MAKERS #38 「インダストリアルデザイナー 中田邦彦」――多様性を包み込む「包摂的」なプロダクトを探求

MAKERS #38 「インダストリアルデザイナー 中田邦彦」――多様性を包み込む「包摂的」なプロダクトを探求

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2019/06/26
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・田中佑佳)

ハードウェア・スタートアップが集うDMM.make AKIBAには、製品デザインを手掛けるプロダクトデザイナーも多い。特にスタートアップを中心に活動する場合、製品デザインのみならず、量産化を意識した設計から販売時のブランディング、プロデュースまで広く手掛ける力量が求められるという。
今回は、施設設立と同時期に株式会社Cerevo(セレボ)にプロダクトデザイナーとして参加、現在は家電ベンチャー株式会社UPQ(アップ・キュー)のチーフプロダクトデザイナーとして活躍する一方、NPO法人Mission ARM Japanで上肢障がい者向けのプロダクトデザインも手掛けるインダストリアルデザイナー 中田邦彦氏に、お話を伺った。

<プロフィール>
中田 邦彦(なかた くにひこ)
インダストリアルデザイナー。2010年より大阪のデザイン事務所に勤務。家電から文具、日用雑貨まで幅広い工業デザインに携わる。2015年家電ベンチャー株式会社Cerevoに入社、自社製品の製造開発と新規事業の立ち上げを経験したのち、2017年に独立。製品単体のみでなくブランディングまでを含む、企画からデザイン・量産・販売に至るまでをデザインを軸にサポートしている。

https://nakata.co/

――プロダクトデザイナーになったきっかけを教えてください

中田氏:大阪出身で地元の工業大学を卒業して、2010年にそのまま大阪のデザイン事務所に就職しました。その後2015年頃、ちょうどDMM.make AKIBAがオープンした頃に東京に出てきて、Cerevoに転職しました。デザイン事務所ではエンジニアリングの部分は外に出しますから、デザイナーとしての仕事だけでした。それよりも、自分も製品を作る側の立場でデザインに関わりたいと思ったのがきっかけです。

製品を作る側の立場でデザインに関わりたいという想いからスタートアップに参加した

――デザイン事務所を辞めてスタートアップに入ることに迷いはありましたか?

中田氏:特に迷いはなかったですね。それよりも、自分たちの力でモノを作りたい、チャレンジしたいという想いが強かったです。

自分たちの力でモノづくりを、という想いからCerevoに参加

中田氏:Cerevoでは、他のスタートアップと一緒に新しい製品を立ち上げる業務が中心でした。他の会社と業務を進めるという点では、最初のデザイン事務所の経験が生かせました。


――実際にスタートアップに参加されて、いかがでしたか。

中田氏:正直に言って、イメージしていたよりしんどかったですね(笑)一般の家電メーカーには、これまで何十年もかけて積み上げてきたものがあります。もちろんCerevoにも家電メーカーで経験を積んできた人もいますが、会社そのものの経験値は浅い。経験値のない段階から他のメーカーとやらなければなりませんし、ユーザーさんの話を聞きながら、自分達のエンジニアリングもやって、製品を短期間で発表しなければなりません。行ったり来たりが大変で、作業量2倍みたいな感じです(笑)

1つのハードウェアを開発するときデザイナーとして、様々なエンジニアとの間で会話を繰り返しながら、良いものを作り上げることが大切です。ただ、スタートアップだとどんどん新しい製品を出していかなければなりませんから、平行して作業する必要があります。自ずから外観デザインと量産を意識した設計を心がけるようになりました。今の仕事のスタイルもその延長線上にいますので、Cerevoでの経験が生きています。


――Cerevoから独立されたきっかけは?

