ベアフット妄想拡張講座 0話「ストーリー指向のMaking(後編)」

ベアフット妄想拡張講座 0話「ストーリー指向のMaking(後編)」

野尻抱介
野尻抱介 (ID121) 公認maker 2014/05/22
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2007年、私はMakerであることを自覚し、オースチンのMaker Faireに一般参加した。相前後して、ニコニコ動画で始まっていた初音ミク・ムーブメントに加わるべく、ニコニコ技術部で活動を開始した。「先生なにやってんすか」と言われたが、私はストーリーを小説以外の形態で表現することに意義を感じている。Makeとは表現芸術のひとつであり、小説と同列に扱えるものだ。

ニコニコ技術部はストーリー指向のMaker集団である。初音ミクがネギ振り属性を持ったとみれば、それを実体化する。きのこの山・たけのこの里戦争の勃発をみては、画像認識を使った選別装置を開発する。艦これが流行すれば、飛行甲板に艦娘を描いた空母を組み立てる。

ニコニコ技術部員が求めるのはウケであり、ストーリーを持った作品はウケを取りやすい。よくウケた作品はN次創作を喚起する。N次創作は原作者の予想を超えた展開を生むから、巨大な可能性を持っている。ちょっと宣伝させてもらうと、その可能性がついに宇宙文明にまで結びつくストーリーが拙著『南極点のピアピア動画』( http://dic.nicovideo.jp/a/南極点のピアピア動画 )というわけだ。

昨年8月、私はTwitterでの評判に押し切られた形で、ブラウザゲーム『艦隊これくしょん——艦これ』を始めた。奇しくもDMMのゲームだから、これについて語ろう。

気乗りしないで始めた艦これに、私はどっぷりハマった。これは海戦ゲームだが、軍艦は「艦娘(かんむす)」というキャラクターに擬人化されている。

戦中派二世の私は軍国的なものが大嫌いだが、艦娘は見ていて微笑ましい。ほとんどの艦娘は軍人らしさのない普通の女の子で、堤督(プレイヤー)ともタメぐちで話す。しかし、元の軍艦に起きたことを自覚的、または無意識的に背負っていて、言葉の端々にそれが現れる。それがいちいち心に染みるのだ。これもストーリーの力である。

私は以前から現代海戦に興味があって、米軍や自衛隊の艦船をこつこつ調べていたのだが、艦これでは太平洋戦争の艦船を扱っている。この分野は手薄だったので、戦記を読んだりネットで調べたりした。

そこで改めて感じ入ったのだが、太平洋戦争における軍艦の戦いは実に壮麗なものだ。誘導兵器のなかった当時、大砲や直進魚雷で40km先の目標を狙おうとしたのだから蛮勇というほかない。だが、当事者たちは無知ではなかった。そのために必要な弾道学はすでに完成していて、火器管制に必要な要素はコリオリ効果や高層大気に至るまでひととおり考慮されていた。ただ、電子工学がついてこなかっただけだ。

昔の軍艦を理解すべく、私は1/700スケールのプラモデルを作った。『深夜プラス1』もそうだが、私は何かを理解しようとするとき、まず模型を用意しようとする。模型とは不思議なもので、3Dグラフィックスにはない、文字通り、掌(たなごころ)を指すようなわかりやすさがある。

プログラミングや電子工作、3Dプリンティングの得意なMaker各位に提起したいのだが、実体のある模型だけが持つ、この「わかりやすさ」「腑に落ちる感じ」の本質は何だろう? このことも本連載を通して考えたいと思う。この先紹介するのも、VRやARなどの映像技術より、実体を持った工作に軸足を置きたい。

駆逐艦、軽巡、重巡、戦艦のモデルを揃えたところで、私は横須賀港にある吉倉桟橋を同スケールで作図し、その上に並べてみた。

形や大きさの理解が目的だから、プラモデルは素組みして一色で塗りつぶしただけだし、桟橋も線を引いただけだ。あとは脳で補完する。私は作品でリアルを追求するより、脳での補完を楽しむたちだ。

吉倉桟橋は現在、海上自衛隊が使っている。横須賀基地が一般公開されると、吉倉桟橋につながれた艦船を見学できる。

吉倉桟橋は安針台公園というスポットから一望できる。

この風景を目に焼き付けたうえで、製図台の上のモデルと見比べてみよう。明るいグレーのモデルが海上自衛隊の現用艦、暗いグレーが帝国海軍艦だ。80年も前に建造された軍艦の偉容がよくわかる。また、海上自衛隊の艦船が決して見劣りしないこともわかる。

艦船はそれぞれが立派なストーリーを備えているが、さらに艦娘との絆を付与すべく、旗を掲げてみよう。全国200万人の「堤督」なら、ただちに親しみを覚えるのではなかろうか。この小さなお子様ランチのような旗は、艦娘が持つストーリーの力を分け与えてくれるのである。

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