MAKERS #36「TAMILAB 田宮 興」――スケートボードを生まれ変わらせ、今までにない新しい靴べらブランドを目指す

MAKERS #36「TAMILAB 田宮 興」――スケートボードを生まれ変わらせ、今までにない新しい靴べらブランドを目指す

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2019/04/24
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・越智岳人)

靴べらというと、どのようなイメージを持たれるだろうか。居酒屋の座敷の入り口に置かれた長めのものや、ポケットに入る携帯サイズのものなど、使う機会はあるのだが、あくまでシンプルな実用品として見ている人も多いだろう。
その靴べらに頑固なまでの拘りをもち、一本一本手作りのオリジナル靴べらを作っている田宮氏は、ハードウェア・スタートアップが集うDMM.make AKIBAにあって異色のクリエーターといえるだろう。スケートボードの板を素材に、カラフルな合板を削って仕上げた靴べら「TAMILAB」は、オンリーワンの美しさを見せてくれる。元AKIBAのフロアスタッフでもある田宮氏に、お話を伺った。

<プロフィール>
田宮 興 (たみや こう)
1993年神奈川県葉山町出身。東京工芸大学 芸術学部インタラクティブメディア学科卒業。
在学中に制作したLasercut Guitarが、海外物作りサイト「Thingiverse」で全世界7500ダウンロードを記録。卒業制作展に出展したVice Guitar Project(ネックとボディが存在しない新しいギター)で学科賞を受賞する。大学卒業後、合同会社DMM.comに入社し、DMM.make AKIBAに勤務。2015年および2016年、Maker Faire Tokyoに「デジファブギター工房」として出展する。制作に専念するため、2019年よりフリー。ストリートカルチャーとパンクロックが好き。

TAMILAB
https://www.tamilab.net

――手にされているのは、靴べらですよね。かなり変わったデザインですが、どのようにして制作したものですか?

田宮氏:私が作っている靴べらは、スケートボードの板を加工して制作したものです。スケートボードの板ならではの特性を活かし、デザインや利便性を追求した、今までにない新しい靴べらを作る活動です。この靴べらは、スケートボードらしさを全て残すことで新しい付加価値を与えています。

素材にしたスケートボードのグラフィックを敢えて残している

――スケートボードの曲りを靴べらのデザインに利用していますね。一品一品手作りされているのでしょうか。

田宮氏:スケートボードの板は、7枚のカナディアンメープルの薄板を貼り合せたプライウッド(合板)で出来ています。1枚の板から5本の靴べらが取れるように切断し、先端部をへらのように削っていくと、中から模様が現れてきます。

――これは他にないオリジナルのアイデアですね。靴べらに着目されたきっかけは?

田宮氏:4~5年前は、まさか自分が靴べらを作る人になっているとは、まったく想像できませんでした。当時一人暮らしをしていたアパートの玄関が狭くて、荷物を背負ったまま靴を履くのに苦労していました。その時に「靴べらが欲しいな」と思ったのですが、ふと部屋に使われていないスケートボードの板があり、これを削って作れないかなと思いついたのがきっかけでした。

その頃はDMM.make AKIBAのフロアスタッフだったので、仕事が終わった後などに10Fの機材を使って制作を始めました。

――木工の心得はあったのですか?制作にはどれくらいの期間かかりましたか?

納得のいく形になるまで試行錯誤を繰り返す

田宮氏:結構難しかったですね。現在の形状になるまで4回作り直しています。私は木工の学校に通ったわけではないし、木工の勉強をしてきたわけでもないので、加工は独学で始めました。

DMM.make AKIBAのテックスタッフには、木工をやってきた方や、いろいろな開発に関わってきた方がいますから、素材に応じた加工ができます。テックスタッフの方にいろいろと制作のアドバイスをいただきました。

