MAKERS #39 「アーティスト スクリプカリウ落合安奈」――日本とルーマニア、2つの母国をもつ現代美術家

MAKERS #39 「アーティスト スクリプカリウ落合安奈」――日本とルーマニア、2つの母国をもつ現代美術家

DMM.make AKIBA
DMM.make AKIBA (ID4043) 公認maker 2019/08/01
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このコーナーでは、DMM.make AKIBAを拠点に活躍しているメイカーズにインタビュー。
モノ作りをしている方々の仕事内容や、技術に関するホットなトピック、そしてオフィス内の制作環境を中心に御紹介。話題作りに御一読を!(文・後藤銀河/写真・田中佑佳)

DMM.make AKIBA(以下AKIBA)には、次世代を担うmakerやアーティストたちを支援するSCHOLARSHIP(スカラシップ)制度があり、これまでのインタビューで紹介してきた「ロボティクス・ファッション・クリエイター きゅんくん」氏や「合同会社techika 代表 矢島佳澄」氏など制度通しAKIBAを活用している。そのスカラシップ生として活動しているアーティストの1人に「スクリプカリウ(Scripcariu)落合安奈」氏がいる。写真や映像などを用いたインスタレーションを発表し、国内外で話題を集めている。
2019年6月に開催した展示会では、既存の作品をさらに完成度を高めて展示するべく、ギミックの再設計をAKIBAの開発受託サービス・テックオーダーに依頼、そうした背景も含めて今回お話を伺った。

●SCHOLARSHIP制度
https://akiba.dmm-make.com/about/scholarship

<プロフィール>
スクリプカリウ落合 安奈 (すくりぷかりうおちあい あな)

現代アーティスト。フランスのシャンボール城(世界遺産)、ベトナムのホイアン(世界文化遺産)、韓国の大邱大学校国際交流展、逗子トリエンナーレ、スパイラル主催の「Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる」東京・京都の二会場巡回展など国内外で作品を発表。「土地と人の結びつき」や、「民間信仰」についてのフィールドワークから、「 時間や距離、土地や民族を超えて物事が触れ合い、地続きになる瞬間」を紡ぐ。オブジェや写真、映像など様々なメディアを用いたインスタレーション作品を発表。1992年生まれ。埼玉県出身。2016年に東京藝術大学油画専攻首席、美術学部総代として卒業。同大学彫刻科博士課程に在籍。

――AKIBAのテックオーダーに作品の再設計をご依頼いただきましたが、具体的にどのようなものだったのでしょうか?

現在、東京藝術大学大学院 美術研究科に在席する落合氏。AKIBAのスカラシップ生でもある

落合氏:私は現代美術家として活動しながら、東京藝術大学彫刻科博士課程に所属していますが、最近では写真をベースにしたインスタレーションなどを制作しています。今回、東京都美術館で「都美セレクショングループ展2019 『星座を想像するように-過去、現在、未来』」という展覧会があり、それに合わせて展示に使うギミックのブラッシュアップをお願いしました。

――どのような作品なのか、ご紹介いただけますか。

https://www.youtube.com/watch?v=QeXDHM81B3Y

"Intersect" 横切るーくぎるー交わる 2017年

落合氏:これは3年前に初めて発表した【Intersect】という作品です。天体の回転をイメージしたもので、日本とヨーロッパで収集した古いガラス絵を幻灯機を使って映し出し、ぞれぞれ異なる速さで回転するようにしています。

この作品では、幻灯機用のガラス絵に描かれた歴史の断面としての過去のイメージが時間を超えて、日本とヨーロッパという距離も超えて、偶然に集合することに意味を置いています。それぞれのイメージが重なり合うことが大事な作品で、その重なりを衝突として捉えるのか、融和として受け止めるのか、それともビジュアルのキメラ性を視覚的に楽しむのか。隣で鑑賞する人も、実は自分とは違う価値観でみていることを、最終的には知ることができるような作品になったらいいなと思っています。

天体のように周りながら重なる映像で、衝突あるいは融和を表現

――幻灯機とはずいぶん懐かしい機械です。ガラス絵も昔のものなのですね。

落合氏:約100年前のガラス絵、半分が日本のもの、半分がヨーロッパで収集したものです。日本史の教授に見て頂いたら、明治初期のものだろうとのことでした。

ガラス絵を投影する幻灯機の改造をテックオーダーに依頼いただいた

――この幻灯機のブラッシュアップをテックオーダーされたわけですね。

落合氏:これは元々3年前に友人にお願いしてインスタレーション用に改造していただいたものです。光源を電球からLEDに変え、モーターで回転するようにしてあるのですが、展示の機会が多くて、3回4回と使っているうちに途中で具合が悪くなってしまいました。

