MAKERS #27 「アーティスト AKI INOMATA」――デジタルテクノロジーを駆使し、生き物のリアルを追求する芸術家

MAKERS #27 「アーティスト AKI INOMATA」――デジタルテクノロジーを駆使し、生き物のリアルを追求する芸術家

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2018/07/25
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・金子亜裕美)

DMM.make AKIBAは、モノづくりするメイカーのためのコワーキングスペースだ。特に、コアな利用者の大半はハードウェアスタートアップだと言っても過言ではない。そんなDMM.make AKIBAのスカラシップの中に、単なるモノづくりを超えた輝きを放つ作品を手掛けるアーティストがいる。

生き物とテクノロジーを組み合わせ、生き物との恊働作業によって作品制作をおこなうという独特のスタイルで、2014年にはYouFab Global Creative Awardsでグランプリを受賞、2018年にはAsian Art Awardで特別賞を受賞するなど、氏の作品は世界的に注目を集めている。新進気鋭のアーティストAKI INOMATA氏に、AKIBAとの出会いやスカラシップのこと、そして今後の展望について、お話を伺った。

(アーティスト AKI INOMATA氏)

<プロフィール>
AKI INOMATA
アーティスト / 多摩美術大学 非常勤講師 / 早稲田大学嘱託研究員

2008年東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。生き物との協働作業によって作品制作をおこなう。主な作品に、3Dプリンタを用いて都市をかたどったヤドカリの殻をつくり実際に引っ越しをさせる「やどかりに『やど』をわたしてみる」、飼犬の毛と作家自身の髪でケープを作ってお互いが着用する「犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう」など。

近年の展覧会に、「Coming of Age」(Sector 2337、シカゴ、2017)、「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」(2016)、「ECO EXPANDED CITY」(WRO Art Center、ヴロツワフ、ポーランド、2016)、「エマージェンシーズ!025 『Inter-Nature Communication』AKI INOMATA」(NTT インターコミュニケーション・センター [ICC]、東京、2015)、「第4回 デジタル・ショック -リアルのファクトリ-」(アンスティチュ・フランセ東京、2015) 、「アルスエレクトロニカ」(リンツ、2014)、などがある。

2017年ACCの招聘でニューヨークに滞在。

――プロフィールを拝見しましたが、2008年に東京藝術大学大学院 先端芸術表現専攻を修了されています。卒業以前からアーティスト活動を始められていたのでしょうか?

AKI:はい、作品制作は学生時代からやっていて、学生中心のグループ展に出したり、小さなギャラリーで企画展に参加させていただいたりしていました。AKI INOMATAとしてのデビューは、大学を卒業した年になります。

2009年に旧フランス大使館で、「No Man's Land展」という展覧会がありそこで展示したのが卒業後、最初の大きな展示でした。

生き物とデジタルファブリケーションを組み合わせる

https://vimeo.com/211145519

(代表作「やどかりに『やど』をわたしてみる」。3Dプリントで制作した透明な「やど」をヤドカリに渡し、ヤドカリが気に入れば引っ越してもらうというプロジェクトだ)

その後、designboomというサイトにヤドカリの作品が掲載されて注目していただき、2014年10月にYouFabで賞をいただいて、活動の幅が大きく広がりました。

――生き物とデジタルファブリケーションを組み合わせるというテーマですが、いつ頃から確立されたのでしょうか。

AKI:学生の頃から、プログラミングや電子工作を使ったメディアアート作品を手掛けていました。当時は都市生活をする中で自然との関係性をどう模索するのか、というようなことをテーマとし、水の波紋を使ってちょっとありえない自然を表現したインタラクティブメディアアートのような作品を作っていました。

プログラムによって水滴を落として水の波紋を作ったのですが、描かれるパターンがシミュレーション通りになってしまうので少し物足りないとも感じるようになり、自分ではコントロールできない生き物との協働制作へのきっかけになりました。

――DMM.make AKIBAとは、どのような接点があったのですか?