中田氏:Cerevoには1年半くらい在席した後、2016年10月に独立しました。プロダクトデザイナーなので、業界的にもキャリア的にも独立することをもともと考えていました。1年半かけて、自分がCerevoで出来ることはほぼ1周したなと感じたこととちょうど社員が20人から100人くらいへと規模が大きくなりオフィスが移転するタイミングだったこともあり、一旦外に出てみようと。

施設の会員であれば、これまでのように他のスタートアップのお手伝いにも関われること、また自分の仕事がもっと客観的に見えると考えて独立しました。

AKIBAでは、人との繋がりや雑談から仕事が生まれることが多いという

中田氏:DMM.make AKIBAでは、雑談レベルの相談からはじまって、簡単な意見交換をして、だんだんとボリュームが大きくなってきたら仕事になっていくという感じでしょうか。ここにオフィスがあると「こんなの作ったよ」とか「今これやっているよ」とか、気軽に持ち寄ってモノをみて話せるので、広がりやすいです。

プロジェクトに参加するときは、まず話を聞くことを大切にしています。スタートアップの方たちは、自分の製品に対して思い入れがあります。それをしっかりと聞く。この回数を重ねていくと、次にユーザーさんが見えてくる。事業を抱えている人達の想いを聞いて、その先のユーザーさんの想いもすくい上げるといったことを大切にしています。


――UPQでのお仕事について教えてください

中田氏:これは、卓上フードスモーカー「REIKUN-Dome(レイクン・ドーム)」です。企画段階から代表の中澤さん(UPQ代表取締役 中澤優子氏)と話をして、まったく何もないところからいくつもスケッチを描いて、意見交換するところからスタートしました。

数年前から燻製がブームになっていますが、何日もかけて保存食を作るような本格的なスモークではなく、もうちょっとライトなところにニーズがあるんじゃないかと。部屋の中でも燻製ができれば面白いし、刺身の残りに燻味をつけてお酒のつまみにすれば、フードロスも減らせます。

食品は加熱せず、上から燻煙を落とすことで手軽に燻味(くんみ)をつけるREIKUN(冷燻)。煙が落ちる様子を見るのも楽しい

中田氏:UPQらしい「手に取ってみたい、使ってみたいと思えるもの」を目指して、デザイン・試作設計に携わりました。現在は量産化に向けて準備を進めているところです。実際に工場と話を始めるとデザインを変える必要も出てきますが、全体のデザイン性を損なわないようにプロデュースするよう心掛けています。量産化と並行して、家電量販店さんに置いてもらうためのチラシや、展示ブースのデザインなども考えています。

モノづくりだけに留まらず、ブランドデザインまで考える

中田氏:単純に製品だけを作るんじゃなくて、そこからブランドのデザインをどうするのか、をしっかり考えたいですね。例えば、カタログの写真やWebサイトのデザインなど、その製品をどのように発信していくのかを考えたい。

自分が直接手を動かす部分もそうでない部分も含めて、全体をプロデュースし、トータルなブランディングを提案させていただいています。


――DMM.make AKIBAはどのように利用されていますか?

中田氏:プロダクトデザイン自体は、CADソフトがあるのでPCがあればどこででも出来ますから、施設は普段の作業スペースとして利用していますね。デザインが出来上がってからの試作品は工場に発注するのですが、デザインを検討しているときに、まず手で形にしてみるとか。

人と交流すること、形にし始めることをDMM.make AKIBAで行なっている

DMM.make AKIBAでコクヨデザインアワード出展作品のプロトタイプを作る

中田氏:コクヨ株式会社が主催するコクヨデザインアワード2018で、「白と黒で書くノート」が優秀賞を頂きました。このノートのプロトタイプを、DMM.make AKIBA のStudioにあるUVプリンターを使って制作しました。

コクヨデザインアワード2018 最終審査レポート
https://www.kokuyo.co.jp/award/archive/prizepast/2018/gp/

