MAKERS #29 「株式会社no new folk studio 共同創業者兼CTO 金井隆晴――急成長スタートアップを牽引するエンジニアが目指すもの」

MAKERS #29 「株式会社no new folk studio 共同創業者兼CTO 金井隆晴――急成長スタートアップを牽引するエンジニアが目指すもの」

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2018/09/26
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・金子亜裕美)

FACTで「DMM.make AKIBAから羽ばたいたスタートアップ」として紹介したスタートアップのひとつ、株式会社no new folk studio(以下nnf)。「日常を表現にする」をミッションとし、約100個のフルカラーLEDや9軸センサーなどを搭載してリアルタイムに足の動きを解析して光や音に変換するスマートフットウェア「Orphe(オルフェ)」を軸に、アーティストへの演出協力、映像や音声のコンテンツ制作などを行っている。
そしてCES 2018では、新たにAIを搭載したスマートフットウエアのプラットフォーム「ORPHE TRACK(オルフェトラック)」を発表、その後大手スポーツシューズメーカーのアシックスと共同でのスマートフットウェア開発を発表するなど、その勢いは留まるところを知らない。
今回は、急成長を続けるnnfの技術の中心であるCTOの金井氏に、nnfが歩んできた道と、目指している場所についてお話を伺った。

(株式会社no new folk studio 共同創業者兼CTO 金井隆晴氏。手にしているのは2016年に販売開始したOrphe)

<プロフィール>
金井 隆晴(かない たかはる)
株式会社no new folk studio 共同創業者兼CTO

1987年生まれ。首都大学東京大学院システムデザイン研究科にて芸術工学を専攻。
その後、シャープ株式会社にて、UXデザイナー、新規事業製品の立ち上げを担当。
2014年に(株)no new folk studioを共同設立。スマートフットウェア“Orphe”の設計、デザイン、プロダクトマネージメントを手がける。

――「Orphe」は2015年5月にIndiegogoでクラウドファンディングを成功させ、2016年9月に正式発売となりました。今では会社も大きく成長されたと思います。

パフォーマー向けスマートシューズ「Orphe」のヒット

金井氏:こちらの最初のバージョンのOrphe(オルフェ)は、一般販売開始からちょうど2年が経ちました。パフォーマーの表現を拡張するというコンセプトの製品でして、金沢21世紀美術館で2016年に開催した企画展で、Orpheを履いたダンサーが真夜中の美術館を縦横無尽に駆け巡る映像作品《Motion-Score》を展示し、鑑賞後にミュージアムショップでOrpheが購入できるという試みもやりました。
その後Orpheは、AKB48がユニバーサルスタジオジャパンの公演で履いたり、水曜日のカンパネラのコムアイさんが使ってパフォーマンスをしてくれたり、アーティストとのコラボを積極的に進めました。
また、ユニコーンのABEDONさんがステージでOrpheを履いてくれていると聞き、お話を聞いたら個人的に購入していただいたことが分かって。普通に量産品として出した製品のファンになっていただき、使っていただけたことがすごくうれしかったです。これが量産品の醍醐味だと思いました。
あと、ジャスティン・ビーバーが出演したソフトバンクのCMで、Orpheを履いてくれました。それがポスターになって、JR各駅に広告として貼りだされたりしたこともありました。

――ジャスティン・ビーバーが履くとか、AKIBAでプロトタイプを作っていた頃にはとても想像できなかったような形で露出していったわけですね。ビジネスがスケールするにつれ、会社の規模も拡大されたと思いますが、どのようなメンバーが増えたのでしょうか?

(初期メンバーは同じ大学で同じ専攻を学んでいた顔なじみだという)

金井氏:nnfの初期メンバーは、私もふくめて首都大学東京のインダストリアルアートコースでテクノロジー×表現を学んできたという、後輩や同級生など全員顔なじみでした。創業当時は、開発がスケジュールがタイトかつ、学生時代のようなノリもあって、平日休日の見境がない働き方をしていました(笑)。
今では正社員だけでも7人、協業先含めるとかなりの人数になっていますが、量産を経験して会社がきちんとした形になってくると、その後に入社してくる人たちからは、より会社としてきちんとしていることも求めてられていると感じます。

会社の方向性とメンバーのやりたいことが同じ

――nnfが他のスタートアップと少し違う点として、メンバーの定着率が高いと伺っています。途中参加したメンバーは、どのような方が多いのでしょうか?