AKI:AKIBAのことは2014年のオープン前から聞いていて、オープン後にドロップインで利用していました。その後スカラシップのお話があり、施設を利用させていただいています。

日本にはアーティストの制作を助けるテクニシャンに相談できる環境がない

AKI:欧米の美大や工房にはテクニシャンという職種の方々がいて、その人に制作の相談にいくとアドバイスをしてくれたり、手に負えないものを作ってくれるような体制が整っている所もあります。ですが、日本にはアーティストが直面する技術的な課題をクリアするためのサポートを受けられる環境が整っていません。

3Dプリンターなども、販売のプロモーションのために簡単さを強調しているのだと思いますが、ボタンをポンと押せばすぐに造形できると思っている人が多いです(笑)実際にはエンジニアリングが必要だという事実が隠されてしまっている感じがしています。AKIBAには、実際に使えるようになるために知らなければならない部分を、きちんとケアできるスタッフがいるので、AKIBAを利用することが大きな強みになると思っています。

――確かに日本ではテクニシャンという職種はあまり見かけないかもしれません。国などからはどのような支援があるのでしょうか?

AKI:文化庁などでも、特に外に出ていく活動、海外留学などに対する助成やプログラムがあります。私もACC(Asian Cultural Council:ニューヨークに本部を構える非営利財団)から助成をもらってニューヨークに滞在していましたが、アーティストの課題を直接解決してくれるテクニシャンのような形での支援はあまりないのではと思います。

(海外と比較して、日本には技術的な課題の解決を手助けしてくれるテクニシャンが少ないという)

AKI:例えば油絵をずっと描いていらっしゃる方であれば、その技法を熟知されているので問題ないと思いますが、私のように先に「表現」があって後から「メディア」を選ぶスタイルだと、無限にある技術の中から何をどう選べばいいのかをリサーチするところから始めています。世界的に有名な美術家であるオラファー・エリアソンのように、自分でテクニシャンを沢山雇って大規模なスタジオを運営できるようなアーティストであれば別ですが、そうでない限り技術的なことをサポート、アドバイスをしてもらえるAKIBAのような拠点は非常に重要だと思います。

――若いアーティストの方がスケールアップしていくためには、AKIBAのような場所が必要だということでしょうか。

AKI:一般的なファブ施設は、一般の人に触ってもらおうという視点で機材を揃えられている感じがしますが、私はAKIBAの本気のモノづくりを支援しようというところが気に入っています。これを作ると決めたら絶対実現するという、テックスタッフの気概を感じています。

――テクニシャンという支援が得られないということは、日本のアーティストの方々は自分で頑張ってやる必要があるということですか?

コンセプトや構想にこそ、時間を使いたい

AKI:日本では、努力や頑張ったことが評価されるという価値観があります。それ自体は悪いことではないのですが、例えばすごい物量の作品を自分の手作業で作ったとしても、それはアートとしての評価ポイントになるとは必ずしも限りません。ですが、3Dプリンターを使い始めた2000年頃には、3Dプリントした作品は自分で彫っていないからダメだ、という批判が実際にありました。

私のヤドカリは、内部がスパイラルになっていて、手で彫ることはできません。手では作れなかったものを、3Dプリンターというテクノロジーを使うことで実現できた。手仕事の良さはもちろんありますが、テクノロジーを使うことでしか実現しえない表現もあると、私はポジティブに捉えています。アーティストはコンセプトづくりや考えることにより多くの時間を費やすべきだとも考えています。

――テクノロジーを使うことで、また別の苦労もあるのではないでしょうか。

AKI:そう、そう、そうなんです(笑)3Dプリンターでも、サポート材をどう付ければ良いのかとか、どのようにデータを作ればきれいに仕上がるかとか、いろいろと試行錯誤、工夫するポイントがあります。AKIBAのテックスタッフの方に、機種の選定から使い方までアドバイスを頂いて、さまざまな技術的な課題をクリアしています。

