MAKERS #30 「株式会社LINICA可視科学分室(カシカガク)」――素粒子から人工衛星まで、難解なサイエンスを「可視化」するチーム

MAKERS #30 「株式会社LINICA可視科学分室(カシカガク)」――素粒子から人工衛星まで、難解なサイエンスを「可視化」するチーム

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2018/10/17
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・金子亜裕美)

DMM.make AKIBAのTeam Roomに入居する株式会社LINICA可視科学分室(カシカガク)は、最先端の科学技術の結晶である新型ロケットや未来の火星探査の様子を描いたCG、ノーベル物理学受賞者を生み出した最先端の実験装置のイメージ映像など、まだ世の中にはないものや目には見えないものをリアルに描き出すエンジニア集団だ。
JAXAが2018年9月に公開したばかりの「革新的衛星技術実証1号機/イプシロンロケット4号機」の模型も、カシカガクがAKIBAの10Fにある機材を使って制作したものだ。
さまざまな「見えない何か」を「見える何か」にあらゆる手段で「可視化」することを得意とするカシカガクのメンバー、ディレクター/フォトグラファー森田大介氏、CGエンジニア宮崎剛氏、CG/ビジュアライゼーションエンジニアHoo Kar Chun氏に、お話を伺った。

株式会社LINICA可視科学分室 森田大介氏(左)Hoo Kar Chun氏(中)宮崎剛氏(右)

<プロフィール>
森田 大介
1992〜2000年フリーカメラマン・デザイナとして雑誌書籍等の制作に関わる。2000〜2003年ネット通販の釣具屋を経営。2004〜2008年webプランナ。2007年より旧マックグラフィックアーツにてディレクタ勤務。2018年4月にカシカガク分室の立ち上げ。

宮﨑 剛
1994年 日本デザイナー学院グラフィックデザイン科卒業 その後松戸の呉服店に勤務
デザイン会社に転職後、ご縁あって宇宙関係のCGを手がける。2018年4月 株式会社リニカ(本社市ヶ谷)に再就職 カシカガク分室をスタートし今に至る。

HOO KAR CHUN
マレーシア出身 2007年日本に留学 2011年 デジタルアーツ東京卒業
デザイン会社に就職、宮﨑と宇宙関係のCGを手がける。2018年4月 株式会社リニカ(本社市ヶ谷)に再就職 カシカガク分室に勤務し今に至る。

――カシカガクは、どのような経緯で発足したチームですか?

母体のWeb制作会社から、サイエンス特化チームとして分室化

森田氏:もともと所属していたデザイン会社の株式会社マックグラフィックアーツ(MGA:2018年10月1日に「株式会社LINICA」へ社名変更)から、サイエンス特化チームとして2018年4月に分室化しました。宮崎は別の会社でCGをやっていたのですが、仕事を通して知り合い、一緒に仕事をする機会が増えてきました。MGAはWeb制作がメインでしたから、映像やサイエンス系の仕事が増えるにつれ、動きやすいように場所を変えて集まろうと思い、この3人で新しい分室を作りました。

――AKIBAに入居された理由はなんでしょうか?

森田氏:入居している人達の関係性がフラットで、横のつながりができそうな雰囲気が良いと思いました。それに超高細密な模型の制作をしていましたので、10Fの機材が利用できるところですね。

AKIBAの魅力のひとつは、入居者のフラットな関係性だと語る森田氏。趣味は「ムササビの生態研究」とのこと

宮崎氏:最初にツアーで館内を案内していただき、10Fにある機材が素晴らしくて、それにオフィスもオシャレな感じでこんなところで仕事ができるならいいなと(笑)Team Roomが空いたら声をかけますと言われて、結局7カ月ほど待って入居しました。

工房にあるコンベンショナルな工具からデジタルファブリケーションまで使いこなす

――10Fでは主にどの機材を利用されていますか?
森田氏:機材を使うのは、主に模型の制作のためです。ちょっと使いたいなと思ったときにすぐに使えるのが良いですね。僕はUVプリンターをよく使っています。

宮崎氏:僕はレーザーカッターを使っています。あとは地味な機械ですが、ボール盤とかベルトサンダーとか。大きくてとても家には置けないような機材が自由に使えるのが良いところですね。広いスペースがあるし、ヤスリも使いたい放題だし(笑)

宮崎氏が制作しているMASCOTランダー。小惑星「りゅうぐう」へ着陸した観測機を原寸大で再現している

この模型もレーザーカッターを使って、自分の「趣味」として作っています。これは「はやぶさ2」に搭載された「MASCOTランダー」の原寸模型です。図面などは公開されていませんから、報道発表された写真から寸法を割り出して、2~3日でここまで制作しました。

――報道写真から部品のデータを起こして短期間で制作とか、もはや趣味の領域を超えていますね(笑)