金井氏:人材としては、この事業を楽しみながら出来る人ということに尽きますね。スキルやキャリアは様々ですが、特に表現に関わってきた人が多いです。音大卒で作曲や音の録音ができて、TV業界で音声をプロとしてやっていたメンバーとか、ブレイクダンスをやっているエンジニアは、アプリを製作する一方で、ダンスのコミュニティに向けて発信してくれたりとか。
弊社のミッションは「日常を表現にする」というもので、日々を楽しくさせるという切り口が核になっています。それが楽しいと思えるメンバーを増やしていくのも、私の仕事だと思っています。

――会社が大きくなるに伴って、以前よりも難しくなったことはありますか?
金井氏:以前は気心が知れたメンバーだけだったということもありますが、様々なことをきちんと言語化しないと仕事がスムーズに進まない局面が増えました。

(量産を経験したことで、会社のあり方が変わってくるのは当然だという金井氏)

金井氏:Orpheのときは、何が正解なのか誰にもわからないよねという感じで、作りながら仕様を決めていましたが、今では開発規模も大きくなり仕様もできるだけ早く決めておかないと摩擦が発生しやすくなってきました。もちろんそれが普通で、それで良いと思います。こうしたマインドセットの変化を意識して進めていくことも、自分に求められていることだと思っています。

――Orphe に続く新製品について、お話いただけますか?次期型の開発というのは、いつ頃から取り組まれていたのでしょうか?

金井氏:Orpheの次のバージョンについては、2016年秋ごろから考えていて、1年間をかけて、スマートフットウェアを軸足としながら、いろいろな展開を試してきました。
2017年は本当にいろいろなことをやっていて、第20回文化庁メディア芸術祭ではエンターテインメント部門にて入選し、作品展期間にはルミネ新宿でインスタレーションを展示しました。。
また、大手自動車部品メーカーのデンソーと共同で、暮らしの未来を「歩く」ことから考える「アルカル」プロジェクトにも取り組みました。ここでは「#アルカルツアーズ」というお散歩体験アプリや、専用サンダル「#アルカルサンダル」を制作しています。ほかにもIoT ALGYAN(あるじゃん)と組んで、Orpheを使ったアプリの増築みたいなハッカソンもやりました。いろいろやりながら、少しずつ次のフラグシップ像を詰めていった感じですね。

次なるフラッグシップ「ORPHE TRACK」の開発へ

――これがその「ORPHE TRACK」ですね。

金井氏:こちらは2018年1月のCESで発表したときのプロトタイプシューズになります。
ORPHE TRACKはすべての靴をAI搭載のIoTシューズにするためのプラットフォームで、交換可能なセンサーモジュール(ORPHE CORE)、対応シューズ、アプリケーションによって構成されます。ORPHE CORE 内部に搭載されるAIは、足の動きのデータから分析や機械学習を行い、ランニングフォームのコーチングや健康状態の記録、アドバイスをします。

(センサーを搭載したコアユニットが光るORPHE TRACK対応シューズ)

プラットフォームとしては、機能性汎用性など多くのアイデアを詰め込んだものにしないと、各シューズメーカーに使ってもらえません。データの正確性という点でも、大学にあるような高価な設備機器で測定したデータと、ORPHE TRACKを使って出した値がどれくらい相関があるのか、どれくらいの確度なのか、きちんと調べる必要があります。

スマートフットウェアならではの難しさがある

――スポーツシューズにいれるセンサーシステムとなると、センサーや電子回路の設計だけでなく、重量や履きやすさもポイントになりそうです。

(着用者の負担にならないよう、電子ユニットの軽量化も大切だという)

金井氏:技術的な点については、初代から引き続き大変苦労しています(笑) Orphe ではソール全体を光らせることを優先して素材を選んだ結果、重くなっていました。ORPHE TRACKではシューズの軽量化やコストダウンなど、より普及しやすくなる改良を行います。
また、弊社のフラグシップとなるシューズの開発もする一方で、様々なシューズメーカーがORPHE TRACKに対応したシューズを作れるようにすることでスマートフットウェアを履くことが当たり前になる未来を目指しています。

――大手シューズメーカーのアシックスと組まれたというリリースが出ています。

金井氏:はい、アシックスと共同でスマートフットウェアを開発し、三菱UFJ信託銀行が提供する「情報信託プラットフォーム」の実証実験に第一弾として参加します。これは、日々のいろいろな行動を個人情報と紐づけることで「情報銀行」に運用してもらうというものです。スマートフットウェアを通じて取得したデータ、例えば1日にこれくらい歩いたというデータを情報銀行に集約、他のデータと合わせて分析した情報を提供することで第三者企業からリワードが得られる、お金ではなく情報を資産価値として扱うという仕組みになります。
最大1000人規模の実験となる予定で、スマートフットウェアを使った社会実験では、これまでにない規模の取り組みになります。

