ベアフット妄想拡張講座 0話「ストーリー指向のMaking(前篇)」

ベアフット妄想拡張講座 0話「ストーリー指向のMaking(前篇)」

野尻抱介
野尻抱介 (ID121) 公認maker 2014/05/15
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ギャビン・ライアルの『深夜プラス1』という冒険小説をご存知だろうか。1960年代の話で、元レジスタンスの主人公と相棒のガンマンが、訳ありの実業家と秘書をフランスの海岸からリヒテンシュタインまで護送するロードストーリーだ。

私はこの小説が大好きで、数年おきに読み返している。いつか舞台になった場所を訪ねてみたいと思うのだが、そのいっぽう、長年瞼に描いてきた空想風景が消し去られそうで怖い気もする。

日本の片隅に居ながら、私は読書体験を深めるための努力をした。それがこの「深夜プラス1なりきりセット」だ。

主人公カントンが使っていそうな革鞄に、彼の拳銃モーゼル・ミリタリーと、ガンマンの拳銃S&W38スペシャル、ミシュランの道路地図、シトロエンDSとルノー4のミニカーが納めてある。

車に乗っているとき、ガンマンはその小さな拳銃を足首のホルスターに挿している。トイガンで試してみると、確かにそのほうが抜きやすい。

なぜルノー4が2台あるかというと、そんな場面があるからだ。

主人公たちの乗ったシトロエンがフランス高地地帯の山道を疾走する。見通しの悪い峠の切り通しに、ルノー4が2台、矢印をこちらに向けた形に駐めてある。殺し屋たちの待ち伏せだ。カントンは相手の意表を突くため、アクセル全開でルノーに体当たりする。ルノーの一台は横転し、殺し屋は切り通しの上から銃撃を始める。カントンとガンマンは車を盾に応戦する。

「深夜プラス1なりきりセット」は、物語をより深く理解し、心に刻み、味わうためのツールである。

なんだ、既製品を買い集めただけじゃないか、これがMaker向けの記事なの?と思った人もいるだろう。これから説明するので待ってほしい。

人間はストーリーを必要とする生き物だ。体験を理解し記憶するとき、脳は出来事をストーリーの形に加工する。時には偽りのつじつま合わせを加えても、強引にストーリーの形にしてしまう。

街路で酔っぱらいとすれちがった時、ストーリーがなければすぐ忘れてしまう。もしその酔っぱらいが「あそこでWi-Fiの輻輳がなけりゃ…」とつぶやくのを聞けば——聞く人が聞けばだが——たちまちストーリーが浮かぶだろう。彼は大きな展示会で、無線デバイスをデモしようとして失敗し、やけ酒を飲んだのだ。このストーリーが浮かべば、彼のことは深く記憶に刻まれ、親しみさえ覚えるかもしれない。

テレビのドキュメンタリー番組と称するものが、しばしば美しいストーリーを持っていて、そのために事実から逸脱するのも、視聴者に強い印象を刻もうとするディレクターの意図があってのことだ。

映画で見た料理を食べるのも、宇宙飛行士の使った腕時計を身につけるのも、そこにストーリーがあるからだ。

おそらく、我々の脳には「ストーリー型」というデータ構造があるのだろう。どんなに面白い作品も、ストーリーを持たなければ、人の心に響かない。どんなつまらないものでも、ストーリーを備えれば面白くなる。

ネットで活動しているMakerの皆さんは、自分の作品が少しでも多くの注目を集めたい、ページビューを稼ぎたいと願っていることだろう。その秘訣はストーリーの付与だ。それがすべてとは言わないが、技術、センスの次ぐらいにはストーリーが来るだろう。

私は(寡作で申し訳ないが)小説家のはしくれだから、ストーリーの構築についてなら語れることがある。この連載では、Makerに向けた、Makerにぜひふまえてもらいたい、ストーリーのなんたるかを語ろうと思う。

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