MAKERS #34「Human Controller 蕪木孝」――「世界中の人を『ウオーッ!』と言わせるモノを作りたい」

MAKERS #34「Human Controller 蕪木孝」――「世界中の人を『ウオーッ!』と言わせるモノを作りたい」

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2019/02/27
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・金子亜裕美)

モノづくりログの読者の方であれば、「全自動ルービックキューブ」と聞いて、ピンと来る方も多いだろう。手で混ぜたルービックキューブを机の上におくと、コロコロと転がりながら自分で色を揃えていくという「スマートな」ルービックキューブだ。その動画を含む記事は2018年9月にアップされてから、実に11万ビューという驚異の記録を更新し続けている。
今回のモノづくりログは、全自動ルービックキューブの制作者、「Human Controller」こと蕪木孝さんにご登場いただき、その謎に包まれた素顔を紹介する。

<プロフィール>
蕪木 孝(かぶらぎ たかし)
1977年埼玉生まれ。東海大学第二工学部機械科卒業。2016年『電話しか使えないiPhoneケース』で第3回ソレコン『いいね賞』を受賞する。16年間勤めた会社を退職し、DMM.make AKIBAの徒歩圏内に引っ越す。2017年『Human Controller』で第4回ソレコン『イグソレコン賞』を受賞する。2019年『おならボール』で第6回ソレコン『大賞』を受賞する。

Human Controller
https://media.dmm-make.com/maker/4387/

――何度見てもすごいなと思う動画ですが、ルービックキューブを全自動で動かそうと思ったきっかけを教えてください。

蕪木氏:2016年3月頃、YouTubeでルービックキューブを解くロボットの動画を見ました。それはルービックキューブの各面をモーターで回るロボットハンドで外側から回して色を揃えるという仕組みだったのですが、それなら中にモーターを入れて自分で解くようにしたらもっと面白くなる、と思ったのがきっかけです。

構想から完成まで2年半

――モノづくりログに投稿されたのが2018年9月ですが、この時に完成したということでしょうか?

ルービックキューブを手にする蕪木氏。最初は写真右の大型サイズを制作した

蕪木氏:はい、構想から完成まで2年半かかりました。最初に取り組んだことは『これ以上は無いと思える仕様』を考えることでした。

・本家のルービックキューブと同じように手で回して混ぜることができる
・電池やコンピュータなど必要なものは全て中に詰め込む
・混ぜた手順の逆再生ではなく解いて色を揃える
・テーブルの上を転がりながら色を揃える
・本家のルービックキューブと同じサイズ

作り始めたときにはとても無理だと思いましたが、できるところまでやろうと思って続けました。
そして最終的に全てを達成することができました。

内部にはまわされたことを検知する回転センサーが入っています。揃った状態からどうまわされたのかをセンサーでずっと追っていて、現在の色の配置を常に把握しています。混ぜられた後、机に置かれたことを加速度センサーで検知すると、そのときの色の配置から解く手順を考え、それに従ってモーターで各面をまわして色を揃える仕組みです。

色を混ぜる手順を逆再生するのではなく、机に置かれた時の状態から、解法アルゴリズムを使って、人間が考えるように揃えていきます。

――確かに、混ぜるときにまわした回数と揃えるためにまわる回数が違いますね。これは逆再生よりもずっと面白いです

この大きいタイプの全自動ルービックキューブを5カ月くらいで作り、その後ソフトウェアを作りました。これが完成したところで一旦やめようかとも思いましたが、2カ月くらい検討して「もっといけるかも?」と思い直し、本物と同じ1辺57mmのサイズと大型の方ではできなかった『転がりながら解く』にチャレンジしました。

――反響はいかがでしたか?動画にも世界中からコメントがついています。

蕪木氏:はい、海外のモノづくり関係のネットニュースで取り上げていただきました。世界にはルービックキューブを趣味として活動されている方たちがたくさんいて、そういう方たちからも評価されたことは嬉しいです。これを作るまでは、ルービックキューブに対して興味を持っていなかったのですが。

――えっ!ルービックキューブが好きすぎる人にしか見えませんが(笑)