――スカラシップに選ばれた2018年2月以降、制作された作品を教えてください。

スカラシップの中から多くの作品が生まれている

AKI:まず、Asian Art Awardのファイナリスト展に出した作品を作っていました。UVプリンターを使った写真作品で、東日本大震災の前後で福島で採取したアサリの成長過程がどのように違うのかを比べるというものです。アサリの貝殻をカットすると、その断面に年輪のような線が見られますが、これを調べることでアサリがいつどれくらい成長したかがわかります。2月から3 月にかけて、このUVプリントの部分を試行錯誤していました。

Lines—Listening to the Growth Lines of Shellfish ver. 2.0
インスタレーション撮影:加藤健

AKI:次に現美新幹線(注:JR東日本が上越新幹線の越後湯沢~新潟間で運用する新幹線)が2018年3月末にリニューアルしました。その16号車に私の映像作品が5面のマルチディスプレイで上映されていますが、7月末頃から新しい作品に切り替えるため、鋭意制作中です。

あと、11月からThailand Biennale 2018というアートフェスティバルが始まりますが、それに出展する新作の立体作品の3DスキャンをAKIBAでやっています。

――同時にいくつもの制作を進められているのですね。AKIBAの工房で一番よく使う機材は何ですか?

AKI:Freeform(注:3DシステムズのGeomagic Freeform 3Dエンジニアリングツール)とレーザーカッターを良く使います。ヤドカリもFreeformでデータを作っていますし、レーザーカッターはアクリルをカットして、作品を展示するケースとかを作っています。彫刻のようなこともできるので、変わった素材を使って作品にしたりとか。

――AKIBAがオープンするまでは、どのように制作されていましたか?

AKI:以前は、東京都立産業技術研究センターの機材などを使っていました。どの機材をどのように使うのかが決まっていれば良いのですが、どのように作るのかわかっていないときは、制作のアドバイスはもらえないので困りました。

――AKIBAのテックスタッフのサポートで、制作の幅が広がるようなことはありますか?

アーティストを助けるテクニシャンとしてのAKIBA

AKI:私もデジタルファブリケーションについてはリサーチしているのですが、テックスタッフの方はより豊富な知見を持っていて、技術的な課題は小さいところから大きなところまで改善されています。テックスタッフの渡邉さんや村田さん、坂庭さんなど皆さんに助けていただいています。

――そこにテックスタッフの渡邉君がいるので、インタビューに加わってもらいましょう。

渡邉:AKIさんからの相談は、細かいことが多いですね。3Dデータの扱いとか。ご自分で解決できなかったことを相談いただいていて、私で対応できない内容であれば村田さんや坂庭さんにもサポートしてもらっています。

アーティストさんなので、いわゆる普通のベンチャーとかスタートアップの会員さんとはやりたいことが少し違います。解決したい課題が具体的で、これをこうしたいというのがはっきりしています。例えば「この展示物をこうしなきゃいけないからどうしようか」など、相談事が明確なので、対応しやすいです。

(AKIBAテックスタッフの渡邉(右)を交えて)

AKI:UVプリンターでアクリル板に画像を刷って、両面から見られるよう2枚刷って貼り合せようとしたことがあります。その時、画像を刷って白を刷ってまた画像を刷れば両面から見られるよとアドバイスをいただいて、作品がブラッシュアップされたことがあります。あと、ウレタン状のものを3Dプリントしようとしていたら、3Dプリントよりもスポンジを切削したほうが良いのでは、と教えていただいたこともあります。

テックスタッフの知見によって作品の幅が広がることも

AKI:作品のプランがあったとして、それをテクニカルに解決する方法はいくつもあると思います。私は、その引き出しを2個くらいしか見つけられなかったのに、AKIBAに来ると引き出しが5個とか10個とか出て来たりして。では、もっとこういう事もできるのではと、作品のプランがどんどん広がっていったりします。

渡邉:作品の締め切りなど納期が厳しいときは、逆に他の専門業者さんを紹介することもあります。無理にこちらで受けるよりも、外のほうが良い場合は、そうした橋渡しができるのもメリットのひとつです。他のお客様では、やり方がわからないまま自分で失敗しているケースもあるので、事前に相談していただければサポートもやりやすいです。

AKI:放っておくと山のような失敗作ができちゃいますから(笑)何とかしてくれる工房に助けられています。私のヤドカリも、AKIBAの工房にあるFreeformを使って、ライフワークのように少しずつ作っています。

渡邉:今では3Dデータも、かなり扱えるようになっていますね。

(ヤドカリの3DデータはAKIBAにあるFreeformで加工している)

――CADや3Dモデルなど、どのように学ばれているのですか?

