MAKERS #28 「株式会社 Piezo Sonic代表取締役 多田 興平」――独自技術の超音波モーターを武器に「ロボット博士」を目指す

MAKERS #28 「株式会社 Piezo Sonic代表取締役 多田 興平」――独自技術の超音波モーターを武器に「ロボット博士」を目指す

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2018/08/30
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・金子亜裕美)

超音波モーターというモーターをご存じだろうか?磁石とコイルを流れる電流によって生じるローレンツ力で回る一般的なモーターとは異なり、圧電セラミックの歪みを回転力に変える特殊なモーターで、日本のエンジニアが基本原理を発明した純国産技術だという。
今回は、その超音波モーターの研究開発に学生時代から数えて20年以上携わり、超音波モーターの第一人者とも呼ばれている株式会社 Piezo Sonic代表取締役の多田興平氏にお話を伺った。

(株式会社 Piezo Sonic代表取締役 多田興平氏)

<プロフィール>
多田 興平(ただ こうへい)
株式会社 Piezo Sonic代表取締役

1975年、神奈川県生まれ。中央大学大学院理工学研究科卒。中央大学ではJAXAとの共同研究として宇宙探査機用モータの開発に携わる。その後10年間、共同研究先のモータメーカで超音波モータの開発に従事。 ケースレス超音波モータや中空型超音波モータ、次世代のギアード超音波モータ、駆動回路の設計、開発、製造に携わる。2008年、同社 技術・開発部 部長、2016年、取締役 技術・開発部 部長の任を経て、2017年に独立。「人と協働でき、生活を支えるロボット」を作り上げることを理念とする株式会社、Piezo Sonic を設立。機械設計、回路設計、センサやマイコンに精通し、自社製品の開発だけでなく、お客様の課題解決を行う実践型コンサルティングパートナーとして活動中。

――超音波モーターはかなり特殊なモーターとのことですが、どのようなきっかけで関わるようになったのでしょうか?

JAXAの共同研究員時代に超音波モーターと出会う

多田:Piezo Sonicの設立は2017年12月です。大学4年生のとき、ロボット系の研究室に所属していましたが、そこでJAXAの共同研究員になって、月面探査ロボットを作るプロジェクトに参加しました。この月面探査ロボットには、消費電力が少なく、パワーがあって軽量という特徴を備えた超音波モーターが適していることがわかり、超音波モーターを開発したエンジニアに出会いました。その方は指田年生さんという方で、超音波モーターの生みの親であり、私が師匠と仰ぐ人です。
大学院での就職活動でどの道に進もうかといろいろ考えましたが、指田氏からのお誘いもあり、超音波モータメーカに就職しました。そして3年目で技術部長になり、指田氏から超音波モーターの技術開発を任され、指田氏の技術を引き継ぎました。指田氏から15年以上技術指導を受けることができたことは、私にとって非常に大きな財産です。

――Piezo Sonicを設立した経緯を教えていただけますか?

子どもの頃から「ロボット博士」に憧れていた

多田:今となっては笑い話ですが、大学院で就職活動をしていたとき、実はロボット博士という職業がないことを知り、愕然としました(笑)

(ロボット博士という職業があると思っていたと笑う多田氏)

――鉄腕アトムのお茶の水博士みたいな?(笑)
多田:そういう人たちがいると信じて疑っていませんでした(笑)モーターのエンジニアとしてキャリアを積んできましたが、僕は元々ロボットが作りたいという夢があって、その夢
は今でも持ち続けています。

前職はモーターメーカーなので、モーターの周辺装置などアプリケーション部分については、ほぼノータッチでした。そこで、自分が研究してきた超音波モーターをロボット技術開発に適用することを狙い、株式会社T.S.D.を2013年に設立しました。

T.S.D.では、モーターの制御部分やその応用製品などを手掛け、会社運営なども学ぶことができましたが、まだまだロボットメーカーというよりはモーターメーカーの域にありました。そこで、超音波モーターを使ったロボットをきちんとプロデュースできる会社をということで、人と共に働き、生活を支えるロボットを作り上げることを理念とし、Piezo Sonicを2017年12月に設立しました。

――ロボット博士になりたい、自分の手でロボットを作りたいという想いと、モーターエンジニアとしてやってきた強みを重ねあわせて起業したということですね。超音波モーターにはどのような特徴があるのでしょうか?