――nnfは最初から継続してAKIBAに入居していただいています。

金井氏:入居した当時、僕と菊川(nnf共同創業者兼CEO 菊川 裕也氏 )と二人で、スモークを焚いた中でOrpheが光ったらどう見えるかという話になって、スモークマシンを持ってきて実験していたら、AKIBAのビルの火災報知器が作動して警備員さんがかけつけて、青くなったことがありました。あのときは本当にご迷惑をおかけしました。

――それはなかなかの武勇伝ですね(笑)他のスタートアップは会社が大きくなるとオフィスを移転することもありますが、nnfはずっとAKIBAにいてくださっていますね。

(プロトタイピングから性能試験、そしてプレゼンの場まで、AKIBAにある設備を十二分に活用していると語る金井氏)

金井氏:AKIBAの環境が便利すぎるんですよね。アクセスもいいし、製品の試作や試験から、投資家向けのプレゼンまですべてに対応できる施設ですから。

AKIBAをとことん使い倒す

金井氏:確かに、Orphe を開発していた頃に比べると、ゼロからスクラッチしてプロトタイピングするようなことは減りました。今では主に試験や強度検証で、10Fの設備を使っています。テックスタッフの方と一緒に、どの試験機でどうやって測るとスマートにいくかなとか、相談しながらやっています。
あとは、ジャッジルームが役に立っています。ORPHE TRACKのコンテンツで、トレッドミルに乗って大型スクリーンの前で走ることで、臨場感のあるランニング体験ができる「ORPHE TRIP(オルフェトリップ)」というものがあります。ジャッジルームを使えば、照明や音響を全部コントロールして、中央にトレッドミルを置いて大画面を見ながら走るという臨場感あふれるデモを、投資家や協業先に体験してもらうことができます。

――そういえば、ミニジャッジルームでは菊川さんがポッドキャストを収録されていますね。

金井氏:菊川とEmpath Inc. CSOの山崎はずむ氏がパーソナリティになり、スタートアップ関連のゲストを招いて、「THE STARTUP PODCAST」というタイトルのポッドキャストを作っています。
社内のメンバーだけで映像撮影や音声収録、編集から配信を行うスキルが揃っているので、AKIBAの中で番組がすべて制作されていると言えます。

――誰よりもAKIBAの使い倒し方を知っている感じですね(笑)もし「AKIBAマスター」という称号があれば、金井さんに差し上げたいです。最後に、今後の方向性をお聞かせください。

(武勇伝にも事欠かない金井氏。他にも伝説がありそう)

楽しいものをきちんと真面目に作りたい

金井氏:センシングやAIなど色々なことを幅広くやっていると、会社のミッションである「日常を表現する」から外れているのではないかと思われることもありますが、実は全然ずれていません。初代のOrpheの「見た目で美しい、楽しい」という体験はとても分かり易かったと思いますが、これからは、「高度な計測や、精度の上で成り立つ気持ちの良さ、楽しさ」を目指したいと思っています。ものすごく真面目に楽しいものを作り込むみたいなことを、やっていきたいですね。

AKIBAから一言

no new folk studioと言えば、DMM.make AKIBAの黎明期より共に成長したスタートアップの代表格。物心ついた頃から傍にいる幼馴染のような存在であるnnfのCTO金井さんとの思い出は、一言では語りつくせません。DMM.make AKIBAの機能を史上最も使いこなした人、と言っても過言ではないでしょう。スモークを焚いて警備員さんが駆けつけた以外にも、「寝具を用いての睡眠はご遠慮下さい」の張り紙の由来となるなど、金井さんに付与された「AKIBAマスター」の称号(※非公式)はきっと近い将来、殿堂入りすることでしょう。すべてを包み込む柔らかなオーラでAKIBAの人々を癒す金井さんには、「歩くヒーリングスポット」という称号も差し上げたいです。

有名アーティスとのコラボレーションや有名企業のCM起用や有名百貨店での予約販売、それに伴う多数のメディア露出、その次の展開にいたるまで華々しい活躍を続けるnnfですが、その実、地に足のついたチームワークで粛々と仕事に取り組んでいる印象です。nnfはメンバーの入れ替わりがほとんど無くて驚かされますが、CEOとCTOが喧嘩をしたことがないらしい、というスタートアップらしからぬエピソードも驚愕です。nnfには、一度ジョインしたら抜け出せない底なし沼のような魅力があるのかもしれません・・・。

そんなno new folk studioは現在メンバー募集中とのことです!ぜひご応募ください。
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