MAKERS #35「株式会社Arblet 代表取締役 清水滉允」――意識せずに健康を手に入れながら、自分らしく暮らせる世界を実現したい

MAKERS #35「株式会社Arblet 代表取締役 清水滉允」――意識せずに健康を手に入れながら、自分らしく暮らせる世界を実現したい

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2019/03/27
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・越智岳人)

生活習慣病やメタボリックシンドロームに血圧サージ。最近よく耳にする「現代病」だが、日頃なんとなく調子が良くないなと思っていても、年に1度の健康診断の結果から精密検査を決意、自分から病院に行こうと思わない限り、病気なのかどうかもわからないという人も多いだろう。

株式会社Arbletは、「Enhance Human Potential(人間の潜在力を強化する)」をミッションとしているスタートアップだ。リストバンド型のデバイスを装着しているだけで自分の健康状態が自動的に判定され、いつの間にか健康になるというサービスの実現を目指している。2019年中に実証実験、2020年春には量産開始を狙いプロダクト開発を進めている。今回はその代表取締役・清水滉允氏に、お話を伺った。

<プロフィール>
清水 滉允(しみず こうすけ)
株式会社Arblet 代表取締役。高校・大学とカナダに単身留学。McMaster大学では生体医工学を専攻、医療機器を中心とした生体情報計測機器の設計、またそれらによって計測された信号・画像情報の解析方法を学ぶ。2016年帰国後に株式会社Arbletを 創業。2016年 IBM BlueHub Open Inn¬ovation for Automotive 最優秀賞を受賞。

――リストバンド型デバイスですが、どのような機能を持ったプロダクトですか?

清水氏:これは手首に装着するウェアラブルデバイスで、装着した人の身体の状態を連続的に取得できるという特徴があります。従来のデバイスの多くは、例えば心拍数を1分間の平均値として計測していますが、実は人は1分間の間じっとしているわけではありません。走っていたり、食べていたり、座って仕事をしているときもあります。1分間で平均した数値は、こうした様々な状態を判断するには不十分なデータです。

ウェアラブルデバイスで、生体データを連続的に測定する

僕らは、20ミリ秒(1/50秒)毎にデータを取りつづけ、生データを分析することで、その人が何をしているのか、どういう状態なのか、体内にどういう変化があったのかをひとつずつ紐解いていこうとしています。最終的には医療器具としての認可を取って、血圧の常時測定ができるように進めています。

デバイスで取得した膨大なデータを解析し、日々の生活に役立てるにはソフトウェアが必要です。医療用途でもヘルスケア用途でも、利用する個人によって多様な問題や悩みがあるわけですから、汎用的なアプリケーションですべて解決するのは難しいのが現状です。しかし、もっと一人ひとりのニーズに合わせて細分化されたアプリを提供したいという企業に向けて、データを取得するハードウェアと、データを解析するクラウドシステムが用意されていれば、そうしたサービスの開発のイニシャルコストが大幅に軽減され、より人に寄りそったサービスの提供ができるのではと考えました。

デバイスでデータを取り、クラウドで解析するというオープンなプラットフォームを構築

そこで僕たちはハードウェアとクラウドの部分を公開し、オープンソースのコミュニティを作っていくことを目指しています。これによって小規模な組織や個人であっても、開発コストをおさえて必要とするサービスを実現するアプリケーションの開発ができるようになります。クラウドサーバー側には解析用のパワフルなエンジンを用意し、開発者はノートPCさえあれば良いという環境を構築し、試運転をしているところです。


――生体データが連続的に取れるデバイスと、大量のデータを解析できるクラウドシステムをセットで用意しようということですね。それを無料で公開されるのですか?

清水氏:もうひとつ構想があって、デバイスで取得したデータもオープンにしようと考えています。

データを公開して活用の促進をはかり、新たなサービスの創出につなげる

データの利用を有償化して参入障壁を高くするのではなく誰もがデータを自由に使えるようにすることで、医療やヘルスケアに関する一人ひとりの課題を解決できるようなビジネスのアイデアや研究成果を出せるような環境を構築していきたいです。そして新しいサービスが生まれた時に、そこからマージンを回収するようなビジネススキームを考えています。

