MAKERS #33 「有限会社znug design 代表 根津 孝太」――「人とプロジェクトは不可分、強い想いと人とのつながりが推進力を生む」

MAKERS #33 「有限会社znug design 代表 根津 孝太」――「人とプロジェクトは不可分、強い想いと人とのつながりが推進力を生む」

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2019/01/30
0

このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・金子亜裕美)

モノづくりログで紹介するスタートアップの多くは、製品のブラッシュアップと量産化、そしていつかはDMM.make AKIBAから独立し自社オフィスを持つ夢を抱いている。しかし中には、入居前から一流と言われていた有名デザイナーもいる。新卒入社したトヨタ自動車のデザイン本部でキャリアを積み、独立後も年間数百万本も売れるヒット商品となったTHEMOSの水筒「ケータイマグ」などを手掛け、グッドデザイン賞の選考委員も務める有限会社znug design 代表の根津 孝太氏だ。
大手企業の製品デザインを手掛ける一方、AKIBAを中心にハードウェア・スタートアップとのプロジェクトにも積極的に関わっている根津氏に、お話を伺った。

<プロフィール>
根津 孝太(ねづ こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、ものづくり企業の創造活動の活性化にも貢献。「町工場から世界へ」を掲げた電動バイク『zecOO』、やわらかい布製超小型モビリティ『rimOnO』などのプロジェクトを推進する一方、トヨタ自動車コンセプトカー『Camatte』『Setsuna』、ダイハツ工業『COPEN』、THEMOS ケータイマグ『JMY』『JNL』『JNR』、Afternoon Tea ランチボックス『LUNCH WARE』、タミヤミニ四駆『Astralster』『RAIKIRI』などの開発も手がける。ミラノ Salone del Mobile "Satellite"、パリ Maison et Objet 経済産業省 "JAPAN DESIGN +" など、国内外のデザインイベントで作品を発表。グッドデザイン賞、ドイツ iFデザイン賞、THE VERGE AWARDS AT CES 2019 'BEST ROBOT'、日本感性工学会 かわいい感性デザイン賞 2016 最優秀賞、JAPAN WOOD DESIGN AWARD 2016 最優秀賞(農林水産大臣賞)、JIDA MUSEUM SELECTION 2015、他受賞。2014~2016, 2018年度 グッドデザイン賞審査委員。著書『アイデアは敵の中にある』(中央公論新社)、『カーデザインは未来を描く』(PLANETS)。
https://www.znug.com/

――AKIBAにはいつ頃入居されたのでしょうか。

根津氏:2015年3月なので、AKIBAがオープンして3カ月くらいで入居しました。それまでは自分ひとりの事務所を持っていたのですが、一人で仕事をしていても何のシナジーも生まれなくて、新しいことのきっかけもなかなか生まれません。それならばAKIBAのように多くの人が集まる場所にいたほうが面白いことが起きるだろうと、事務所の契約満了のタイミングを待って入居しました。

――AKIBAに入居して、どのようなプロジェクトに参加されましたか?

根津氏:最近では、GROOVE Xの家庭用ロボット「LOVOT(らぼっと)」のデザインを手掛けました。LOVOTは2018年12月18日に予約販売を開始していますが、プロジェクトがスタートした2016年頃から、AKIBAにいたGROOVE Xが施設を離れた後も継続して関わっていました。

https://www.youtube.com/watch?v=HxuriKTyenQ

GROOVE X 家族型ロボット LOVOT

根津氏:GROOVE Xと出会ったきっかけはちょっと面白くて。実は僕も林さん(GROOVE X株式会社 創業者兼代表取締役 林 要氏)も、トヨタ自動車でZ(ゼット)と呼ばれる製品企画部にいたんです。Zには、車両単位でプロジェクトを統括するチーフエンジニアと呼ばれる人たちがいますが、林さんがトヨタを辞めるとき、チーフエンジニアの方が「これまでZを辞めた奴は一人しかいない。根津っていうんだけどね」と、僕の名前を出してくれて。それをきっかけに林さんが会いに来てくださって、意気投合して一緒にやりましょうとなりました。

――トヨタ自動車でも花形と言われる部署を離れて、独立されたのですね。

根津氏:若気の至りです(笑)僕が入社後に配属されたのはデザイン部で、その後製品企画部に異動したのですが、トヨタを辞めた方が自分のアウトプットが増えるという直感のようなものがありました。もちろん仕事は面白かったですし、辞めるときはかなり迷いましたが、外に出たほうが世の中のいろいろな人とつながって、面白いものを見つけられるのかなと。