AKI:独学だったり、テックスタッフの方に教えていただいたり、ですね。3Dデータは、最初は3DS Maxから入りました。私の制作プロセスは、先に表現したいものがあって、それを実現するために技術やメディアをリサーチして、これが自分の表現にマッチしているからそれを覚えて作る、というスタイルです。

表現手段として必要な技術を学ぶというスタイル

渡邉:エンジニアの方はプログラミングを体系的に学ばれると思いますが、AKIさんの場合は、特定のソフトのこの機能、というように必要なものだけを覚えていくので、アーティストの方の技術習得、学び方の姿勢は独特なものがありますね。

AKI:テックスタッフの方は、エンジニアリングの基礎があると思います。技術の基礎や安全対策上の問題とか、エンジニアの視点からアドバイスをいただけるので、とても助かっています。

――AKIBAもアーティストさんにはスカラシップを通して長期的にサポートすることを考えています。今後どのように作品を制作されていく予定ですか?

さらにスケールアップした作品に挑戦したい

AKI:ヤドカリもサイズ的に大きな作品ではありませんし、自分の持っている予算やスキルで作れるものを作っていたところはあります。今後は、もう少しスケールアップしたいなと思っていますが、そうすると自力では無理なところも出てくると思いますので、どうやって協業していけるか相談させていただきたいと思っています。

渡邉:今は困っている点をピンポイントでサポートしている感じですが、今後規模が大きくなれば、例えばテックスタッフが一緒に制作するようなケースもあるかもしれませんね。

AKI:直近の展覧会向けの制作内容は決まっていますが、長期的には今までやっていなかったロボットとか、これまでとは違う作品を制作してみたい気もしています。出会いや運もあると思いますが、一緒にコラボレーションできる方がいればと思っています。

https://youtu.be/N-BuqLy4siE

(DMM.make AKIBAで撮影された、フランスのケーブルテレビNolife ”toco toco” による紹介動画)

AKIBAから一言

DMM.make scholarshipの応募をいただいたいとき、25歳以下という条件をクリアしていない、ハードウェア開発ではないアーティストの方で少々迷いがあったのですが、とにかく会って決めよう!ということになりました。DMM.make AKIBAはハードウェアスタートアップ支援を目的に設立された施設ですが、誰も見たことのない世界、新しい価値観を創り出そうとしている人であれば、ジャンルを問わず応援したい。そしてお会いした第一印象は「否応無しに美人・・・!」だったのですが、人の心を掴む作品の素晴らしさ、生き物との恊働作業という独自のスタイル、新しい表現に挑戦し続ける真摯な姿勢に計り知れないポテンシャルを感じたこと、とにかくDMM.make AKIBAの機材とテックスタッフの存在を本当に必要としていることが伝わってきたことが決め手となり、DMM.make scholarshipを適用させていただくことになりました。そしてその後、どんなに注目を集めようと周囲の支えに対して感謝の気持ちを忘れない、謙虚なお人柄に感動させられることになるのでした。これからもAKIさんの制作活動の支えの一部になっていければと思います。

[ DMM.make AKIBAについて]
株式会社DMM.comが運営する「DMM.make AKIBA」は、ハードウェア開発・試作に必要な機材を取り揃えた「Studio」、シェアオフィスやイベントスペースなどビジネスの拠点として利用できる「Base」で構成された、ハードウェア開発をトータルでサポートする総合型のモノづくり施設です。

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