多田:超音波モーターは周波数として超音波域の電圧を圧電素子に印加し、その圧電素子の歪みを利用して回転力を得ていて、一般のモーターのように磁石やコイルを使わない特殊なモーターです。磁石やコイルを使わないため、医療機器のMRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)の中でも正常に作動して、MRIの撮像結果に影響を及ぼさない唯一のモーターです。

超音波モーターを用いることで、MRIの中でモーターを使った器具が使えるようになれば、例えば撮影中に患者の身体を押したりして、より鮮明な映像を得られるようになるかもしれません。今はこの課題を解決するため、超音波モーターを軸としてMRIで使えるような機器の開発に取り組んでいます。

(独自の技術が詰まっているPiezo Sonic製超音波モーター)

――優れた特徴を持っているモーターとのことですが、ケースも普通のネジ止めですし、他の会社に真似されたりしないのでしょうか?

他の追従を許さない独自の技術による超音波モーター

多田:この回転型超音波モーターは、内部構造や使っている材料など難しいポイントが多く、駆動原理に摩擦力を使っているため、開発のためには少なくとも機構、材料、摩擦、増幅回路の4つの分野の知識をあわせもつ必要があります。
原理や仕組みをきっちりと解説したような本もありませんし、技術やノウハウが知られないようにと根幹に関わるような部分は既存の超音波メーカは特許にすら出しません。こうして技術、経験やノウハウを守っていますから、例え分解したとしても、どんな材料をどこで買うのか、どのように作るのか、わかる人は世界でも数人しかいないと思います。

超音波モーターは、小型で非常にトルクが高く、動作音が静かなモーターなので、ロボットにも適しています。特に医療や介護の現場などで患者さんを支えたり抱えたりするロボットから大きな音がすれば、恐怖感を与えてしまいます。そのため、ロボットにとって静音性はとても重要です。

また、DCモーターは電圧を印加して制御信号を与えないと静止することができず、軸がグルグルと動いてしまいます。ところが超音波モーターは、摩擦を使って駆動するので、電圧や信号を加えなくてもほぼ最大トルクで静止できます。一般的なDCモーターのおよそ10倍のトルクが出せますし、ロボットが何かを持ち上げているときや、患者さんを抱えているときに、何らかの原因で電源が切れてしまったとしても、通常のモーターのようにアームがだらりと下がらず、そのまま支えていられるので、より安全だといえるでしょう。

(超音波モーターは、特に静音性や保持力という点で、人に近い場所で使われるロボットに適しているという)

――とても高度なものづくりが必要とのことですが、なぜDMM.make AKIBAを利用するようになったのですか?

機材を使いこなせるテックスタッフもAKIBAの魅力

多田:AKIBAがオープンしたときに、すぐにユーザー登録をしました。こういう施設が身近になるということにワクワク感がありました。実際に利用してみると、AKIBAの10Fに様々な機器があって、ここだけですべて揃うのがありがたいです。それに単なるコワーキングスペースではなく、テックスタッフからのアドバイスを得ながら、モノづくりができるのも利点です。

Piezo Sonicは、社内に製造設備を持たないファブレスメーカーですが、設計やデザイン、初期試作は自社で行います。そうした時にAKIBAのスタッフさんからアドバイスをいただけるので、とても助かっています。先日も超音波モーターを加工するための治具をAKIBAにあるレーザーカッターで作っていたのですが、テックスタッフに相談し、手伝ってもらいながら進められました。多くのファブ施設では機器があっても設定などすべて全部自分だけでやらなければなりませんが、AKIBAであれば、さらっと手伝ってもらえます。機材があるだけでなく、機材を使いこなせる人がいるのがAKIBAの良さだと思っています。

――Piezo Sonicとして進めている事業を教えてください。

自律移動型ロボットの開発を進める

多田:ロボット事業としては、大田区が推進している次世代産業分野クラスター形成事業のひとつ小型自律走行移動体の開発プロジェクトのリーダー企業として採択され、市街地や倉庫内での物品・食材移動を行う自律移動型ロボットを開発しています。これ以外に、十勝の大規模農家さんのトラクターの運用状況モニターセンサーを作っています。