自分のアウトプットが増えるという直感から、独立という道を歩んだ

根津氏:実際のところ、辞めた後のほうがトヨタの中の「面白い人たち」と自由に繋がっているという感じはありますね。トヨタとは継続してやらせて頂いているプロジェクトがあって、コンセプトカー「Camatte(カマッテ)」を開発し、毎年「東京おもちゃショー」に子どものための自動車として出展しています。

「東京おもちゃショー 2018」に出展された「Camatte ペッタ」。出展:トヨタ自動車

根津氏:Camatteのアイデア会議は、毎年AKIBAでやっています。ここは東京駅から近いというロケーションに加えて、自由で開放的な雰囲気という良さがあります。自動車業界というと、すごくクローズドな体制の中で、長年にわたって品質や安全性を担保してきたという歴史があります。トヨタのメンバーも、普段とはまったく違うAKIBAという環境で、Camatteの開発を進めることを楽しみにしているようです。

AKIBA 境:以前、根津さんのご紹介で、ダイハツの奥平社長(ダイハツ工業株式会社代表取締役社長 奥平 総一郎氏)がAKIBAにご来館されたことがあって、とても驚きました。

根津氏:トヨタ時代の直属の上司です(笑)奥平さんが社長に就任する直前のタイミングでしたが、AKIBAを見学して面白いところだと喜んでいましたね。それで、「お前がここに入るの、わかるわ」と言ってくれました。

――根津さんがAKIBAにいる理由、いろいろあるかと思いますが、何が一番大きいですか?

AKIBAの魅力は、ここに集う「人」にある

根津氏:一番は「人」ですね。世の中にファブスペースはいろいろありますが、AKIBAはスタッフの方も入居している方も施設を利用している方も、皆さんが素晴らしい。そういう人たちが集まっているのは、特筆すべき点だと思っています。

――AKIBAに集う人たちは何か違うと?

根津氏:ここって濃い人が多くない?(笑)ここでは、自然発生的にプロジェクトが起きたり、自分がやりたいと思っていることに周りの人がどんどん入ってきてくれたり。

AKIBAに集う「人」にこそ価値がある

根津氏:僕は、人とプロジェクトは不可分だと思っています。人とのつながりがあるからこそ、プロジェクトが生まれる。プロジェクトが先にあったとしても、人とのつながりがないと結局うまく行かないことが多いのかなと。

人とプロジェクトは不可分――人とのつながりが推進力を生む

根津氏:最近では、モノづくりのハードルが下がったと言われていますが、良いチームが作れないとモノづくりはそれほど簡単ではありません。AKIBAには、百戦錬磨の人、勢いのある人、面白い人がたくさんいて、「何かこういうことがやりたい」となったときに、打算的にならず、面白いからやると言ってくれる人が多いですね。そういう方たちに助けられていることが、僕にとってはAKIBAにいる一番大きな理由です。

――前に進むための力が湧いてくるということでしょうか。

根津氏:以前、導電性繊維「AGposs(エージーポス)」を開発するミツフジ株式会社の方と講演でご一緒させていただいて、それをきっかけにウェアラブルEXPO向けのプロジェクトを打診されました。ただその時はGROOVE XのLOVOT発表を控えているタイミングだったため「2018年の12月20日頃までは動けません」とお話ししたのですが、いざ発表が終わってお話を伺ってみたら2019年1月16日から始まるウェアラブルEXPO 2019に出したいと言われて、さすがに慌てました(笑)

モノづくりはノリとタイミング――ここにはやり遂げるための力がある

根津氏:そのプロジェクトには、AKIBAで知り合ったエレファンテックの安部さん(エレファンテック株式会社技術営業 安部 徹氏)にもお声がけしました。そうした人たちがいることもあって、日程が厳しいプロジェクトでもAKIBAに来れば何とかできると思えたんです。お正月も挟んで3週間で完成とか、普通だったらお断りする納期ですよ(笑)でも、ここには何とかしてくれる人達がいるから、自分もやらざるを得ない。
僕は、モノづくりはノリとタイミングが大事だと思っています。機会を逸すると延期したり中止ということになってしまいますが、ここにいるとチャンスを逃しにくくなると思います。

――現在取り組んでいるプロジェクトを教えて頂けますか?