カナディアンメープルの合板を使ったスケートボード。薄く削ることで染色された板がきれいな模様を生む

田宮氏:特にへらの部分ですが、リサイクルの板を使っているので、1本1本の形状が元の板の形状によって左右されてしまいます。できるだけ統一されたデザインで、かつ履きやすい、使い易いデザインにするまで、ちょっと苦労しました。

――すべて手作業で一本一本制作されているとのことですが、どのような機材を使って、どれくらいの時間で制作されているのでしょうか。

田宮氏:主にバンドソーと、ベルトサンダーです。へらの部分はベルトサンダーで大まかに削り落とした後に、手でやすりをかけて滑らかに仕上げています。

板の状態から1本作るのに、塗装の乾燥時間を除いて、1.5時間くらいです。1枚のスケートボードから5本のくつべらが取れますが、場所によって形状が違うので、同じものは1本もありません。それがウリでもあるのですが、大量生産するための治具が作れないため、全て手作業になります。

――元はDMM.make AKIBAのフロアスタッフだったわけですが、敢えて独立されて、改めて施設の会員となって制作されている理由を教えてください。

仕事とプライベートでは、しっかり気持ちを切り替えたかった

田宮氏:始めはアルバイトだったのですが、1年後に社員に登用されました。正社員となることでDMM.make AKIBAが自分の「仕事場」という意識が強くなってきて、仕事と制作を両立させることが気持ちの上で難しくなってきました。

仕事の合間に制作していたものが、少しずつ周りから評価されるようになってきました。施設で働き始めて4年近く経った2019年1月に独立し、本格的にチャレンジを始めました。

――独立していかがですか?

田宮氏:あまり貯金をしてこなかったこともあり、ちょっと勢いに任せて独立してしまったので少し苦労しています(笑)でも時間ができたことで、いろいろな店舗や知り合いのところに売り込みにいったり、営業をかけたり、今後の展開について打ち合わせができるようになったのは良かったです。

独立することで見えてきたことも多い

田宮氏:施設には、自分がこれまで使ってきた機材がありますし、機材のメンテナンスもすべてやってもらえます。制作についていろいろアドバイスをいただける会員さんやスタッフがいます。自分の作品は施設でメインに活動されているIoTスタートアップとは全然ジャンルも違いますが、逆に違うジャンルの人の目線からの話が聞けるのは貴重だと思っています。自分の中で、DMM.make AKIBAで作業することのメリットがとても大きいので、独立してもこの施設を中心に活動していこうと思っています。

――ビジネス面ではいかがでしょうか。

田宮氏:最初に靴べらを作り始めた頃は、あまり販売は考えていませんでした。靴べらのプロトタイプをFacebookにアップしたところ「欲しい」という声が多かったこともあり、チャレンジしてみようと考えました。DMM.make AKIBAで個人でビジネスしている方たちに、刺激を受けたというのもあります。

一番最初のプロトタイプから、実際に販売するまで1年かけてブラッシュアップしました。初めの頃の反響が大きくて、ショップさんがまとめて30本とか購入してくれたり。これまで200本ほど制作して、100本ほど売れました。残りの在庫はショップの店頭と展示用に保管してあります。

試行錯誤を重ねながら、200本をすべて手作りで制作してきた

――この靴べらのターゲットユーザーは?
田宮氏:購入いただいているのは、20歳半ば~50歳の男女です。スケートボードが好きな人だけではなく、昔スケートボードをやっていた人とか、ちょっと変わった雑貨が好きな人にも興味を持ってもらいたいと思っています。

――この靴べらを軸に、どのようにビジネスを発展させるお考えですか?

