MAKERS #37 「ロボティクス・ファッション・クリエイター きゅんくん」――時代の先を見られるエンジニアを目指して

MAKERS #37 「ロボティクス・ファッション・クリエイター きゅんくん」――時代の先を見られるエンジニアを目指して

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2019/05/29
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・越智岳人)

おそらく世界に1人しかいないであろう「ロボティクス・ファッション・クリエイター」のきゅんくん。2014年のウェアラブルアームロボット「失楽園」の発表を皮切りに、ファッションとして着用するロボットを次々に発表、新たな時代を担うクリエイターとして大きな注目を集めている。
そのきゅんくんは、DMM.make AKIBAを活動の拠点とし、コネクティッド・ロックを開発するスタートアップ株式会社tsumugに「メカニカルエンジニア 松永夏紀」として参加している。クリエイターとエンジニア、2つの素顔をもつ彼女にお話を伺った。

<プロフィール>
松永 夏紀(まつなが なつき)

ロボティクス・ファッション・クリエイター きゅんくん
1994年東京都出身。機械工学を学びながらファッションとして着用するロボットを制作している。

高校生の頃より「メカを着ること」を目標にロボティクスファッションの制作を続け、2014年よりウェアラブルロボットの開発を進めている。2015年テキサス「SXSW2015」にてウェアラブルアームロボット「METCALF」発表。同年 オーストリア「Ars Electronica Gala」招待出演。2016年ウェアラブルロボット「METCALF clione」を発表。同年 AKB単独公演にて「METCALF stage」を3台稼働。DMM.make AKIBAスカラシップ生

――きゅんくんが、DMM.make AKIBAに来るようになったきっかけを教えてください。

きゅんくん:今日のインタビューのために、過去のインスタをみて年表を作ってきたんです。

――ありがとうございます!分かり易くて助かります。これによるとDMM.make AKIBAの設立前からモノづくりに関わっていたということですね。

<年表>
2014年
7月 :きゅんくんにとって初のウェアラブルロボット「失楽園」を発表
8月 :GugenのハッカソンHiramekiに参加。LEDの光り方を共有するシステムを提案し優勝
10月:東京デザイナーズウィークで「2nd process to union」を発表
11月 :DMM.make AKIBA オープンとあわせて、nnfを通じて利用を開始
   :MFT非公式アフターイベント「秋葉原メイカーズ倶楽部」にて「MEME NOISE ATTACK」を披露


2015年
3月 :SXSWのDMM.make AKIBAブースに参加。展示に合わせてウェアラブルロボット「METCALF」を発表
  
2016年
1月 :karakuri productsのプロジェクトに参加
3月 :「METCALF clione」を発表。AKBの衣装として「METCALF stage」を発表
4月 :DMM.make AKIBAのスカラシップに


2017年
1月 :CES 2017に展示する、株式会社tsumugのモックを開発

2018年
1月 :CES 2018に株式会社tsumugとして出展
4月 :京都造形芸術大学 超域プログラム 小笠原 治 ラボに入学
9月 :ロボット学会のシンポジウムで講演。
   :それをきっかけに国際電気通信基礎技術研究所エージェントインタラクションデザイン研究室室長 塩見昌裕氏に研究をみてもらうことに


2019年
1月 :CES 2019に株式会社tsumugで、J-startupパビリオンに出展

きゅんくんがDMM.make scholarshipに採択されたのは2016年だが、実は施設設立時からの初期メンバー

きゅんくん:はい、施設のオープン前のことですが、2014年8月にGugenのハッカソン「Hirameki」というイベントがあって、そこに「LuminouShare」というチームで参加しました。スマートフットウェア「Orphe」を開発したno new folk studio(nnf)の前身とも言えるチームで、LEDの光り方をWebサ-ビス上で共有し、かっこいい光り方をダウンロードしたり、アップロードできたりする仕組みを提案して、優勝することができました。

no new folk studioへの参加

そして菊川さん(nnf創業者兼CEO 菊川裕也氏)が会社を立ち上げた頃、DMM.make AKIBAという施設ができ、そこを拠点とすることを聞きました。私も当時nnfをお手伝いしていたこともあり施設がオープンする少し前から使っていました。当時12FでLEDの半田付けなどの作業をしていた時、小笠原さん(ABBALab代表取締役 小笠原治氏)から、「ちゃんとDMM.make AKIBAとしての使い方をしてくれる人がオープン前から来ているね」と、声をかけてもらったことを覚えています。