宮崎氏:以前から、趣味で人工衛星のペーパークラフトを作っていたのですが、名古屋市科学館さんから依頼が来て、差し上げたことがあります。X線天文衛星「ひとみ」と気象衛星「ひまわり8」のペーパークラフトで、ミュージアムモデルとして科学展示室に展示されていますし、データのダウンロードもできます。

――使われる機材はデジタルファブリケーション系のものが多いということですね。

宮崎氏:ここには3Dプリンター(AFINIA)もありますので、小物をAFINIAで出力したりすることもあります。秋葉原という場所も良いですね。部品がちょっと足りなくなったらすぐに買いにいけますし、大きなアドバンテージです。

森田氏:それに模型の塗装のため、塗装ブースもよく利用します。以前、塗装は外注していましたが、今ではAKIBAで出来るようになりました。

――他にAKIBAをどのように使っていらっしゃいますか?

宮崎氏:「AKIBAでつながる交流会」でサイエンス系をやっている方とも引き合わせいただいたので、今後可視化のお手伝いもできるかなと思っています。例えばAKIBAのスタートアップ向けに、プレゼンテーション用の動画とか作成したりとか。僕たちは、モノがないところから形にするのが得意ですから。ただ、今はチームが3人だけで、人手が足りなくて対応できません。
ところで6人部屋空いていませんか?すぐにでも人を増やしたいので(笑)

森田氏:あと、ジャッジルームをよく使いますね。映像の試写ができますし、研究機関の先生方をお呼びしてプレゼンするときに利用しています。AKIBAの施設に興味を持たれている方も多く、こちらに来たいという方が増えました。

カシカガクがAKIBAで制作したイプシロンロケット4号機と革新的衛星技術実証プログラム1号機の精密モデル。衛星は脱着可能だ

JAXAが結んだ縁でチームを結成

――こちらは先日公開された「イプシロンロケット4号機」に搭載される「革新的衛星技術実証プログラム1号機」の模型とのことですが、どのような経緯で宇宙機の模型をJAXA向けに作るようになったのですか?

宮崎氏:以前から3D CGをもとにしてデータを立体にしてみようと考えていて、DMM.make 3Dプリントのサービスを利用していました。だんだん3D化の勘所が掴めてきたので、CGの依頼を頂いていたJAXA様に「模型もできますよ」と話をしたところ、「LE-9ロケットエンジン」の模型を作ることになりました。これがとても好評で、続けて革新1号機の依頼も頂きました。

森田氏:僕と宮崎は、元々Web制作とCG制作を別の会社にいてJAXA様からの依頼を引き受けていたのですが、実はJAXA様のエンジニアの方に「面白い人がいるよ」と引き合わせていただいたのが、僕たちの出会いのきっかけです。

宮崎氏:宇宙のご縁なんです(笑)

チームを組んだきっかけは、「宇宙のご縁」だという

――精密な模型の制作には、一般の量産製品とは違う苦労もあると思います。

森田氏:JAXA様から依頼があった模型は、サイズが大きいのでデータの作成に苦労しました。出力してみないと、寸法や歪みが実際にどれくらいなのかわからないこところがありました。

本物どおりではなく、本物らしく見えるようにアレンジする

宮崎氏:CADのデータを基にしていますが、模型に不要なデータは削除し、必要なデータだけに絞ったうえで、ソリッドになるようにモデルを作り直すなど、3Dプリンター用の段取りが大変です。模型は見栄えが命ですから、実物そのものというより、いかに格好よく見えるかも考えます。模型としてある程度の演出を入れ、少し盛っているところもあります。

それに3Dプリンターの閾値を超えてしまう部品、例えば10分の1にするとサイズが0.2mm以下になってしまうような部品は、3Dプリンターの仕様に合わせて作り直します。細くて折れてしまうパーツは省いて別の形に変えますし、特に肉厚は何度も断面を確認して気を遣っています。使っているナイロンは丈夫な素材ですが、造形後の変化が大きいなど、特性がよくわからないところもあって、難しい材料ですね。

正確なスケールモデルというよりは、本物らしくみえる模型になるようにアレンジが加えられているという

森田氏:ナイロンは接着も難しいですし、表面を滑らかに仕上げることもできません。造形や仕上げでは、AKIBAのテックスタッフの方に加工面でのアドバイスを頂くこともあります。

宮崎氏:塗装を美しく仕上げるコツなども、よく教えてもらいました。金属物と違って、3Dプリンターで出力した造形物は、着色すると痩せたり太ったりしますから。

――こうした模型はどれくらいの期間で制作されるのでしょうか。ミニチュアサイズで作ってから大きなものを作るのかなと想像しますが。

宮崎氏:組み立てに1~2カ月、全行程は3~5カ月くらいです。ミニチュアは作らず、本番一発です。3Dプリンターで造形したときに必要なマージンとか、ノウハウもわかっていますし。あとは根性ですね(笑)

――模型に対するJAXAの評価や反応はいかがでしたか?