2月だというのに自作の半袖Tシャツで、ルービックキューブ愛を語る蕪木氏。このTシャツもmade in AKIBAだ

コミュニティの存在が開発を後押し。そして魅力にとりつかれる

蕪木氏:好きになってしまって。ルービックキューブを知れば知るほど奥が深くて。私が始めるきっかけになった動画は、外部からカメラとモーターハンドを使ってキューブを揃えるというものですが、この世界記録は0.38秒まで短くなっています。他にも、キューブの形状はスタンダードが3×3×3ですが、数千個のパーツで33×33×33のキューブを自作した人もいます。できるだけ早く解く「スピードキューブ」の大会なども世界中で頻繁に行われていて、早解きの更新記録をチェックするくらい好きになってしまいました(笑)

――かなりディープな世界のようですが、見事な金字塔を建てられましたね。制作過程では、どこが一番大変でしたか?

蕪木氏:せっかくなので分解してみましょう。

正6面体各面のセンターキューブにサーボモーターが連結されている。各キューブの基本構造はオリジナルと同じだ。

内部のアップ。6軸合計6個のモーターとドライバーをコンパクトにまとめている。右の赤い基板がコンピューター

角度を変えて撮影。白い長方形の部品がリチウムポリマー充電池。電源部含めて外部にコード類は出したくないという拘り仕様だ

CADでみる断面。左のオリジナル構造に対し、駆動機構を収めるため内部空間をギリギリまで拡張している

蕪木氏:中に収める部品の選定は大変でした。サーボも買った状態のままではぜんぜん中におさめることができず、ケースを分解して必要な機構だけを取り出しています。シャフトも短く切り詰めています。

サーボは中身だけ取り出し、新たなケースを3Dプリントして作成した

6個のサーボのケースを組み合わせると球形になる

蕪木氏:各面が手でどれくらいまわしたのか、モーターでどれくらいまわしたのか、この回転量を検出する部分が最も大変でした。最初は抵抗式ポテンショメーターを使おうと思ったんですが、サイズの良い物がなかったり、デッドゾーン(不感帯)があって角度が360度測れなかったり。部品の選定にかなり悩みました。

中心部に回転を検出するセンサー部が見える

蕪木氏:大型の方をYouTubeに投稿したとき、同じく大型のキューブを先に制作していた海外の人が磁気式ポテンショメーターを使っていることを教えてくれました。それで軸に磁石を接着し、それを磁気式ポテンショメーターICで検出するようにして、検出部の小型化に成功しました。0.1度くらいの精度で検出できています。

センターキューブに繋がる軸に磁石(赤)を接着し、磁気式ポテンションメーターICで各軸の回転を検出している。また、この角度からだとギア(黄色)とモーターケース(水色)をギリギリで逃がしているのがわかる

蕪木氏:ギアとモーターが干渉しないようにしたり、レイアウトにも苦労しました。あと、キューブには動かせるように多少の「遊び」が必要ですが、遊びがあると面がずれやすくなります。面が少しでもずれた状態からだと、モーターで回そうとしても引っかかって回らないことがわかりました。

これを解決するために、センターキューブの内側に、パーツを引っ張って戻すような「バネ」を入れました。ある程度遊びがあっても、バネが内側に向けて引っ張るからグラグラしません。最初はこのバネを入れずに設計していましたが、これがポイントでした。バネは本家のルービックキューブにも入っています。

各センターキューブの内側にバネ(図中左の青色部品)を追加した

――試行錯誤と工夫の積み重ねですね。すべてAKIBAに来られてから作られたということでしょうか。AKIBAの会員になったきっかけを教えていただけますか?

ソフトウェアエンジニアの職を辞してフリーのmakerに

蕪木氏:2015年7月頃、会社を辞めようか迷っていました。前職はプログラマーでした。新卒で入社後16年間勤務し、特に待遇などに不満があったわけではないのですが、大きい仕事が終わってひと段落したときに今の仕事を続けることは無理だなと悩んでいました。

その頃TVのCMでDMM.make AKIBAを知りました。作りたいものに挑戦している人達をいいなぁと思い、夏休みに1日券を買ってトライしてみたら、これが面白くて何度も通ってしまいました。その後、2016年3月に退職してから、ずっとAKIBAに通っています。

――16年間勤務した会社を辞めて、AKIBAでモノづくりをされているのですね。

蕪木氏:世界中の人が「ウオーッ!」っと驚くようなモノを作りたいと思ってやっています。海外の知らない街の知らない人が、私の作ったものを見てビックリして腰を抜かす、みたいなことを狙っています。

人々を驚かせるモノを作りたいと思いながら、AKIBAで活動を続けている

フリーな立場だからこそ、できることがある

蕪木氏:会社だと無理なことには挑戦できないじゃないですか。会社で「絶対できませんが、やらせてください」と言ったら、上司は「もう一回言ってみ?」って、なりますよね?(笑)

全自動ルービックキューブは、元々無理だと思って始めましたし、それくらい難しいことにチャレンジしないと世界の人を驚かせるモノはできないと思います。

――全自動ルービックキューブは、YouTubeで200万回以上再生されています。製品化という声もあるのでは?