展覧会も迫っていたので、自分で修理を試みたりもしたのですが、上手く行きませんでした。

そろそろ専門の人に頼まないといけない段階に来てしまったなと思っていたところに、AKIBAのテックオーダーを知りました。ギミックがある作品は、プロの方の作品をみていても、展示の途中で中断してメンテナンスするというのを何度もみたことがあります。専門の方に全部作っていただくのが、作品を見せる上で大事だと思い、外注という形で依頼させていただきました。

都美セレクショングループ展2019 『星座を想像するように-過去、現在、未来』での展示の様子

Intersectでは、作品が持つメッセージとして、画像の重なりが一期一会であること、いつも違う重なりが起こることが大切なので、回転するスピードをすべて変えられるようなギミックが必要になります。その要点をお伝えしたところ、光る部分と動く部分の機構を新たに提案され、全て再設計していただきました。

――ご希望には添えましたでしょうか?

落合氏)展覧会の会期の関係で急遽お願いする形になったのですが、10台を1週間という驚きの短納期で開発して頂きました。これまでは制作するのに、最低でも1ヶ月くらいかかっていたと思います。

東京都美術館での展示では、朝の9時半から午後5時半ごろまで、それを20日間くらい、ずっと連続で動かしていましたが、微調整が必要になったのは10台中1台だけでした。回転するスピードやライトの強さや設置角度も自分の思うように簡単に調整できるように設計していただいたので、精度が上がって作品に迫力が出ました。

AKIBAでは、夜通し作業することも

――AKIBAを活用しての作品作りはいかがでしたか?

落合氏:テックオーダーでお願いする前に修理について相談に行ったら、すごく詳しく丁寧に教えて頂けました。テックスタッフの椎谷さんと村田さんには、とてもお世話になりました。AKIBAに夜まで残って作業していたので、他のスタッフの方にもずいぶん気にかけられ、教えていただきました。作品を納得いくまで始発が来る時間まで作ったりと、AKIBAはガッツリ利用しています(笑)

初めはテックスタッフに教えてもらいながら幻灯機を自分で修理していたという

――AKIBAを知ったのは、どのような経緯からですか?

落合氏:クマ財団(学生クリエイター支援と育成のための奨学金制度)の1期と2期で採用していただいて、そこでAKIBAのことを知りました。私はギャラリーに所属していて、作品を販売する機会もありますが、作品が人の手にわたることを考えると、ものとしての精度もとても重要になってきます。キャリアをステップアップするために、もっと専門知識のある方の話を聞いて、ブラッシュアップしていく必要があると思い、AKIBAでいろいろ教えていただきたいと、スカラシップに応募して、採択していただきました。

――アーティストとして、モノづくりの知識も必要になるということなのですね。

落合氏:東京藝大の油画専攻から、修士課程の彫刻専攻に進んだ理由もそこにあります。油画科は自由度が高いので、想像力や表現力など思考方法や表現者としての能力を鍛えることができます。それに、物作りに対する態度などが近い人が集まってくるので、とても居心地が良いんです。

でも油画科にいて困ったのは、特に大きい作品を作るとき、設計や構造の強度などを気軽に相談できる窓口がないことです。その点、彫刻科は石とか木とか、重心とか重力とかを専門にされている方も多いので、大きなインスタレーションを制作するための知識や技術を身につけることができます。

相談できる場所があることで、安心して制作に取り組める

落合氏:東京藝大では、木工の先生や写真の先生に教えていただくことができますが、それも修士課程の3年が終われば、その環境もなくなってしまうので、ずっと不安に思っていました。今回、AKIBAにお世話になった経験から、卒業して自立した後でも、こういう施設、いろいろな専門の方や機材が揃った場所が近くにあるから、安心して制作に取り組めると感じています。

――今後AKIBAをどのように使われる予定ですか?