――DMM.make AKIBAの真の初期メンバーの1人ですね。

きゅんくん:2014年11月に、Maker Faireの非公式アフターイベント「秋葉原メイカーズ倶楽部」が初めて行われました。そこで「MEME NOISE ATTACK」という、お客さんがTwitterで色の名前をつぶやくとスクリーン上のモンスターに攻撃ができるリアルタイムバトルができるライブイベントを実施しました。ちょうど施設がオープンした頃で、ずっとこのイベント用の制作作業をしていました。

https://youtu.be/amwD7QTAfqQ

MEME NOISE ATTACK【TORIENA×きゅんくん×LuminouShare】―2014年11月24日「秋葉原メイカーズ倶楽部」

当時はDMM.make AKIBAの施設利用のルールがまだ定まっていなくて、ライセンス制度もありませんでした。なので、10Fで「あのミシンが使いたい!」って言って、テックスタッフの人に教えてもらいながら一緒に作業したり。寝袋で寝ていて、怒られちゃったこともあります。他にも、深夜にゲストを呼んで徹夜で作業したりとか、今ではルールで禁止されていることも、当時は、やりたい放題でした(笑)

――施設で寝たというのは、nnf金井さんのインタビューでも聞きました(笑)DMM.make AKIBA初期メンバーあるあるですね。当時から徹底的に施設を使い倒す方が多かったですね。

SXSWで、ウェアラブルロボット「METCALF」発表

きゅんくん: 2015年3月に、DMM.make AKIBAでチームを組んで、アメリカのテキサス州で開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に参加しました。そこで初めてウェアラブルロボット「METCALF(メカフ)」を発表しました。それ以前に東京デザイナーズウィークでアームロボット「2nd process to union」を発表していましたが、 DMM.make AKIBAの設備を使って制作したのはMETCALFが最初です。METCALFのフレームは、10FにあるCNCを使って切削して作っています。

https://www.youtube.com/watch?v=fnXlTWzGjpQ

「METCALF clione & METCALF」PV

ロボットスタートアップkarakuri productsとの出会い

きゅんくん:2015年末に開催された国際ロボット展で、板金で多脚ロボットを作っている人がいることを知り、とても興味を持ちました。そこで当時DMM.make AKIBAに関わっていたプロデューサーの方を通じて、制作者の松村さん(株式会社karakuri products代表取締役 松村礼央氏)に連絡をとって、彼のプロジェクトのお手伝いをさせてもらえることになりました。これもDMM.make AKIBAを通して生まれた、人とのつながり、出会いだと思います。

2016年3月に「METCALF clione」というアクリルタイプのロボットを作って発表し、続けてAKB48単独公演のステージ衣装として使われた「METCALF stage」を発表しました。

その頃にnnfの手伝いから離れることになったのですが、そうすると施設内に自分のロボットを置いておく場所がなくなってしまったんです。場所に悩んで作業スペースとして12Fのエレベーター横のトイレ、あの裏手になる窓際のスペースを使い始めました。そこを溜まり場にしている人たちの「便所裏」ってグループがあったんです。そのスペースにこっそり自分のロボットを便所裏に置いておいたら、やっぱり注意されました。事情を話すと、TeamRoomに入居していた青木さん(現・Cerevo代表取締役 青木和律氏)から自分の契約しているTeamRoomを使いなよと誘われて、自分のPCを置いて作業できる環境にしていただきました。

思い出深いDMM.make AKIBAの「便所裏」にて。

それがきっかけで、青木さんと一緒にコネクティッド・ロックを開発するスタートアップtsumugの仕事も手伝うようになりました。tsumugのコネクティッド・ロックのプロトタイプを作り、CES 2017に出展するため、生体認証で開けられるモックアップの設計をやりました。

人との繋がりを通して仕事の幅を広げていく

――DMM.make AKIBAに集う人達を通して、やることの幅が次々に広がっていったわけですね。

きゅんくん:それまで自分が知らなかった分野について、知ることができました。知ることで、そこに興味を持てたらそこに突っ込んでいけば良いですし。

2019年4月には、京都造形芸術大学の小笠原治ラボに誘われて、通信講座で大学院に入りました。日本ロボット学会学術講演会のオープンフォーラムで講演させていただいたことがありました。その際に他の方の講演も聴いていたのですが、特にATRの塩見さん(国際電気通信基礎技術研究所エージェントインタラクションデザイン研究室室長 塩見昌裕氏)という方の講演がとても興味深かったので、karakuri productsの松村さんを通して塩見さんを紹介して頂き、今はATRの連携研究員として私の研究も見て頂いています。

クリエイター、エンジニア、そして研究者に

――クリエイター、tsumugでのエンジニア、大学院生という3つの大きな活動の柱があるわけですね。

きゅんくん:これまで、作品としてウェアラブルロボットを発表して、いろいろな人に着用してもらい、その感想を聞いていましたが、そこで終わっていました。感想を聞くだけではもったいないと感じ、きちんとデータにして結果として残したい。研究として深めていきたいと思っています。これまでクリエイターとして発表していたものを、研究テーマに繋げていきたいです。

――エンジニアとしてはいかがでしょうか。

きゅんくん:tsumugでは、今後量産する製品の板金の設計と筐体の設計をやらせてもらっています。これまでクリエイターとして1点物を作ることは出来ていましたが、量産品は作り方が全く違っていて、作ることができなくて、もどかしく感じました。同じ板金のように見えても試作と量産とでは設計の仕方が全然違うので、いかに組み立て易くするとか、ネジの本数を少なくするとか、勉強になることが多くて楽しいです。

――ロボットに関してはどうですか?