最近「Society 5.0(ソサエテイ 5.0)」やサイバーフィジカルシステム(CPS)が提唱されていますが、一番ネットワークに繋がっていないのが生身の人間で、そこを繋ぐ役目を担いたいという想いがあります。僕たちの会社名であるArblet(アーブレット)は、Arm(腕、技術)、Orb(宝玉、宝物)、Let(委ねる)という3つの単語からの造語ですが、命のような大切なものを委ねられる会社になりたいと願って名付けました。

Arbletは、命のような大切なものを委ねられる会社にしたい

――会社名にもそういう想いが込められているのですね。DMM.make AKIBAとの出会いは、どのようなきっかけですか。

清水氏:2016年9月に会社を設立し、その後スタートアップ向けコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」に参加しました。そのつながりでABBALabの小笠原さん(株式会社ABBALab 代表取締役 小笠原治氏)に面談する機会を頂いたのがきっかけです。

それでAKIBAを使うようになって、「SHARP IoT.make Bootcamp」に第1期生として参加しました。ウェアラブルデバイスの形状試作では、3Dプリンターを使っていろいろなフィッティングを試しました。AKIBAは、何といっても人と出会えることが大きいです。このデバイスも、量産設計をお願いしている業務委託先はAKIBAに入居している方ですし、いま契約している量産工場はSHARPに紹介していただいたという経緯があります。

――デバイスに使われている電子部品は、かなり専門的なハードウェアのようですが、清水さんがご自身で設計されたのですか?

清水氏:はい、カナダのMcMaster大学でElectrical and Biomedical Engineering(電気・生体工学)を専攻し、MRIや超音波装置など医療機器の設計などを学んだ経験を活かしています。バイオセンサーや信号処理、画像処理も専門でしたので、大学時代からこういう構成でいこうというイメージはありました。

アイデアは大学在学中から温めていたという清水氏

このデバイスには緑/赤/赤外の光学センサーが搭載されていて、これで血管を測定することで脈波や血中酸素濃度を調べることができます。また電極で皮膚の電荷を測定することで、緊張しているのか、リラックスしているのか、というような状態がわかります。そして、加速度センサーで手首の動きを見ることで、装着者がどんな行動をしているときに、体内でどのような変化が起きたのかを知ることができます。

リストバンドの内側には医療グレードの光学センサーや電極を配置する

デバイスでデータを20ミリ秒(0.02秒)間隔で取得し、Bluetoothを使ってスマートフォンや中継器を経由してクラウドに送っています。医療機器として実用可能な段階にもっていくには最低でも20ミリ秒くらいで生データを取る必要があります。20ミリ秒で24時間の生データを取るとデータ量も膨大になりますが、全てのデータを使って解析しないと分からないことがあるからです。

例えば、ノイズなどは一般的に捨てるものだと言われています。しかし、ノイズのパターンをちゃんと分析して、なぜそのノイズが起きたのかを特定して分類できれば、ノイズも活用できるようになります。僕は、ノイズは捨てるものではなく、活用するものだと思っています。

――大学在学中から既に構想があったのですね。医療機器の知識に基づいた専門性を感じる設計です。

清水氏:使っているセンサーや電極の制御チップも医療用途の特殊なものです。このプロトタイプが4世代目で、回路設計は初期段階でほぼ決まりましたが、装着時に痛みを感じないような電極形状や、金属アレルギーを防ぐコーティングなど、機構設計はまだ継続しています。医療機器として使えるようになるにはまだ時間がかかりますが、治験(臨床試験)開始のための倫理委員会の審査も通りました。

――デバイスの量産試作品が完成し、クラウドシステムも試験中と、もう量産間近まで来ていますね。

清水氏:2019年1月に開催された「第5回 ウェアラブルEXPO」に出展したところ、ありがたいことに多くの企業からご要望をいただき、僕たちの方向性が間違っていなかったことが実感できました。とても一度には対応できないので数社に絞り、今年のうちに実証実験を始める予定です。

2019年のウェアラブルEXPOでは、大きな注目を集めた

今は実証実験に向けて、それぞれの企業が可視化したいと考えているものを紐解いて、利用者の動きや体調の変化など、データからアルゴリズムで導き出せるよう、一緒に開発させて頂いています。2020年春に製品化することを目指しています。