コクヨデザインアワード2018で優秀賞を受賞した「白と黒で書くノート」

これは、地が灰色のノートで、紙の色に対して暗い色の文字と明るい色の文字は同時に読みにくいという視覚の性質を利用しています。黒い文字を読みながら白い文字へ目を移す時、視覚のスイッチを切り替える必要がありますが、背景より明るい文字は視覚のスイッチが切り替わり易いので、例えば学習用に年号など重要な情報だけを白色で書いて、テスト範囲ではないような情報を黒色で書いて、テスト直前に白の文字だけを読み込んでいくような使い方ができます。さらに白と黒を使って光と影を描いたり、視覚が持つ境界を利用することでノートの新しい使い方を提案できます。

また、色弱の方にも見て頂いたとき、青や赤と黒よりも、白と黒のほうが見分けやすいことも分かりました。

Mission ARM Japanに参加、上肢障がい者向けのプロダクトをデザインする

――MAJで制作されたプロトタイプもご持参して頂きました

中田氏:これは「片手でも遊べる剣」です。健常者の子と片手の子が一緒に遊べるように、片手だけを使うというルールで遊びます。

「片手でも遊べる剣」。剣先のベルクロで、相手の柄にあるマーカーをくっつけて取ったら勝ち。

中田氏:これは、施設のレーザーカッターなどを使って試作しました。子どもは簡単に引っ張って壊したりしますから、原理試作をすぐに作れる環境として施設の設備を重宝しています。

これはMJAに参加している義肢装具士さんのアイデアで、最初は100均のおもちゃの剣を使っていたのですが、施設の設備を使ってここまで仕上げました。今後、製品化の方向性を探るところをお手伝いしています。MAJでは、義肢装具士さんと上肢障がい者の当事者さん、僕らのようなデザイナーやエンジニアが集まって意見交換をする中から、こういうプロダクトが生まれています。

「片手で飛べる縄跳び」。片手でバーの中心を持ち、縄跳びができる

中田氏:これは「片手で跳べる縄跳び」です。バーの真ん中を持つことで片手でも跳べるようにしました。実際に小学1年生の子に使ってもらったところ、100回くらい跳べるようになって、二重跳びも出来るんです。僕はうまく跳べません(笑)

MAJでは、自分の普段の生活では思いつかないことや、新たな気付きがあります。当事者さんの声を聴くことに時間をかけて、欲しいと思ってもらえるプロダクトに仕上げていこうと思っています。

多様性(Diversity)と包摂(Inclusion)

――最後にプロダクトデザイナーとして大切にしたいことを教えてください。

中田氏:モノを作る上で大切にしたいのは、「包摂(ほうせつ:Inclusion)」という言葉です。最近ではようやく多様性(Diversity)という言葉が社会的に広まり、認知されてきたと思います。いろいろな価値観の人がいて、皆で一緒に社会を作っています。その中では、片手だけということも色弱も多様性の1つです。もちろん身体的なことでなくとも、いろいろな多様性があると思います。それらを広く包み込むという意味で包摂的なデザインが出来れば良いなと思っています。

「白と黒で書くノート」をプロトタイプしたUVプリンターの前で

編集後記

彼の普段の仕事ぶりをみていると、いい意味で「仕事好きの変態なんだなぁ」と感じることがあります。よいプロダクトを世に出すために、ただデザインを考えるのではなくそれをきちんと相手に伝えるには何が必要なのか、どういったアプローチが求められているのかを考え、必要な要素を作り上げていく様子は驚きと尊敬と大きな学びをこちらも得ることになりました。

また「包摂」というテーマは人のことを見て、バランスをとれる彼にはぴったりの言葉だと感じました。DMM.make AKIBAという場を中心にどんどんとデザイナーとしての活躍の場を広げていく彼を、スタッフ一同応援していきたいです。

[ DMM.make AKIBAについて]
株式会社DMM.comが運営する「DMM.make AKIBA」は、ハードウェア開発・試作に必要な機材を取り揃えた「Studio」、シェアオフィスやイベントスペースなどビジネスの拠点として利用できる「Base」で構成された、ハードウェア開発をトータルでサポートする総合型のモノづくり施設です。

>>DMM.make AKIBA ホームページ
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●DMM.make AKIBAに関するお問い合わせ
https://akiba.dmm-make.com/form/media/index

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