森田氏:プロジェクトマネージャーの方にとても気に入っていただき、記者会見するたびに隣に置いてもらっていました。

構造や仕組みを理解して制作することの大切さ

宮崎氏:これまでの仕事で得た経験から、マニアックなディテールとか、宇宙機の模型で重要なポイントがわかってきました。各部の機能を理解したうえで形にしているのが、僕たちの強みだと思います。例えば、太陽電池パネルを作るときでも、パネルの配置とか電極の位置、そこから電気を取り出して衛星本体に取り込んでいることを理解した上で制作しますから、接続方法なども間違えずに模型にすることができます。あとは、こだわりの質感ですね。

――太陽電池の質感とか、もうディテールすぎて、わからないですね(笑)

宮崎氏:一般的なイメージだと、太陽電池の色は青だと思いますが、実際には黒っぽい色です。光があたると赤い色の反射がハイライトの周りに出て、茶色と紫を混ぜたような微妙な色味です。模型では、実物を知っている人がみても本物らしいと思えるような色を付けています。

森田氏: もちろん、一般向けに分かり易くということであれば、青くすることもありますし、そこは柔軟にやっています。リアルに近づければ近づけるほど重みがでてくると思います。

――人工衛星には特殊な素材が使われていると思いますが、模型にも同じ素材を使われているのですか?

森田氏:いえ、本物とは違う素材ですが、それらしく見えるものを使っています。

宮崎氏:実物の衛星には、カプトンテープという、ポリイミド樹脂の高強度素材の裏にアルミを蒸着したものが貼られていますが、とても硬くて加工しづらいので、それに似たものを探してきて使っています。ただ、貼り付け方は特殊なルールに則って貼られていますが、模型でも折り方や貼り方はきちんと再現しています。

――(AKIBAのスタッフが)これは以前いただいた冊子です。グラフィック関係も得意とされていますよね。

カシカガクが作成しているJ-PARC季刊誌。「CP対称性」や「加速空洞」など難解な素粒子物理学を、高校生でも理解できるよう、分かり易く解説した内容になっている

森田氏:模型のような3Dと、グラフィックや映像などの2Dの両方を手掛けています。これはJ-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex:大強度陽子加速器施設)の季刊誌ですが、企画から先方と一緒に作っているものです。ライティングは外注していますが、デザインや説明すべきコンテンツは、非常に抽象的かつ難解な内容をかみ砕き、理系高校生にも分かり易い表現にして制作しています。それらしく見えて、かつサイエンス的に間違っていないという絵を作るのは、かなり大変な作業です。

――素粒子物理学をわかりやすくかみ砕くということですが、最先端の研究分野をどのように理解されているのですか?

森田氏:最初はわからないことが多く、研究所の先生などに聞きながら作っていました。とにかく素粒子物理学は最初のハードルを越えるのが大変でした。日常的な感覚とはかけ離れた世界なのですぐには理解しづらいのですが、いったん基本的なところがわかってくると、様々なテーマが関連しながら頭に入るようになります。

新しいものを作ることが楽しいと語るHoo氏

――今後の予定を教えてください。

森田氏:僕は、自分がこれはすごいと思える仕事がやりたいと思っています。いまゴールに近いと思えるお話もいただいているので、ぜひ実現したいと思っています。

Hoo氏:僕は、CGやビジュアライズを担当しています。新しいものを作っているのが楽しいので、このまま続けられればと思っています。

宮崎氏:僕は、海外の会社と仕事したいですね。スペースXの模型制作とかやってみたいです(笑)

――ぜひAKIBAでスペースXの模型を作って、ここに飾らせてください(笑)

インタビューから数日後、完成したMASCOTランダーの模型

AKIBAから一言
ある日、施設見学ツアーの案内をしていたスタッフから、Teamroom入居を希望されている方がいるので名刺交換してほしいと呼ばれ、行ってお話してみると「ムササビの研究」をしているとのこと。本当は本業についてもきちんとご説明いただいているのですが、「ムササビ」というパワーワードに記憶を支配され、印象のすべてが「ムササビ」になっていたわけです。その後、数ヶ月が経ち、ある日新しいチームが入居していました。Teamroomの入り口に「ゆ」ののれんがかかっていて、くぐりたくなる衝動にかられつつ何度か顔を合わせるうちに記憶が蘇り、ああ、あのときの!となったのが「カシカガク」のみなさんでした。

ある時、3Dプリントで出力した大きな模型を見せてくださって、それがイプシロンロケット4号機と革新的衛星技術実証プログラム1号機の精密モデルです。あまりにも緻密なリアリティの追求に、語彙力を失い「ヤバいですね...」と繰り返してしまいましたが、最上級の褒め言葉です!(語気強め) これからも、カシカガクのみなさんにしか出来ない表現を追求して、我々を驚かせてくださるのを楽しみにしています。

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