――Arbletのウェブサイトを拝見しましたが、あまり情報をオープンにせずに進められてきた印象です。ウェアラブルEXPOで一気に注目を集めた形ですね。

清水氏:起業時からコンセプトは変えていないのですが、当時はピッチで「ウェアラブルで常時データが取れます」といっても、あまり審査員や投資家の受けが良くありませんでした。やっぱりピカピカ光らないから地味なのかなあと思って(笑)

実は手首に装着するデバイスで身体のデータを取るものは、すでに製品化されています。多くの企業がそれを利用してサービスを作ろうとしましたが、実際にやってみると必要なデータが取れないことがわかりました。今回のウェアラブルEXPOには、そうした既存の技術では先に進めなかった人たちが来て声をかけてくださいました。2年前には誰もわかってくれませんでしたが、今ではセンサーの生データがそのまま取れることの価値を理解している人たちがいて、タイミングが良かったのだと思います。この出会いがあったことで、今後のビジネスもしっかり展開できると感じています。

――たとえ外観が地味でも、必要なデータが確実に取れることが評価されたのですね。

清水氏:このデバイスを手首に装着するだけで、かなりの情報がとれますし、他のセンサーとも連動できるようにしているので、かなり強力なプラットフォームになると思っています。

最初はデータの取得にフォーカスしていたが、いろいろな意見を聞き、プラットフォームの構想が固まってきたという

実は、デバイスにディスプレイが付いていないのは理由があります。例えばここにデータを表示すると装着者が意識してしまって、血圧高めだと深呼吸して血圧を下げようとしたり、普段とは違う行動をとってしまいます。普通に活動しているときのデータが取りたいので、ディスプレイは敢えて付けていません。

――ウェブサイトには、メンバーは6名とありました。製品化に向けて会社も大きくする必要がありますね。

清水氏:高校の同級生と2人で起業して、今はフルタイムのメンバーが5名います。今後は、データ分析のところは人を増やして内製化で進めようとしています。ハードウェアとクラウドシステムは、基本的に業務委託で進めています。

――清水さんが成し遂げたいと思っていることを教えてください。

みんなが不安なく、健康に暮らせる世界を目指したい

清水氏:シンプルにいうと、医者をなくしたい。これはちょっと極端な言い方で、もちろん医者は必要です。ですが、例えば生活習慣病のようなものは、本来であれば日頃から生活に注意していれば医者にかかる必要はありません。体調に合わせて食事の内容が自動的に変えられて、自分では普通に好きなものを食べているだけなのに、いつの間にか健康になっているような、医療を意識しない医療を実現していきたいです。定期的に病院で診察を受けることもなく、日常的に取っているデータが勝手に分析されて、自分の生活が自然によりよく変えられていく。そんな世の中にしたいですね。

――頑張ってダイエットとかするより、知らないうちに痩せられたら嬉しいですよね

清水氏:近頃はサイレントキラーと言われている血圧サージ(血圧が瞬間的に急上昇し、血管に大きな負担がかかっている状態)も注目されていますが、1週間入院してひたすら血圧だけ測定するという検査はなかなか大変です。医者にかからないと病気かどうか分からないので、不安を感じている人は多いのではないでしょうか。また、在宅療養している方も、容体の急変するリスクがあります。そういう方たちが安心して暮らせるためのサポートができればと思っています。

形状試作を繰り返したという3Dプリンターの前で

AKIBAより一言

清水さんは随分前からご挨拶する仲でしたが、これまでプロダクトの詳しいご説明を伺う機会がありませんでした。先日、何気なく話しかけたところ、「(自分が)地味なので、キラキラしたスタートアップになるにはどうしたらいいか」という本気か冗談か分からない相談?をされました。「清水さんはさわやかだし、充分キラキラ感ありますよ」と忖度しつつ、今のプロトタイプはミニマムなデザインが素敵ですが本当にミニマムなので、「プロダクトをLEDで光らせたらどうか」と、かなり頭の悪い結論をみんなで押し付けたりして、後からちょっとだけ反省しました。それで今回、知られざる清水さんとArbretの魅力とポテンシャルを可視化すべく、インタビューを敢行したという訳です。LED光ってなくても、不摂生をなかったことにしてくれそうなArbretのプロダクトは素晴らしいですし、清水さんはキラキラしてます。とてもキラキラしてます。大事なことなので2回言いました。この記事も、清水さんのキラキラしたスタートアップ感が醸し出せていたらいいなぁ、と願いつつ。

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