根津氏:いろいろやっていますが、今は「板金のラジコン」を作っています。2019年1月30日からドイツ・ニュルンベルグで開催される「Spielwarenmesse(シュピールヴァーレンメッセ)」という、質・量ともに世界一と言われる玩具中心の見本市に出展します。

板金のラジコン「bt+bst」
https://www.btbst.net/

ドイツの見本市に向けてAKIBAで取り組んでいるプロジェクト。フィギュアにも工業用3D CADを使うという拘りのデザインだ

板金は、横浜の海内(あまうち)工業株式会社の湊さん(海内工業株式会社 取締役 兼 技術開発部 部長 湊 研太郎氏)とやっていたのですが、ラジコンの電子回路もオリジナルで作ろうということで、AKIBAに入居しているオカタケさん(株式会社魔法の大鍋 代表 岡田 竹弘氏)にお願いしています。他にも糸井さん(株式会社アイツーアイ技研 代表 糸井 成夫氏)や、先ほどのエレファンテックの安部さんがチームに参加してくれています。

正直言って、何のお金になるのかも分からないようなプロジェクトですが、皆さんが前のめりでやってくれて、本当に感謝しています。ちゃんとお礼もできないので、今回は岡竹さんの会社のマークを新たにデザインしたのですが、すごく喜んでいただきました。そういう関係性も僕はすごく好きです。そこにクリエイティブな関係が構築されていくことに、大きな満足感があります。

――名刺の肩書きに「クリエイティブ コミュニケーター」とあります。

根津氏:まだトヨタでカーデザイナーをやっていた頃のことですが、アメリカに行ったときにネイティブアメリカンのシャーマンの家系だという方から「あなたはコミュニケーターだ」と言われたことがあって。当時は自分がクリエイターだと思っていたので、ちょっとショックでした(笑)でも今は、コミュニケーターだと言われた意味も分かるような気がします。

「クリエイティブ コミュニケーター」として、人とのつながりを大切にする

根津氏:僕はクリエイターとして、GROOVE Xにも参加していますし、他のプロジェクトもやります。傭兵のようなもので、自分の居場所は各プロジェクトとAKIBAにあるんでしょうね。ここが精神的な拠り所になっています。スタッフの境さん(企画運営プロデューサー 境理恵)なんて、僕のメンター、精神安定剤みたいなものですよ。

AKIBA 境:畏れ多いです。水飲み場みたいなものですよね(笑)

根津氏:僕のクライアントをAKIBAに連れてきたときに、何か新しいつながりが生まれると良いなと思って、ほぼすべての人を境さんに紹介します。自分がここでいただいた恩恵を、返せるかどうかは分かりませんが、できるだけ返せるように動きたいと思っています。

根津氏:僕はいろいろなクライアント、会社と仕事をするというスタイルなので、ここに入居されているスタートアップの皆さんとはちょっと違うAKIBAの使い方をしています。たまには卒業しない人がいてもいいのかなと(笑)

AKIBA 境:これからもずっといてください!

人に助けられ、人を助けられる自分に

根津氏:ここはとても居心地が良いですね。それは、ぬるいという意味ではなく、何かやろうと思ったときの機動力、推進力がとても大きい。プロジェクトと人は不可分、一番は人だと思っていますし、自分もその一人でありたいと思っています。

――人とプロジェクトは不可分とのことですが、良いチームの条件はどのようなものでしょうか?

根津氏: 一人ひとりが、良い意味で独立的なチームかな。一人でもやれるような人が集まって取り組むから、大きなパワーが生まれます。そして、お互いへのリスペクトがあること。自分ができないことをお願いして、相互に補完しているわけなので、そこには当たり前のようにリスペクト、感謝が生まれるはずです。

プロフェッショナルが集まる場だからこそ、そこにリスペクトが生まれる

根津氏:あとは、自分として全てやりきったと思えること、最善の仮説を出して、それに対するカウンターの意見も含めて全部飲みこむことですね。お互いリスペクトしているけど、遠慮もしない。意見を出し合って、それが良いとなれば、それに向かって進む。自分のやりたいこと、仮説や原案、コンセプトを強く発信すれば、同じ匂いのするメンバーが集まってきます(笑)

――デザイナーとして、ハードウェア・スタートアップへのアドバイスを頂けますか?