きゅんくん:ロボットとエンジニアは分けています。tsumugでは、私が回路設計の仕事をやりたいな、と思えば、回路設計の仕事をお手伝いさせてもらえる環境にあります。スタートアップで、人を育成する余裕のある会社は少ないと思いますが、tsumugにいられることはとてもありがたいと日々感じています。結構やりたいことをやらせていただいている感じです。

大学では機械工学を専攻していたので、知らないことはDMM.make AKIBAで出会った人の中で、それぞれの分野に長けている方々にレビューしていただいたりしています。例えば回路設計はCerevoの齊藤さん(Cerevo開発管掌役員 齊藤亮輔氏)にレビューしていただいたりしています。

――クリエイターとエンジニア。自分としてどちらがメインだとお考えですか?

きゅんくん:その時々で変わります。私はマルチタスクがすごく苦手で、交代でやることにしているので、ここ2、3年くらいはエンジニアの松永をやっています(笑)

今は、エンジニアとして学んだ技術を使って、研究に役立てていこうと思っています。作品を研究として考え直したもので、得られた結果を一度並べた上で考え直し、そこからまた何か作品を作ろうと思っています。これを修士論文として、今年10月の中間発表を目指して研究を進めています。

当面はtsumugでエンジニアをしながら、研究を続けたいです。ひとつのテーマでやってみたい実験がたくさん出てきたので、もうちょっとこのままやりたいなと。これまではあまりやってこなかったソフトウェアについても、研究のために勉強を始めています。

TeamRoom前。大きなトランクにはロボットが入っている

――現在は10Fのtsumugのプロジェクトルームに詰めているとのことですが、DMM.make AKIBAの居心地は?

きゅんくん:ほぼ毎日来ていますが、居心地はいいですね。ここでは、自分がどこに所属しているではなく、何をやっているかで話ができます。年齢も関係なく、フラットで過ごしやすいのかな。

――この先の目標を教えてください。
少し先の将来を見ながら、一段一段階段を上り、社会に関わっていきたい

きゅんくん:まずは修論をちゃんと書くことと、tsumugで量産デバイスを完成させること。あと、来年の夏にかけて私にとって大きなイベントがあるので、それに向けた作品の準備ですね。自分の研究を修論としてまとめ、次のステップとしてクリエイターと研究を繋げるような展示を考えています。

将来的には、エンジニアでご飯が食べていきたいなと。でもエンジニアとしての私は、目の前の事だけを見ることが多いので、クリエイターとして少し先を見ながら、社会に関わり続けたいと思っています。遠くを見ることと、近くを見ることが交互に出来ると、より良いものが作れるのかなと思っています。

クリエイターとしてのきゅんくんは、休み休み続けていきます。エンジニアとして技術をインプットし、研究を続けながら、少しずつ階段を上っていきたい。私の活動の中心はずっとDMM.make AKIBAにあるので、ここは末永く続いていって欲しいです(笑)

AKIBAより一言

クリエイターとしてエンジニアとして、技術力に裏打ちされた表現力で自分の世界を構築しているきゅんくん。メディアで見るきゅんくんはクールな印象ですが、実際に会ってお話しすると、人懐こい笑顔に心が和みます。いつでも自分の言葉で話す姿勢、まっすぐな視線にハッとさせられることが多く、思わず自分を省みたりするのでした。
さて、DMM.make AKIBAがオープンした当時、ハードウェア開発環境を兼ね備えたスタートアップの拠点という世界でも類を見ない、いわば前例のない施設の運用は手探りでした。今でこそ、運用やルールが整備されていますが、当初は会員とともに作り上げていこう!という開き直りのような状態だったため、ほぼ無法地帯ゾーンも存在したことも事実です。きゅんくんはno new folk studioのメンバーとして、オープン時からDMM.make AKIBAを使い倒した猛者の1人ですが、no new folk studioのCTO金井さんのインタビューと同様、当時のカオスがフラッシュバックするお話を聞けて、何とも感慨深い気持ちになりました。
これからもDMM.make AKIBAのすべてを使い倒して、世界にインパクトを与え続けてくれることを楽しみにしています。

[ DMM.make AKIBAについて]
株式会社DMM.comが運営する「DMM.make AKIBA」は、ハードウェア開発・試作に必要な機材を取り揃えた「Studio」、シェアオフィスやイベントスペースなどビジネスの拠点として利用できる「Base」で構成された、ハードウェア開発をトータルでサポートする総合型のモノづくり施設です。

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>>DMM.make AKIBA 公式Facebookページ

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