプローチをいろいろ学んでいき、今後のビジネスに繋げられるようにしたいと思っています。やはり製品をたくさんの人に知ってもらわないと始まらないので。

ーーピレニードライブによって、安心して運転できるドライバーが増える未来が楽しみです。お話ありがとうございました。

DMM.make AKIBAから一言

DMM.make AKIBAのフリーアドレスエリアのどこからか、危険を知らせる信号音が聞こえてくると、あ、三野さんがデモンストレーションをしているんだな、と分かるくらいには、ピレニードライブ慣れ(?)しているAKIBA関係者も多いのではないかと思います。
三野さんの最初の印象は「腕利き職人(エンジニア)の空気感を漂わせつつ、いつも笑顔で柔らかな物腰」そして「プレゼンとデモが丁寧でうまい」ということでした。今回の取材でもとても分かりやすくデモをしていただき、このプロダクトが秘めたポテンシャルについて改めて理解することができました。

おそらく資金調達のフェーズを過ぎ、最近ではフロア内でピレニードライブのアラートを聞く機会も少なくなりましたが、開発が進みメンバーも増えてきて、ついに量産化が見えてきてきたんだなと嬉しく思います。きっとそう遠くない未来に見せていただけるであろう、製品発表での三野さんのプレゼンテーションがとても楽しみです。(編集・境 理恵/田中 佑佳)

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