ハードウェアはデザインが命、まずは見てもらうところから

根津氏:スタートアップの方もわかっていると思いますが、デザインの役割は大切です。もちろんデザインが全て、などと言う気はありませんがが、多くの場合デザインが入り口になるケースは多いです。デザインがイマイチだと見てもらえない。デザインが良ければ寄ってきてくれて、それから初めて製品の真価を見てくれる。「まだデザインは(仮)なので」という言い訳が通らなくなっていますから、デザイン頑張ってやりましょう。

――最後にご自身が代表作と思う作品と、追求していきたいデザインを教えてください。

根津氏:僕にとってはどれも大切な代表作ですが、チームで取り組んだものは特に印象的ですね。CES 2019にも出展している電動バイク「zecOO(ゼクー)」、GROOVE XでやったLOVOT、今取り組んでいる板金ラジコンも、プロジェクトの規模はぜんぜん違いますが、僕にとっての大切さは同じです。

電動バイク「zecOO(ゼクー)」の模型。実物はCES 2019に出展中だった

根津氏:モノに表情を与えることを、すごく意識しています。THERMOSのケータイマグも、LOVOTも、表情があってカワイイものを作るのが好きです。シンプルでカワイイというのが一番難しいのですが、長い間使われても陳腐化しない、そこにキャラクターを見出してもらえるようなデザインを目指しています。

魂が宿るほどに長く愛されるモノを作りたい

根津氏:僕は、日本の付喪(つくも)神、八百万(やおよろずの)神という考え方がすごく好きなんです。ヤカンでも100年経ったら神様みたいな。この日本人のモノに対して特殊な想いを抱ける国民性というか、僕にはそういう想いが強くあるので、モノに魂が宿り易いような器を作りたいと思っています。そのうちに魂が宿るかもね、と思ってもらえるような器を作りたいですね。

板金のラジコン「bt+bst」のメンバー(左奥から時計周りに安倍氏、糸井氏、湊氏、岡田氏)

AKIBAから一言

DMM.make AKIBAがオープンして初めてのお正月を迎え、CESの嵐も過ぎた頃、運営スタッフのあいだで「何だかすごい人が入居するらしい」という噂で持ちきりになりました。それが根津さんです。根津さんが入居してくれるならと、ミニ四駆のコースを作り始めたスタッフもいました(※根津さんはミニ四駆のデザインも手掛けている)。そして3月、ついに根津さんがAKIBAにやってきます。「トレードマークの赤い髪にピアスの穴がたくさんという少々尖ったファッション&すごい経歴の持ち主なのに、腰が低くていい人すぎる...!!」ので、みんなあっという間に根津さんのファンになったのでした・・・。どんなときも笑顔で、誰にでも優しく接してくださる根津さんに癒されている会員さんやスタッフがたくさんいます。根津さんが生み出すデザインにも、そのお人柄が滲み出て、人々に長く愛されるプロダクトとして世の中に浸透しています。これからも、根津さんらしく、人々の心に寄り添うデザインを生み出してくださることでしょう。そしていつまでも、歩くヒーリングスポットとしてAKIBAの民に癒しを振り撒き続けてください。AKIBAを代表して、心からのお願いでした。

[ DMM.make AKIBAについて]
株式会社DMM.comが運営する「DMM.make AKIBA」は、ハードウェア開発・試作に必要な機材を取り揃えた「Studio」、シェアオフィスやイベントスペースなどビジネスの拠点として利用できる「Base」で構成された、ハードウェア開発をトータルでサポートする総合型のモノづくり施設です。

>>DMM.make AKIBA ホームページ
>>DMM.make AKIBA 公式Facebookページ

・DMM.make AKIBA 法人向けサービスのご案内
さまざまなビジネスの拠点として培ってきたノウハウをもとに、メイカースペース構築支援や各種イベント開催をサポートするサービスを提供しています。
・DMM.make AKIBA 企業向けIoT人材育成研修
IoTを語れる、活かせる即戦力の育成をサポート。企業の経営者やそこで働く皆さまが、IoT技術を「自らのビジネスに応用させる」ために必要な知識を得る機会を提供します。

●DMM.make AKIBAに関するお問い合わせはこちら

参考にしてくれた記事

記事が登録されていません。
この記事を参考にして、新しく記事を投稿しよう!

違反について