蕪木氏:買えますかとYouTubeのコメント欄でよく聞かれます。

――起業に結びつけるとか、趣味を超えた活動とする考えはありますか?

お金のことは考えず、とにかくやり続けたい

蕪木氏:周りからはよく「趣味」だと言われますが、私としては一貫して「仕事」としてやっているつもりです。前の会社を辞めて、転職したようなものです。確かにお金が入るようなことはしていませんが、世界をウオーッ!と言わせることが私のアウトプット、価値だと思っています。それに、お金のことを考えなかったからこそ、ここまでやれたと思います。

――そうですね。開発にかかった時間だけ回収するとしても、1個100万円でも安いかもしれません。経済的にも当面やっていけると?

蕪木氏:サラリーマン時代の蓄えがありますから、あと1年は大丈夫です。それが無くなったら退場するかもしれませんが。ハハハハッ!(笑)

蕪木氏の作品のひとつ「ローリングサンドイッチマン」。仕組みは見ての通りだが、なんというか強烈なインパクトに圧倒される。その場にいた全員が「キン肉マンの超人にいそう」という見解で一致した

――全自動ルービックキューブは、これで完成形ということでしょうか?

蕪木氏:先ほどお見せしたように、内部が全て手配線なので、もう一度作るならそこは何とかしたいですね。あとは外側のパーツ。造形してから少しずつ削って、研磨して仕上げるまで、朝から晩までやって40日間くらいかかっています(笑)もっと効率的にできるのか、最新の3Dプリンターで出力してみたいですね。

――点数をつけるとすると何点ですか?

蕪木氏:多くの人を楽しませようと思って作りました。喜んでいただけていると思いますので、そこは満点でもいいかな。

人を驚かせるようなモノを作り続けたい

――次は何で驚かせようとお考えですか?

蕪木氏:AKIBAに来た当初、実はロボットを作ろうというアイデアがありました。次はロボットを始めるかもしれません。今は、ソレコン(タカハ機工株式会社が主催するソレノイドを使った作品コンテスト)に応募する作品を制作しています。

――これからも頑張って、皆を楽しませてください。

AKIBAから一言

3年ほど前から、Studioで作業に没頭する作業服姿の男性を毎日見かけるようになりました。お話を伺ってみると、会社を退職して自分が作りたいものを作っているとのこと。その後、AKIBAの交流会で「Human Controller (人間ラジコン)」を披露して会場をざわつかせたりしつつ、AKIBA内外での存在感を強めていった蕪木さん。ですが、ご本人はいたって冷静で、まだ何も出来ていないからとメディア取材などもお断りされていました。

そして時は経ち。忘れもしない2018年9月17日、ついに、世界が蕪木さんを見つける日がやってきました。モノづくりログに投稿された一本の記事が、世界中の人々を驚愕させ、歓喜の渦へと巻き込んだのです(大げさ)。バズるってすごいなぁ。
全自動ルービックキューブ Self Solving Rubik's Cube

その日から、国内外メディアからの問い合わせがDMM本社にまで届く有様で、最初は顔出しを拒んでいた蕪木さんも、少しずつメディアに登場する機会が増えてきました。きっと蕪木さんご自身が「人々を楽しませる」というひとつの目標を達成した実感をお持ちになったからかもしれません。じゃあそろそろAKIBAの取材も受けてくださいますよねと詰め寄り、今回のインタビューが実現しました。謎に包まれていた蕪木さんの実体に、少しは迫れたのではないでしょうか。DMM.make AKIBAはこれからも、Human Controller 蕪木さんの活動を応援していきます。

https://youtu.be/0PkIFCX6gNs

全自動ルービックキューブが初めて成功したときの感動を分かち合いましょう。

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