また、2018年7月12日~16日に開催された第34回国際農業機械展in帯広に大田区で進めている搬送用自律型ロボットの農場バージョンイメージのものを展示しました。これは十勝の農家さんから、農場がすごく広いので種をまく前に土壌の成分に何が不足しているのか自動で調べることはできないか、という話があり、自律的に移動できるロボットで実現できるのではと考えたものです。また、ジャガイモや小麦が生育する過程で、葉っぱの裏に虫がいるかどうかをカメラで見たいという要件があり、葉っぱを裏返すためのロボットアームを装備するという機能を搭載しました。ここでも、AKIBAの皆さんにご協力いただいて10日程度という短期間で試作品を作り上げることができました。


――今後予定と将来のビジョンなどを教えてください。

多田: Maker Faire Tokyo 2018では、大田区内の企業としてブースに展示しました。いま開発中の超音波モーターは、2018年8月下旬にサンプル出荷を始め、9月から一般販売を始める予定です。超音波モーターは精度が高いので、医療機器だけでなく半導体製造装置にも使えるということで、大手企業からも問い合わせをいただいています。

(大田区内のファブレスメーカーとして、量産フェーズでは切削加工や板金加工メーカー、3Dプリントメーカーなどと協力しながら進めている)

多田:ロボット関係では大田区とのプロジェクトが中心で、2019年2月に大田区の産業プラザPiOで展示会を開催することが決まっています。将来的には羽田空港内の施設で搬送や作業支援をするための移動型ロボットを作りたいと考えています。2020年には利用者とコミュニケーションができるようなロボットを実現したいと思っています。

高齢化社会で必要とされる介助ロボットの開発を目指す

多田:僕が作りたいロボットは産業用ではなく、人とコミュニケーションできる介助ロボットです。日本ではこれから高齢の方が増え、自由に動きたくても動けない方、病院の中であまり人と話す機会がなく、コミュニケーションしなくなる方がどんどん増えていくと思います。

介助が必要な方で、例えばちょっとトイレに行きたいときに、いつも家族やヘルパーさんに頼みたくないと思われている方も多いでしょう。介助用の移動体ロボットがあれば、その肩につかまる感じで動いたり、ベッドから起き上がるときにロボットアームで少しだけ手助けしたりと、利用者が自分の筋力を使いながら、ロボットに少しサポートしてもらって生活できます。家族も要介助の方にずっと付き添うこともなく、ロボットに任せて家の外に出られるから、家族も生活の質が維持できる。これが僕の想い描いてきたロボット博士の仕事に最も近いものだと思っています。

ロボット単体だけですべて実現するのは難しいでしょうから、関連するサービスや介助システム全体を考える必要があると思っています。現状の移動体ロボットも、次は市街地を走行できるデリバリーロボットへと発展できるでしょう。その次は、人とコミュニケーションするロボットになるでしょう。そうなると、静粛性の高い超音波モーターが必要になります。今は様々なプロジェクトを進めていますが、実は僕の中では全部つながっていて、2020年にはロボットアームを備えてコミュニケーション機能がある移動体ロボットを超音波モーターを使って実現したいと考えています。

AKIBAから一言

いつも笑顔で紳士的な多田さん。長くご利用いただいている会員さんで、AKIBAがオープンしてすぐの頃からと記憶しています。新生工業と株式会社T.S.D.でTeamroomに入居されていました。他のスタートアップとは少し異なる立ち位置のモノづくり企業さんでしたので、なかなか根掘り葉掘り聞く機会も少なく、顔を合わせればご挨拶したり雑談させていただく間柄でした。2017年に独立して株式会社Piezo Sonicを設立されたのち、今年の夏に国際農業機械展に展示する試作品についてご相談いただいたりしているうちに、多田さんが手掛ける事業やプロダクトについてお伺いする機会が増えました。改めて多田さんを深堀りしよう!ということで今回のインタビューをお願いしましたが、何より「ロボット博士という職業はない」という事実に衝撃を受けました・・・。お茶の水博士はいない、という現実を受けれつつ
・アトムを作り出したのは、事故で息子を亡くしてしまった科学省長官の天馬博士
・息子を想い作ったものの、成長しないアトムをロボットサーカスに売り飛ばした
・その後、見世物として使われているアトムを不憫に思い、引き取ったのがお茶の水博士
という設定を思い出して、少々切なくなりました。多田さんがロボット博士として、ロボットと人間が共生する幸せな未来を実現してくださることを願っています。

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