落合氏:これは最新作の【Blessing beyond the borders】です。透ける布地に、各地で撮影した信仰や神事を捉えた写真を転写して、二重らせん構造にして吊り下げています。上から見るとらせん型になっていて、中を人が巡れるように、サイズは幅10m高さ2mくらいと大きく作っています。

一方が日本で撮影した土着の景色で、もう一方がルーマニアで撮影したものです。鑑賞する人が中に入っていくと、中央に電球がひとつだけあるんですが、そこまで行くと逆戻りして、違う出口から出てきます。異なる文化に挟まれながら歩いていくことで、遠く離れた異なる民族の文化がミルフィーユのように重なり合った新しい景色が生まれるという作品になっています。
このサイズでは展示する場所や機会が限定されてしまうので、新しい可能性を探る試みとしてAKIBAのUVプリンターを使って、もっと小さいパッケージで再現できるようなものを作りたいと思っています。

2つの母国、日本とルーマニアに根を下ろしたいという想い

――作品についてお尋ねします。これは日本とルーマニアで撮影されたのですね。

落合氏:私には日本とルーマニアという2つの母国があります。3年くらい前から、「両方の母国に根を下ろしたい」という意識が芽生えてきて、どうしたらそれが出来るのかを考えるようになりました。それぞれのコミュニティの特殊性や、その土地や民族の哲学というものが、土着の祭や信仰の中にあるように感じて、それを紐解くことが母国に根を下ろすことになるのでは、という想いから、プロジェクトを始めました。

「土地と人の結びつき」について現地で調べ、自分で撮影した

落合氏:「土地と人との結びつき」がテーマになっていて、日本とルーマニアの祭り、行事、儀式などを取材し、写真に収めてきました。現地の人と対話をしながら、コミュニティの外からコミュニティの文化の核心をみたときに、どうしても理解ができない部分があります。例えばどうしてそうゆうことに命をかけたり、時間をかけたりするんだろうと感じることを、現地の人と対話して紐解いていくことで、その土地に根を張ることに繋がるのだと思います。

背景として、コミュニティ間の摩擦や、マイノリティに対する差別、偏見への関心があります。そうしたものを超えていく方法が、自分のコミュニティの文化の自覚だとか、相手のコミュニティの文化が異なることを理解することなんじゃないかなと思っています。

祭など土着の信仰に触れ、写真に撮り、それを多くの人と共有していくことで、作品を鑑賞する人が自分のコミュニティの文化へと立ち返ったり、異文化との共存ついて想い巡らせるきっかけとなったらいいなと思います。

――今後どのような活動をお考えですか?

落合氏:将来的に、何年かかるかわかりませんが、国際美術展「ベネチアビエンナーレ」に出ることがひとつの目標です。これまでの展覧会で、作品を鑑賞してくれた人の反応によって、作家自身の価値観も広がっていくように感じています。もし美術作品が無かったら、今の自分の精神性や哲学は構築されていなかった。人に見てもらって、反応が返ってきて、それで自分もレベルアップできます。価値観が高まることで、今までに無かった視点を得られるという実感があります。

50歳までに「ベネチアビエンナーレ」に出展するのが目標と語る落合氏

落合氏:世界的な美術展であれば、世界中の人に自分の作品を観ていただけて、世界中からフィードバックが返ってくるんです。自分の価値観の拡張や、新しい視野の獲得には終わりはないと思いますし、作品と共に、色々な人々に出会い続けることで、自分自身も変わっていきます。そして作品を見てくれた人に、その体験を通して何か良い方向に動いていくきっかけを作りたいというのが、私の願いです。

アート作品では、ビジュアルランゲージで人に伝えるということがすごく大切です。体感で伝えることを重視しているので、自然と人の身体より大きいサイズの作品が増えてきます。
次のステップとして、自分のイメージを現実空間に出現させて、それを海外の展示会で発表するためにも、ギミックを完全に仕上げることや、分解して運搬する方法、それに作品として販売できるクォリティに仕上げることなど、多くのことを学びながら活動していきたいと思っています。

編集後記

今回の展示会に向けてテックオーダーいただいた「Intersect」をはじめ、彼女の作品をみていると自分の人生を振り返って見つめなおしてみたくなるような引力があるように感じました。普段は感覚としてしかない「時間」を視覚的に感じられたことで、自分の時間を考えるきっかけとなったのかもしれません。

インタビュー中にも彼女が撮った様々な写真作品を見せていただいて、写真そのものの魅力はもちろん、様々なインスタレーションを通して伝えることでより作品の奥底にある本質的なものが見えてくるようです。50歳までに「ベネチアビエンナーレ」へ......とかかげられている目標ですが、その達成はもっと早いのでは......AKIBAスタッフ一同、楽しみにしています。

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