田宮氏:いろいろなグラフィックや形を揃えて量産してみたいですね。今はユーズド品を使っていますが、スケートボードの生産ラインで一緒に製造するということも挑戦してみたいです。また、自分のボードに思い入れがある方のために、自分のボードを加工するというカスタムオーダーを受けることに力を入れていきたいと考えています。他にも、身の回りにおける小物を同じコンセプトで加工したり、少しずつプロトタイプを手掛け始めています。

ギターの表板にスケートボードの端材を張り付けた作品。市販予定はないないとのこと

AKIBAに入居するスタートアップに刺激をうける

田宮氏:施設のスタッフとして色々なスタートアップを見てきて、自分も負けないぞという気持ちでやっています。スタートアップは、プロダクトにかける情熱がとてつもなく高くて、寝る間も惜しんで熱中して制作や開発を行なっています。ある意味、大学の制作展が間近に迫って追い詰められているような昂揚感が常にあって、自分もスタートアップの制作スピード、展開スピードは意識して、見習いたいと思っています。

――TAMILABというブランドにかける想いを聴かせてください。

田宮氏:コツコツとずっと続けて、「TAMILAB」が作る靴べらが口コミで徐々に広がって、いつの間にか皆が知っているようなブランドになっていたらいいなと思っています。

実は、最初に販売したときに、知人のショップオーナーからつながったのが大きなセレクトショップのバイヤーで、その方の人脈を通して雑誌「POPEYE」で紹介していただきました。若いクラフトマンの特集だったので、タイミングも良かったです。その時、大きな影響力のある人やメディアに認めてもらえる物を作れているという自信を得ることができました。

――反響は大きかったですか?

田宮氏:今まであまり興味を持っていなかった人達とか、「田宮、靴べら作ってるらしい」くらいに思っていた人たちが、雑誌に掲載されたり、セレクトショップに置いてもらっているのをみて、「ちゃんとやっているんだ」と認めてくれたのは嬉しかったです。営業をかける上でも、説得力が強まりました。

――最後に今後やりたいことを教えてください。

田宮氏:靴べらというと、オジサンぽいイメージもあるのかなと。私は、若い人も欲しがるようなデザインの靴べらを作ることで、TAMILABが靴べらの魅力を新たに見出し、今までにない靴べらブランドとして認知してもらえれば、と思っています。

世界に通用する靴べらブランドを目指したい

海外の有名ブランドやスケーターとコラボできたら最高だと語る田宮氏

田宮氏:自分としての目標は、海外のスケートボードブランドやシューズブランドとコラボしたデザインの靴べらを作れたら、と思っています。いつか有名ブランドに認められ、世代問わず誰もが生活の中で必要とするマストアイテムになったら最高ですね。たくさん量産して利益を得ていくというよりは、私の作った靴べらが世界でどこまで通用するのかを見たいです。

自分で1年間チャレンジしてみるという期間を決めています。なので、今年の夏の終わり頃を目処に海外で販売を始めるなど、何かの形でアピールできればいいなと考えています。

いつも作業に使っているエアツール

AKIBAより一言

送別会をした翌日から、会員としてStudioで作業していた田宮くん。DMM.make AKIBAのスタッフが、プロダクトを開発してクラウドファンディングにトライするというような事例は他にもありますが、アルバイトから正社員に登用されたスタッフがDMM.comを辞めて起業したのは初めてのことでした。起業家やクリエイターだらけのこの職場環境が彼にどのような影響を与えたのか聞いてみたいと思い、今回のインタビューを実施しましたが、とりあえず、きちんと営業努力を重ねている様子が垣間見れて少し安心しました。なぜかって、勢いで独立して経済的にはまあまあ無計画だったようで、お金がない!とか、靴べらが売れたので飲み会に参加できます!とか、いつもギリギリな感じがとても微笑ましいです。若さで乗り切ってください。走れるところまでひたすらに走って、その先に見えたものが、彼の大いなる財産になるのではないかと思っています。

[ DMM.make AKIBAについて]
株式会社DMM.comが運営する「DMM.make AKIBA」は、ハードウェア開発・試作に必要な機材を取り揃えた「Studio」、シェアオフィスやイベントスペースなどビジネスの拠点として利用できる「Base」で構成された、ハードウェア開発をトータルでサポートする総合型のモノづくり施設です。

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